第21話 草原は続くよどこまでも
「これは買って正解だったね」
私は今、マウンテンバイクに乗って草原を走っている。電動アシスタントが付いているので坂もらくらく進めている。草原は平面に見えていたけど、実際に走っていると丘のように登りと降りが結構な頻度ででてくる。
久しぶりの自転車だったけど、体はちゃんと乗り方を覚えていたようで難なく乗りこなせた。買った電動アシスト機能は六時間ほど充電することで百キロは使えると説明を受けた。
一日に大体どれくらいの距離を走れるかは、今日が初日なのでわからないけど今の感じだと五、六十キロは走れる気がする。買ったバッテリーは最初に付いていた一つだけだけど、私がアレクシア様にもらった倍化の能力を使って一つ増やしてみた。
試しに付け替えてみたらちゃんと使えたので、倍化の能力はチート過ぎると思った。
「そういえば、この草原にも魔物って出るのよね? 確かモーモーって言ってたかな」
「モーモーはこの広大な草原で、草を食べながら移動しているよ。どんなに強い魔物でもあモーモーの群れには勝てないと思うよ」
「それってモーモーに見つかったら危ないってことだよね?」
「モーモーはおとなしい魔物ですわ~」
「おとなしい魔物なのに、この草原の覇者って矛盾してない?」
「もし遭遇してもグランディーネがいるから問題ないわよ」
モーモーという名前から想像できるのは牛なのだけど、牛でも群れでだと確かに強いのかもしれない。牛は牛でも闘牛やバッファローみたいなのかも知れない。それなら草原の覇者なのはわからなくはないかな。
「それ以外の魔物っていないの?」
「いるわよ。さっきから何回もすれ違っているけど」
「え?」
「それにほらあそこにいる鳥も魔物よ」
シルフィーナの指差す方向に目を向けると、かなり遠くの空に鳥が飛んでいるのが見えた。
「あの鳥って結構見かけるよね。魔物だったんだ。そもそも魔物と動物の違いってなんなの?」
「この大陸には動物はいないよ」
「え、そうなの?」
「この世界の動物は魔物から魔核を抜き出して生み出すのよ。だけどわざわざそんな事をする者がいないから、この大陸には動物はいないのよ」
「よくわからないけど、魔物を動物にする意味ってあるの?」
「食べるためね」
「それって魔物は食べられないってこと?」
「この世界の人種族は魔物を食べることが出来ないのよ。だけど魔物から魔核を取り出して暫くすると魔物は動物になるのよ。そして動物なら人種族も食べることができるわ」
人種族というのは、人間、エルフ、ドワーフ、獣人などの事を指すらしい。他にも小人、ドラゴニュート、翼人、鬼人、吸血鬼、人魚などもいて、それらをまとめて人種族と呼ばれていると教えてくれた。鬼人や吸血鬼って魔物枠に思われるけど、この世界では人類種になるみたい。
「ちなみに魔物を食べたらどうなるの?」
「最悪死んでしまうわ。人類種の体には魔物の血や肉は毒なのよ。そしてその血や肉を供給しているのが魔核なのよ」
つまり魔核を魔物から抜き出すことで、そのうち血や肉が魔核の汚染から正常になって動物になるということだろうか。色々と疑問は尽きないけど、私には関係なさそうなのでそういうものだということにしておく。
なにはともあれ、魔物はそのままでは食べられないということはわかった。そもそも生き物の解体をしたことなんかないので、魔物を解体して食べてみようとは思っていなかったので問題ない。
ん? この状況って私が異世界渡りを使えなければ、まともな食事ができずに詰んでいたのでは? 仮に肉が食べたくて魔物をなんとか狩ったとしても、食べてしまえば毒にやられて死んでしまう。いやほんと異世界渡りができて良かったよ。
「一見お肉なんて食べなさそうなシルフィーナとグランディーネが、あれほどお肉を食べるのって魔物の肉が食べられないからなのね」
「え? わたしやグランディーネは妖精だから、魔物の肉を食べても平気よ。それにわたしとグランディーネの祝福を受けているオトハなら魔物の肉を食べても平気のはずよ」
「マジ?」
「マジよ」
「マジですわ~」
なんだかいらないフラグが立った気がする。いやいや、魔物の肉なんて食べないからね。
◆
ずいぶんと走った。電動アシストが優秀すぎて時間を確認したらお昼を回っていた。途中で何度か水休憩をしただけで、進みは順調だと思う。シルフィーナたちにあとどれくらいで海につくかを聞いた所、この速度なら一月くらいじゃないかなということだった。
仮に一日六十キロ進んだとして、三十日だと草原の長さは千八百キロはあることになる。数字だけ見るとめちゃ広いように思えるけど、日本列島で例えるなら北海道から九州くらいの距離がそれくらいだった気がする。
そう考えると意外と短い? と一瞬思ったけど、出発地点から西には森があるし更に北と南もある。なのでこの大陸は日本の四倍くらいはあるのかも知れない。
一ヶ月の入院生活。その後、会社を首になってからの一ヶ月半。運動らしい運動をしていなかったのと、ここ最近はシルフィーナたちに付き合う形でおいしいものを結構食べている。
体重ははかっていないけど、少し体にお肉が付いた気がする。肉体をマイナス一日にしているけど、増えた脂肪が勝手に減るということはないのは詐欺ではないだろうか? 一日戻るなら、脂肪や体重も一日戻っていいとおもうのだけど、そう都合の良いものではないようだ。
つまるところ、この自転車の旅はダイエットによさそうだということだ。それに適度な運動の後のビールはきっと美味しいはず。夜はキャンプメシを食べて、お風呂と睡眠は家で済ませるつもりでいる。
ほんと異世界渡りの能力は便利だ。これがなければこうも余裕を持って旅やキャンプをしようとは思わなかっただろうね。そもそも、あちらの世界に帰られなければ、何も知らずに魔物の肉を食べてとっくに死んでいたと思う。





