第11話 ふわとろオムライス
「おっきいわね」
高さは七メートルくらいあるだろうか。家が平屋だったからシルフィーナにとっては大きく見えるのだろう。
「家ができた頃は米倉として使ってたらしいよ」
祖父の代になってから農業をやめたためそれ以降は倉庫として使うようになったと聞いている。中には昔の書物とか古い農機具なんかが入っていたはずだ。そんな中に私のアーチェリー道具をいれているか疑問ではあるけど、家の中にないのならここしか考えられない。ここになければ新しいのを買えばいいだろう。
南京錠の鍵を開けて蔵の扉を開ける。少し錆びているためかギギギと音を鳴らして扉が開く。後で防錆潤滑剤でもつけておこうと思う。開いた扉から中を覗くと薄暗くて奥まで見えない。あとは埃っぽい。
「まずは軽く掃除をしたほうがいいかな」
「そういうことなら任せて」
シルフィーナが浮いたまま蔵の中へ入っていき、中央辺りにたどり着いたところで止まる。そこで、シルフィーナはすっと手を挙げる。するとシルフィーナの上の方に埃が集まり始めた。
「オトハそこをあけて」
入口から中を見ていた私はそこからどくように横へ移動する。それと同時に埃の塊が入口から外へ飛んでいった。
「今のは魔法?」
「そうよ。風を回転させることで埃を集めたのよ」
「便利な魔法だね」
確か蔵の電気のスイッチはこっちだったかな。入って左手の壁を手探りする。
「あった」
スイッチを押すと何度か点滅した後電気がついた。
「なんだかいっぱい荷物があるね」
「かなり歴史を感じさせる物もありそうだけど、今はアーチェリー道具を探さないと」
「黒いバッグだったよね」
「うん。あるとしたら一階にあると思う」
「わかったわ」
しばらくシルフィーナと探していると、探していたバッグを見つけることができた。バッグを開けてみると高校時代に使っていたリカーブボウが出てきた。とりあえず今は出さないでボウケースにいれたまま外へ持ち出す。
「こんど改めて掃除と整理したほうがいいかもね」
「なんだかわからないものがいっぱいあったね」
古い本や巻物なんてものもあった。試しに本を開いてみたけど昔の文字で書かれていて読めなかった。他にも御札が一杯張られた箱とか、やたら髪の長い日本人形なんかもあった。今は関係ないので見なかったことにしておこう。
電気を消して扉を閉め南京錠をかけて戸締まりをする。ボウケースをもって家に戻る。中身を確認する前にそろそろお昼になるのでなにを作ろうか?
◆
「お昼なにを作ろうかな」
「これ、これがいい」
そう言ってシルフィーナが差し出してきた小さいスマホにはオムライスが映っていた。
「オムライス?」
「このふわとるオムライスが食べたい」
「作ったこと無いから作れるかわからないけど、それでもいいなら」
冷蔵庫を確認。卵はある。鶏肉も残っている。玉ねぎもまだ残っている。朝しかけていたご飯も丁度炊けたようなので問題ない。スマホを取り出してふわとろオムライスのレシピを確認。
鶏肉を切って、玉ねぎをみじん切りにする。フライパンに油を敷いて熱したあとに鶏肉を入れて炒める。その後玉ねぎをいれて炒める。鶏肉に火が通ったところでご飯を入れてケチャップいれて炒める。
ケチャップとご飯を混ぜながら塩と黒こしょうで味を整える。途中で少しだけ味見。大丈夫そうだ。できたチキンライスをお皿に盛っておく。
用意しておいたボウルに三つの卵と牛乳に塩を少し。しっかりと黄身と白身を混ぜ合わせる。フライパンにバターを入れて熱した所に卵を入れて菜箸で混ぜながら半熟になるように火を通す。菜箸で卵をオムライスの形に整えて、フライパンをトントンフライパンしてつなぎ目が真ん中あたりに来たところでひっくり返す。
ここで失敗したら悲惨なことになるが、うまくひっくり返すことができた。すこしトントンしながら裏側のつなぎ目があった場所を火を通して閉じる。フライパンを再びトントンしながら菜箸でオムライスを回転させて、先程閉じたつなぎ目が上に来るように調整する。
「これで大丈夫かな」
軽くフライパンを降ってみると、卵がぷるぷる震えている。これで中は外はふっくら中はとろとろの卵ができたはず。そのまま先程のチキンライスの上にそっと置いて完成。
レシピを見ながらだけど初めて作った割にはいい出来ではないだろうか。完成したオムライスとインスタントのスープ、それからトマトケチャップ。ナイフとフォークにスプーンをお盆に乗せてシルフィーナがいるテレビのある部屋へ向かう。
「シルフィーナおまたせ。これでいいかな? うまくできたと思うけど」
「すごい、この動画そっくりね。これにナイフをいれたら中のトロッとしたのがでてくるのね」
「たぶん、ちゃんとできていたならそうなるかな?」
「ねえ、早く早く」
ナイフを手にとりそっとオムライスのてっぺんを切っていく。
「うわーすごい。すごくおいしそうね」
裂けたてっぺんから両開きに中身が溢れ出す。すごくとろとろだ。
「ねえもう食べてもいい?」
「少しだけ待ってね」
ケチャップをオムライスの上からかけると、とろとろの卵と一緒に流れていく。
「はい、いいわよ」
シルフィーナは手にマイスプーンをもち、とろとろの卵を食べ始める。
「いただきます」
私もスプーンを手に持ち、シルフィーナがいる反対側を崩すように中のチキンライスと卵を一緒にすくい口へ運ぶ。
「うわ、すごくとろとろ。それに甘い」
「あーオトハずるい。わたしも中のご飯といっしょに食べたい」
「じゃあ、こっちの方を食べていいよ」
シルフィーナが私が先ほど食べた場所へやってきてお米にとろとろ卵を絡ませてたべている。表情を見るにすごく幸せそうだ。
「ごちそうさま」
「オトハおいしかったわ。また作ってね」
「気が向いたらね」
食器を洗って片付けを済ませる。
「さてと、お昼からどうしようかな。先にアーチェリーの道具を確認するか買い物に行くか」
お昼も青野菜を食べてないわけで、忘れないうちに先に買い物をしたほうがいいかもしれない。アーチャリーの道具をチェックするのは夜でいいかな。
いやその前に試したいことがあった。今から買い物に行くとバタバタしそうだし、早めにあれを試してみたい。それは何かというと、魔法だ。





