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⑧天使の楽園:シフリール編  作者: 邑 紫貴


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七章:変化


「リル、任務は覚えている?俺は、その為にここに来た。君もその為に、ここにいるんだよ。」

ラファエルの自然と心に入る声……

この声だった?分からない……ただ、任務。

遂げなければならない大切な決意。

そう、最重要事項。

身近にいる……愛しいラファエルと共に……

この大きな羽で。いつまでも一緒……その愛しいラファエルを見ているのに……

何かが違う。

「君の胸に、矢が刺さった。覚えている? 俺の不注意だ。君のその羽は……」

「リルのものじゃない! 」

ラファエルの言葉を遮り、私を引き留める力の源が叫んだ。

視線を上に向ける……私を見つめるこの瞳……

【ドクッ……ン】

この腕……知っている。

イズミと呼ばれていた彼は……記憶に……っ!!

激しい痛みが、思考の邪魔をする。

彼から視線を逸らして、自分に言い聞かせるように言葉を出した。

「分かってるわ……。願ったの。大きな羽が欲しいと……私の羽は小さく、脆く……何も出来なかった。そんな羽を、認めるように、大切にするようにと教えてくれた。だけど……ね?あなたのためよ……ラファエル……」

痛い……保たれていた思考さえ、遮るような頭痛が襲う。

「……ラファエルの為……か。」

イズミの消えてしまいそうな声が、痛みを和らげた。

もう一度……視線を向けると、今度は泣きそうな微笑みを私に見せる。

……どうして、そんな表情をするの?

「『リル』っ!! あたしには、何が起こっているのか、全然わからないけど……本当に『ラファエル』の為? それだけの為の羽?」

彼女は……

ワタシがいる……ワタシが、必死で問う。

何が起こっているのか……分からない。

本当に、彼の為?それだけ……?一緒に……共にいる彼の為?

……大きい必要がある?あなたは、小さい羽を否定しないのに……

必死で私に問うワタシ……答えは、私の中にある……?

「彼の……為。そうよ、ラファエルの……。この想いは、ずっとずっと昔から……? 」

胸が痛む……ほんの少し得た温もりも奪うような、冷たい痛み。

「リル……」

名を呼んだラファエルに、視線を向けた私への困惑の表情……

この想いは、本物よね?この感情も、あなたに向ける……

「サラカ!」

上からの声に、違う痛みが生じた。

【ドク……ンッ】

イズミの腕が、緩んで……イズミが、私以外の名を呼んだ。

優しく、たくさんの人に注いできた笑顔で……

知っている。自分だけが得ることを望んだもの……それを、また……

サラカに向けて、話しかける。


「大切な想い……。リルの羽は、元に戻す!サラカ、君と出逢えて良かった。君は、俺の関わらない『未来』愛しさの───。ラファエル。お前が護りたいのは、何だ?『未来』を揺らすなら、赦さない。」


イズミの表情に、目が離せない。

彼女への笑顔が一変し、憎悪に近い視線がラファエルに向けられる。

【ズキッ!!】

胸が……苦しい。

イズミは、この力の内に私を止めながら……

私以外を想って、出逢いを……未来を語る。

「未来を揺らすつもりはない。護りたいものは、ある。その為に、ここにいる。」

ラファエルの凛とした声。

ラファエルの姿勢や声は、すべてを拒絶したかのような……感情を読み取らせないもの。

知らない……違う。ラファエルじゃない……

「嫌……冷たい痛みが、襲う!!」

イズミの私を支える腕に、力が入る。

その力は、記憶の……安堵に覚えがあるもの。

「っ!!……ラファエル、知っている情報を言え!!早くしろ!!!!」

必死なイズミ……

何か……震えが止まらない!?

胸の痛みが冷たさに、全身が凍るような感覚。

その感覚も徐々に無くなる。

意識も……

怖い!

ラファエル……お願い、私に刺さった矢の抜く情報を頂戴!!

「資料館で、弓矢の情報を得た。ただ、抜き方が分からない。キューピッドに与えた弓矢は未来を左右する力。『神器』。決定権は、不変を覆す。それを受け継いだ二つの不滅性。不変に未来は揺らぐ。」

抜き方が、分からない?

ラファエルの視線は、サラカに向けられる。

彼が想いを抱き、任務を果たしたいと願う相手……

サラカだけを見つめ、情報を伝える。

「俺の知っているのは、2つの不滅性の1つが、動く。任務は、見届けて、時が来たら……」

ラファエルが言い終わったと同時……


【時が来た】


聞いたことがある声……それが頭に響く。

その響きが増し加わって、今までとは比較にならない痛み。

「……ぁ……ぐっ……はぁっ……はっ……」

私は力が入らず、支える腕……イズミに寄り掛かった。

「「リルッ!!」」

重なる声……ラファエルと……

私の求める あなたの声……あぁ、あなただ……イズフィー……

愛しい……イズフィール。

会えた……会いたかった。最後に、私の想いを伝えられる……?

言葉よ、出て。お願い……

今は、大きな羽もいらないと言えるわ。

伝えたいのは、私の想い。

本当の気持ち……素直に……

「うぅっ!! 私は……私は、欲しかった。護るために、強くなるために。……っ!! あなたを、失いたく……ない……から。あなたを、探しに……行く為……だったのにっ……痛い、揺れる。いや…… 」

背中の羽が熱い……

違う、その色じゃないの……

「くそっ!! 抜き方が…… 奴は、俺の記憶にあると言った。リル、いいんだ。それで……。だから苦しむな。ラファエルだけを……見てろ。」

違うの……

「……愛しているわ。イズフィール……」

「……ッ!!」

イズフィール……どうして、泣きそうなの?

「リル……シフリール。俺は、この世界にはいられない……君には、別の未来とコがあるんだ……」

……え?……

あなた以外との未来?別の天使とのコ……?

「サラカッ!!」

遠くで、ラファエルの叫び声が聞こえたけど……意識は遠のく。

「……どうしてだ?未来は、俺が関わらない。なのに、君のコが消えかけている!?リル、しっかりしろ!!君のコが消える!!未来を護って……くそっ!!矢が刺さったのは、どこだよ!!」

いきなり体勢が変えられ、服の破れる音……

「……んだ、これ!?二度と触れられないなら……赦せよ!」

イズフィールの唇が、胸に触れた。

そこから温もりが広がり、湧き上がる感情が私を包んでいく。

彼が触れたところには光が満ち、全身に……

そして、羽へと広がった。

私から冷たい痛みが消え、身体から矢が浮き上がる。


『よく頑張りましたね。さぁ、あなたたちの未来の欠片を救いなさい……』


ミカエル様の声が聞こえた。

イズフィーは、戸惑い私を見る。

時間はない!!

私は彼を残し、私たちのコの許へ飛んだ。

大きな羽を広げて……色の変化も分からず……

羽ばたかせ、叫んだ。

「サラカちゃんっ!」

私たちのコ……

未来は、私が護る。

導くわ……私に必死で伝えてくれたように……

「大切なものは、心の中にしまっておくだけでは、駄目なの。伝えて……。サラカちゃんは、何を護っているのか。私の胸の矢は、イズフィーが抜いてくれたわ。私の大切な……へ?」

会話の途中、私の両羽の間に顔をうずめる感覚。

「んっ!?」

まだ、大切な言葉の途中なのに……

「イズフィー、私たちのコが……」

大変な時なのに??

身を逸らした私の口に、イズフィーはキスを落とす。

深い……キス??

見られてる……目の端に、サラカちゃんとラファエルの姿。

茫然としてますよ??

「……んんっん~~~~??」

激しいキスに、イズフィーの眼は今までに見たことのない色気。

羽に何度も触れ、髪に指を絡ませる。

「……んっ、んんん~~!?」

抵抗はむなしく……

目が回りそうな私の身体を支え、満足したかのように唇を解放する。

そして、イズフィーは最高の笑顔で微笑んだ。

「へへ?未来は、俺達の愛が作るんだろ?手っ取り早くて、良いかと思ったんだ♪」

サラカちゃんの存在は、私たちの想い……だけど……けど!!

「だからって、何も……」

茫然としていた二人に、何の説明もなく……

私は、視線を二人の方に向けた。

すると……サラカちゃんが、ラファエルに抱き着いたところを目撃♪

「……あら?ふふ……イズフィー、どうする?彼氏がいるわよ♪」

ラファエルの想いは、私たちのコを護るために任務を引き受けた。

ラファエルの想いを知ったサラカちゃんは、大きな羽を広げ……笑う。

サラカちゃんも、大切な相手を想い……愛しさに、未来を抱いて。

そんな様子を二人で見ていたのに……

イズフィーが、私の羽を執拗に触る。

……と、言うより……撫でまわす感じ??

ドキドキする……

そんな私の感情より、コが気になるのかな……

ん?意地悪な表情……??

「くすくすくす……今日は、許してやるよ?」

視線をラファエルに向け、何かを企むように言う。

「今日は??」

私の疑問に、イズフィーは幸せそうに笑う。

「うん、だって……コを作らないと、あいつの相手はいないわけだろ?くくくっ……」

そして、また……私に甘いキスを落とすの……

特別な笑顔を、私だけに向け……囁く。

「愛しているよ……」



【サワサワサワ……】

穏やかな風を運び、すべてを清浄するような空気……

「変化を、試練を。よく乗り越えましたね。」

見守ってくださっていたのは、やはり……

「ミカエル様!」

叫んだ声は、4人が同時で……重なり合う。

風と同じ穏やかさの微笑み。

まるで光をイメージするような顔立ちは、癒しが伴うかのように心を惹きつける。

その存在は、誰にも超えることが出来ない高貴……

私たちを圧倒する。なのに……イズフィーの手が、羽に触れたまま……

あぁ、イズフィーも圧倒されて動けないんだ。

羽を少し、動かしてみる……

【ビクッ】

驚いた顔で、私を見つめ……自分の手の位置に、慌てる。

そして姿勢を正し、ミカエル様に真剣な視線を向ける。

「護るべきもの。それを見つけた時、精神は解放されるのです。『羽は、あなた達の心です。精神であり、思考ではない。』それを理解出来るのは、均衡を保つ対を持つものだけ。今なら、理解出来るでしょう。」

均衡を保つ対……?

私は、イズフィーに視線を移す。

イズフィーは、微笑んで額にキスを落とした。

……羽を撫でながら……色気をまとう視線。

イズフィーが言った。

未来に関わらないと……

あなたの任務。離れる時が来るんだ……

一緒の場所にいられない時期が……それでも未来の欠片は、私たちの想いが紡ぐ。

イズフィール……存在意義を、私に求めて。私がいない場所でも。

私も求めるわ……あなたの中に存在意義を……

未来の欠片が共にいるから。護るから……


ミカエル様は、私たち4人に……それぞれ視線と微笑を与え……

目を閉じ、上に顔を向けた。

私たちの上に、光が注がれる……


「扉を開きます。自分たちの世界へ。」


ミカエル様の声と共に、扉が現れた。

「サラカ!」

イズフィーが、サラカちゃんに抱き着く。

「うひゃっ!」

サラカちゃんは一瞬、驚いたみたいだけどイズフィーに腕を回した。

イズフィーは、知っているんだ……任務を。

サラカちゃんも、私の知らない何かを知っている。

何かを、未来に感じているんだ……

「さよなら。イズミ。」

悲しそうなサラカちゃんに、人懐っこくイズフィーが微笑む。

「さよならじゃないよ。俺たちは、絶対会えるんだ。だって──」

【グイッ】

ラファエルが、イズフィーからサラカちゃんを引き離す。

ずっと、黙っていた……と、言うより……目の前の光景が信じられなくて、どう行動していいか……思考が止まっていたのね……きっと。

「ストップ! はい、そこまで。帰るぞ、サラカ。」

嫉妬が可愛いわね……相手に、余裕がなくなるなんて。

サラカちゃんが、可愛いからね♪

イズフィーも、最後の抱擁を邪魔されたからショックが……あれ??

「ちっ。お前になんかに、サラカは渡さない。覚えておけ。なんつったって、俺はサラカの……ふふふふ。」

イズフィーは、ニヤリ顔。

余裕の意地悪な……楽しそうな微笑み。

ラファエルも、大変ね……全く……

未来を不安に思うのは、私の悪い癖ね。

あなたと共になら……乗り越えられるよね!!

勝ち誇ったイズフィーと、たじろぐラファエル……しょうがないんだから。

サラカちゃんは、不思議そうに二人を見ているし。

イズフィーの片方の羽を引っ張り、サラカちゃん達に微笑を向ける。

「サラカちゃん! ラファエル! 未来で、仲良くね。」

ラファエルは、慌ててサラカちゃんの手を引いた。

「サラカ、行くぞ。」

扉の中に入る二人……

私とイズフィーは、見つめて微笑み……同時にサラカちゃん達を見送る。

また、会いましょう……

「「愛しさの欠片」」


扉の向こうに消える二人の姿を……私たちは寄り添って見続けた……






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