七章:変化
「リル、任務は覚えている?俺は、その為にここに来た。君もその為に、ここにいるんだよ。」
ラファエルの自然と心に入る声……
この声だった?分からない……ただ、任務。
遂げなければならない大切な決意。
そう、最重要事項。
身近にいる……愛しいラファエルと共に……
この大きな羽で。いつまでも一緒……その愛しいラファエルを見ているのに……
何かが違う。
「君の胸に、矢が刺さった。覚えている? 俺の不注意だ。君のその羽は……」
「リルのものじゃない! 」
ラファエルの言葉を遮り、私を引き留める力の源が叫んだ。
視線を上に向ける……私を見つめるこの瞳……
【ドクッ……ン】
この腕……知っている。
イズミと呼ばれていた彼は……記憶に……っ!!
激しい痛みが、思考の邪魔をする。
彼から視線を逸らして、自分に言い聞かせるように言葉を出した。
「分かってるわ……。願ったの。大きな羽が欲しいと……私の羽は小さく、脆く……何も出来なかった。そんな羽を、認めるように、大切にするようにと教えてくれた。だけど……ね?あなたのためよ……ラファエル……」
痛い……保たれていた思考さえ、遮るような頭痛が襲う。
「……ラファエルの為……か。」
イズミの消えてしまいそうな声が、痛みを和らげた。
もう一度……視線を向けると、今度は泣きそうな微笑みを私に見せる。
……どうして、そんな表情をするの?
「『リル』っ!! あたしには、何が起こっているのか、全然わからないけど……本当に『ラファエル』の為? それだけの為の羽?」
彼女は……
ワタシがいる……ワタシが、必死で問う。
何が起こっているのか……分からない。
本当に、彼の為?それだけ……?一緒に……共にいる彼の為?
……大きい必要がある?あなたは、小さい羽を否定しないのに……
必死で私に問うワタシ……答えは、私の中にある……?
「彼の……為。そうよ、ラファエルの……。この想いは、ずっとずっと昔から……? 」
胸が痛む……ほんの少し得た温もりも奪うような、冷たい痛み。
「リル……」
名を呼んだラファエルに、視線を向けた私への困惑の表情……
この想いは、本物よね?この感情も、あなたに向ける……
「サラカ!」
上からの声に、違う痛みが生じた。
【ドク……ンッ】
イズミの腕が、緩んで……イズミが、私以外の名を呼んだ。
優しく、たくさんの人に注いできた笑顔で……
知っている。自分だけが得ることを望んだもの……それを、また……
サラカに向けて、話しかける。
「大切な想い……。リルの羽は、元に戻す!サラカ、君と出逢えて良かった。君は、俺の関わらない『未来』愛しさの───。ラファエル。お前が護りたいのは、何だ?『未来』を揺らすなら、赦さない。」
イズミの表情に、目が離せない。
彼女への笑顔が一変し、憎悪に近い視線がラファエルに向けられる。
【ズキッ!!】
胸が……苦しい。
イズミは、この力の内に私を止めながら……
私以外を想って、出逢いを……未来を語る。
「未来を揺らすつもりはない。護りたいものは、ある。その為に、ここにいる。」
ラファエルの凛とした声。
ラファエルの姿勢や声は、すべてを拒絶したかのような……感情を読み取らせないもの。
知らない……違う。ラファエルじゃない……
「嫌……冷たい痛みが、襲う!!」
イズミの私を支える腕に、力が入る。
その力は、記憶の……安堵に覚えがあるもの。
「っ!!……ラファエル、知っている情報を言え!!早くしろ!!!!」
必死なイズミ……
何か……震えが止まらない!?
胸の痛みが冷たさに、全身が凍るような感覚。
その感覚も徐々に無くなる。
意識も……
怖い!
ラファエル……お願い、私に刺さった矢の抜く情報を頂戴!!
「資料館で、弓矢の情報を得た。ただ、抜き方が分からない。キューピッドに与えた弓矢は未来を左右する力。『神器』。決定権は、不変を覆す。それを受け継いだ二つの不滅性。不変に未来は揺らぐ。」
抜き方が、分からない?
ラファエルの視線は、サラカに向けられる。
彼が想いを抱き、任務を果たしたいと願う相手……
サラカだけを見つめ、情報を伝える。
「俺の知っているのは、2つの不滅性の1つが、動く。任務は、見届けて、時が来たら……」
ラファエルが言い終わったと同時……
【時が来た】
聞いたことがある声……それが頭に響く。
その響きが増し加わって、今までとは比較にならない痛み。
「……ぁ……ぐっ……はぁっ……はっ……」
私は力が入らず、支える腕……イズミに寄り掛かった。
「「リルッ!!」」
重なる声……ラファエルと……
私の求める あなたの声……あぁ、あなただ……イズフィー……
愛しい……イズフィール。
会えた……会いたかった。最後に、私の想いを伝えられる……?
言葉よ、出て。お願い……
今は、大きな羽もいらないと言えるわ。
伝えたいのは、私の想い。
本当の気持ち……素直に……
「うぅっ!! 私は……私は、欲しかった。護るために、強くなるために。……っ!! あなたを、失いたく……ない……から。あなたを、探しに……行く為……だったのにっ……痛い、揺れる。いや…… 」
背中の羽が熱い……
違う、その色じゃないの……
「くそっ!! 抜き方が…… 奴は、俺の記憶にあると言った。リル、いいんだ。それで……。だから苦しむな。ラファエルだけを……見てろ。」
違うの……
「……愛しているわ。イズフィール……」
「……ッ!!」
イズフィール……どうして、泣きそうなの?
「リル……シフリール。俺は、この世界にはいられない……君には、別の未来とコがあるんだ……」
……え?……
あなた以外との未来?別の天使とのコ……?
「サラカッ!!」
遠くで、ラファエルの叫び声が聞こえたけど……意識は遠のく。
「……どうしてだ?未来は、俺が関わらない。なのに、君のコが消えかけている!?リル、しっかりしろ!!君のコが消える!!未来を護って……くそっ!!矢が刺さったのは、どこだよ!!」
いきなり体勢が変えられ、服の破れる音……
「……んだ、これ!?二度と触れられないなら……赦せよ!」
イズフィールの唇が、胸に触れた。
そこから温もりが広がり、湧き上がる感情が私を包んでいく。
彼が触れたところには光が満ち、全身に……
そして、羽へと広がった。
私から冷たい痛みが消え、身体から矢が浮き上がる。
『よく頑張りましたね。さぁ、あなたたちの未来の欠片を救いなさい……』
ミカエル様の声が聞こえた。
イズフィーは、戸惑い私を見る。
時間はない!!
私は彼を残し、私たちのコの許へ飛んだ。
大きな羽を広げて……色の変化も分からず……
羽ばたかせ、叫んだ。
「サラカちゃんっ!」
私たちのコ……
未来は、私が護る。
導くわ……私に必死で伝えてくれたように……
「大切なものは、心の中にしまっておくだけでは、駄目なの。伝えて……。サラカちゃんは、何を護っているのか。私の胸の矢は、イズフィーが抜いてくれたわ。私の大切な……へ?」
会話の途中、私の両羽の間に顔をうずめる感覚。
「んっ!?」
まだ、大切な言葉の途中なのに……
「イズフィー、私たちのコが……」
大変な時なのに??
身を逸らした私の口に、イズフィーはキスを落とす。
深い……キス??
見られてる……目の端に、サラカちゃんとラファエルの姿。
茫然としてますよ??
「……んんっん~~~~??」
激しいキスに、イズフィーの眼は今までに見たことのない色気。
羽に何度も触れ、髪に指を絡ませる。
「……んっ、んんん~~!?」
抵抗はむなしく……
目が回りそうな私の身体を支え、満足したかのように唇を解放する。
そして、イズフィーは最高の笑顔で微笑んだ。
「へへ?未来は、俺達の愛が作るんだろ?手っ取り早くて、良いかと思ったんだ♪」
サラカちゃんの存在は、私たちの想い……だけど……けど!!
「だからって、何も……」
茫然としていた二人に、何の説明もなく……
私は、視線を二人の方に向けた。
すると……サラカちゃんが、ラファエルに抱き着いたところを目撃♪
「……あら?ふふ……イズフィー、どうする?彼氏がいるわよ♪」
ラファエルの想いは、私たちのコを護るために任務を引き受けた。
ラファエルの想いを知ったサラカちゃんは、大きな羽を広げ……笑う。
サラカちゃんも、大切な相手を想い……愛しさに、未来を抱いて。
そんな様子を二人で見ていたのに……
イズフィーが、私の羽を執拗に触る。
……と、言うより……撫でまわす感じ??
ドキドキする……
そんな私の感情より、コが気になるのかな……
ん?意地悪な表情……??
「くすくすくす……今日は、許してやるよ?」
視線をラファエルに向け、何かを企むように言う。
「今日は??」
私の疑問に、イズフィーは幸せそうに笑う。
「うん、だって……コを作らないと、あいつの相手はいないわけだろ?くくくっ……」
そして、また……私に甘いキスを落とすの……
特別な笑顔を、私だけに向け……囁く。
「愛しているよ……」
【サワサワサワ……】
穏やかな風を運び、すべてを清浄するような空気……
「変化を、試練を。よく乗り越えましたね。」
見守ってくださっていたのは、やはり……
「ミカエル様!」
叫んだ声は、4人が同時で……重なり合う。
風と同じ穏やかさの微笑み。
まるで光をイメージするような顔立ちは、癒しが伴うかのように心を惹きつける。
その存在は、誰にも超えることが出来ない高貴……
私たちを圧倒する。なのに……イズフィーの手が、羽に触れたまま……
あぁ、イズフィーも圧倒されて動けないんだ。
羽を少し、動かしてみる……
【ビクッ】
驚いた顔で、私を見つめ……自分の手の位置に、慌てる。
そして姿勢を正し、ミカエル様に真剣な視線を向ける。
「護るべきもの。それを見つけた時、精神は解放されるのです。『羽は、あなた達の心です。精神であり、思考ではない。』それを理解出来るのは、均衡を保つ対を持つものだけ。今なら、理解出来るでしょう。」
均衡を保つ対……?
私は、イズフィーに視線を移す。
イズフィーは、微笑んで額にキスを落とした。
……羽を撫でながら……色気をまとう視線。
イズフィーが言った。
未来に関わらないと……
あなたの任務。離れる時が来るんだ……
一緒の場所にいられない時期が……それでも未来の欠片は、私たちの想いが紡ぐ。
イズフィール……存在意義を、私に求めて。私がいない場所でも。
私も求めるわ……あなたの中に存在意義を……
未来の欠片が共にいるから。護るから……
ミカエル様は、私たち4人に……それぞれ視線と微笑を与え……
目を閉じ、上に顔を向けた。
私たちの上に、光が注がれる……
「扉を開きます。自分たちの世界へ。」
ミカエル様の声と共に、扉が現れた。
「サラカ!」
イズフィーが、サラカちゃんに抱き着く。
「うひゃっ!」
サラカちゃんは一瞬、驚いたみたいだけどイズフィーに腕を回した。
イズフィーは、知っているんだ……任務を。
サラカちゃんも、私の知らない何かを知っている。
何かを、未来に感じているんだ……
「さよなら。イズミ。」
悲しそうなサラカちゃんに、人懐っこくイズフィーが微笑む。
「さよならじゃないよ。俺たちは、絶対会えるんだ。だって──」
【グイッ】
ラファエルが、イズフィーからサラカちゃんを引き離す。
ずっと、黙っていた……と、言うより……目の前の光景が信じられなくて、どう行動していいか……思考が止まっていたのね……きっと。
「ストップ! はい、そこまで。帰るぞ、サラカ。」
嫉妬が可愛いわね……相手に、余裕がなくなるなんて。
サラカちゃんが、可愛いからね♪
イズフィーも、最後の抱擁を邪魔されたからショックが……あれ??
「ちっ。お前になんかに、サラカは渡さない。覚えておけ。なんつったって、俺はサラカの……ふふふふ。」
イズフィーは、ニヤリ顔。
余裕の意地悪な……楽しそうな微笑み。
ラファエルも、大変ね……全く……
未来を不安に思うのは、私の悪い癖ね。
あなたと共になら……乗り越えられるよね!!
勝ち誇ったイズフィーと、たじろぐラファエル……しょうがないんだから。
サラカちゃんは、不思議そうに二人を見ているし。
イズフィーの片方の羽を引っ張り、サラカちゃん達に微笑を向ける。
「サラカちゃん! ラファエル! 未来で、仲良くね。」
ラファエルは、慌ててサラカちゃんの手を引いた。
「サラカ、行くぞ。」
扉の中に入る二人……
私とイズフィーは、見つめて微笑み……同時にサラカちゃん達を見送る。
また、会いましょう……
「「愛しさの欠片」」
扉の向こうに消える二人の姿を……私たちは寄り添って見続けた……




