第16話 ひとりBBQ
焚き火台の上の網には既に野菜や肉が乗せられている。今日の晩御飯はバーベキューだ。焼けた肉や野菜はハサミを使って小さく切り分けてシルフィーナの皿に乗せてあげる。
「それじゃあ食べようか。いただきます」
ひとり焼き肉というものを一度はやってみたかった。まあ今回はバーベキューだけど。好きな具材を好きなだけ焼いて食べられるというのは、なんとも言えないほどの贅沢ではなかろうか。
空いたスペースにはすかさず次の肉を置いて焼く。その間に焼けた肉と野菜を食べる。カルビにステーキ、豚バラと鶏のもも肉、ソーセージに味付ホルモン。とうもろこしに玉ねぎやキャベツ。今回は海鮮はなし。そしてビールがおいしい。
ちょっとひとりで食べるには多かったかもしれないけど、用意していた具材は食べきった。シルフィーナも堪能したようで、満足そうにしているようにみえ……ん?
「あれシルフィーナが増えてる?」
よく見るとシルフィーナとは髪の色が違う。シルフィーナは緑色の髪色をしているのだけど、いつの間にか増えていた妖精の髪色は茶色だった。
「うふふ、ようやく気がついたみたいですわ~」
そういった妖精の口元は焼肉のタレで汚れていた。
「あなたは?」
「わたくしはグランディーネですわ~。そこにいるシルフィーナの同僚ですわ~」
よく見てみるとシルフィーナとは髪の色以外にも違う場所があった。グランディーネと名乗った妖精の羽は、シルフィーナのトンボのような羽ではなくセミのような形をしていて透明な羽をしている。
「おいしかったですわ~」
「おそまつでした?」
食器類を片付けながら話を聞いてみると、ここ何日かシルフィーナの姿を見かけなくて探していたのだとか。そしてさきほど私たちがバーベキューをしていた所にでくわしたらしい。
「いつ気がつくのかと思っていましたわ~。ぜんぜんお気づきにならなかったですわ~」
「あはは、食べるのに夢中で気にならなかったのもあるけど、辺りももう暗いからね」
とっくに日は落ちて辺りは青い月の光が照らしているだけだ。焚き火台で燃えている薪の光はあるけど、暗いことには変わりがない。
「あ~、グランディーネがいる~。いつのまにきたの~?」
相変わらずお酒に弱いようで、ビールをせがまれ飲ませた所酔っ払っているようだ。どうやら途中で酔っ払って寝てしまい、グランディーネが来たことに気づいていなかったみたい。そしていつの間にか入れ替わっていたことに私も気がついていなかったということになる。
妖精と出会ったのはシルフィーナだけだったので、他にも似た姿の妖精がいるという可能性を失念していた。
「おいしいものをいただきましたわ~。お礼としてわたくしも祝福をお贈りさせていただきますわ~」
グランディーナはそういって浮き上がると。私の額にチュッと唇を付けた。
「どういった祝福なの?」
シルフィーナからもらった祝福は、多言語理解とでもいっていい物だった。ただし文字は対象外で会話が理解でき、話せるというものだった。
「わたくしの祝福は、護りの力になりますわ~」
「護り?」
「ええ、あなたさまが大地とともにいる限り、あなたの身は大地によって守られますわ~」
大地とともにとか大地に守られるというのはよくわからないけど、体が頑丈になったとでも思えばいいのだろうか? まあどんな効果だろうと、もらえるものはもらっておく。
「悪い効果はないのよね?」
「ありませんわ~」
グランディーネは、ほわほわーとした笑みを浮かべている。
「グランディーネもビール飲んでみる? 飲んでいいのならだけど」
私はクーラーボックスから三本目の缶ビールを取り出してプルタブを上げる。
「わたしものむ~」
酔っ払っているシルフィーナが要求してきた。そのシルフィーナを見てグランディーネは、首を傾げたあとに「いただきますわ~」といった。
シルフィーナ用に用意しておいたペットボトルのキャップにビールを注ぎ、私は直接缶に口をつけてビールを喉に流し込む。シルフィーナとグランディーネは二人並んでキャップに顔を入れてビールを飲んでいる。
「これは変わった味ですわ~」
「ふわふわ~」
シルフィーナは更に酔ったのかその場に座り込んで楽しそうに笑っている。一方のグランディーネは全く酔っていないように見える。
「グランディーネはビールを飲んでも酔わないみたいね」
「うふふ、そうみたいですわ~。よろしければお代わりをいただきたいですわ~」
いつの間にかキャップの中は空になっていた。その後も何度か要求されたけど、グランディーネは全く酔う様子はなかった。どうやらグランディーネはお酒に強いみたい。グランディーネという名前と、大地の祝福といっていた事からグランディーネはさしずめ土の妖精なのだと思う。
土や大地に関連してお酒に強いとなると、ドワーフとなにか関係がある妖精なのかもしれない。
「あー、私もちょっと酔ってきたみたい。片付けは明日にするから今日は戻って寝ることにするね」
「おいしいものをいただきましたから、この辺りのかたずけはわたくしがしておきますわ~」
「そう? それじゃあグランディーネお願いするわね」
「任されましたわ~」
私はなんとかテントの中に入ると、家に帰る事をイメージしながら入口を閉めた。今はまだどのような危険があるかわからない異世界で一晩過ごそうとは思えない。シルフィーナがいれば危険はないとは思うけど……。
そんなシルフィーナをあちらの世界に残したままだったことに気がついたのは、翌朝のことだった。





