六章:感情(イズフィールside)
腕に重みがかかり、リルが気を失ったのを知る。
……何だ、これは!?
赤い……燃えるような赤。大きな羽……
違う、手に入れたいものじゃない。
怒りが、こみ上げる。
睨む先で、あいつがサラカを抱きしめていた。
サラカと距離を取るあいつの顔……愛しさの視線。
「リルに何があった!? お前がずっと、ついていたんだろ? 何なんだ、この羽……」
憎しみが、際限なく生み出されるのを感じる。
赦さない!!
あいつは、言いにくそうに……口を開いたり閉じたり。
イラつくんだよ!!
俺の目を、真っ直ぐに見ろ!見て、答えろよ!!
やっと口を開いたと思って、耳にした言葉。
「……矢が……」
矢……?
自分のしたことを否定するかのように、叫んでいた。
「どうして、もっと注意していなかった!? その羽で、守ってやらなかった!? お前が……」
刺されば良かったのに……。
俺の言葉を遮ったのは、サラカだった。
俺をリルと一緒に抱きしめて……サラカの眼は、俺の痛みを知っているようだった。
「イズミ、イズミ。早く『リル』を助けてあげて。どこか、寝かせられる所へ連れて行ってあげて。」
必死で抱き締め……サラカの泣きそうな笑顔。
愛しい……やっぱり……
俺は黙って頷く。
そして、サラカの頬に触れる。
「……サラカ。」
君は、俺の予測が正しければ……
違う。俺じゃない……俺の罪は大きい。赦されない……
「……ありがとう。愛しさの欠片……」
俺は、リルを抱えて飛ぶ。
俺の隠れ家……サラカの知っている場所へ……
羽を敷き詰めた、屋根のある俺の隠れ家。
気を失ったリル……羽は、真っ赤に……白い羽を燃やすような激しさ。
「リル……ごめん。俺の所為だ。」
「そうだね、君の所為だよ♪」
……この声……
「ルシフェル!!戻せ、返してくれ……リルの羽は、赤じゃない。欲しいのは、こんな羽じゃない……」
「くすっ。知っているよ……でも、手に入らない。」
そう……手には、入らない。
「弓矢を返せ。ミカエル様に渡すんだ!!」
「くくっ……くくく……あはっ……あはは!!」
真剣な俺に、何がそんなに可笑しいんだ?
「返す?じゃぁ……矢だけ。弓は、俺のモノ……俺のだ。」
弓が、ルシフェルの……モノ?
「……聞いたことがある。天界には、珍しい二つの不滅性……」
「くっ……だから、君が好き♪くすくすくす……」
「お前は、知っているんだろ?矢が、どうすれば抜けるのか。」
「教えるとでも?」
「あぁ、君のその羽の色……矢の……矢は抜けないのか?」
落ち着け……
幼いころに天使長だった じいちゃんから聞いた物語。
矢の先を、呑み込んだ天使。今も……
「そう、今も……この胸に、矢は留まり……永遠の不朽と共に、役目を担いながら……」
「ルシフェル……俺は、君を赦さない。俺の存在の限り、追い続けてやる……」
「うん。赦さないで……彼の代わりに……君が、俺を追えばいい。約束を誓って……」
彼との契約……
やっぱり、彼女は……愛しさの欠片。俺のではない……
それでも、リル……君への愛しさも、永遠を誓う。
「誓う。ルシフェル……君を、俺の存在の限り……赦さない。追いかけてやる!」
俺の返事に、安堵の笑顔……
「刺さった矢は、抜ける……方法は、君の記憶にある。約束は、抜けた後……彼を……いや、君は分かっているか。恨まないで……憎しみは、俺だけに。」
ルシフェル……
大きな羽を広げて、飛んで去って行く。
光に透けて見えるのは、何にも染まらない暗黒。
じいちゃん……
「幼きコに、未来を告げる。未来を望め……おいで、語ろう……二つの不滅性を。」
「天使長、それは開かずの記憶。語り継げるものでは……」
「下がれ、お前の理解を求めない。イズフィールよ……選びなさい。彼のように、知力さえも拒むのか……」
「思考は、俺の成長……じいちゃんが教えた。」
満足な笑みで、俺を抱きかかえる温もり。
「任務で、お前に出逢えるのはいつになるだろう?神は試練を与えるが、すべてにではない。それを耐えうるものにだけ……だからこそ、選んだ選択も未来へと紡ぐ。不変の想い……貴重なものを、見守るのも……」
「じいちゃん、二つの不滅性はどうなったの?」
「……変わらない。何も……そう、何も。護る者のために……不変を保つ。」
……
ルシフェル……君の中にある不変も、変化を求める。
それは、赦されない務め……
苦しみの想い。変わらない貴重な存在。
リル……
髪に指を絡め、キスを落とす。
触れたかった……欲した大きな羽……君の存在意義。
色は、矢の影響……
抜く方法が、俺の記憶にある?記憶……思考に。感情に伴い……俺を促す。
ルシフェルの選択と同じように……俺の中。
「リル……いつ、気が付いてくれた?本当に、俺の心に気が付かない?そんなに余裕がなくなるほど、俺の羽の大きさが追い詰めた?この羽は……君への想いなんだよ?リル……シフリール……もう、赦されない。君への想い……このまま、羽の大きい方が君の幸せなのかな……矢は、何を告げる?怖い……逃げたい。こんな想いの不変は、無理だ……」
「……ん……」
目を開けたリルの瞳が、透き通る赤……
「誰?私の愛しい人は、どこにいるの?嫌!!……離れて、心がざわめく。苦しい……苦しめないで。その眼で見ないで……」
……このまま、背を向け……逃げることが出来るだろうか?
愛しさに、名を呼んだら……
駄目だ。
あの欠片は……
羽音が聞こえる?まさか……
空に、サラカとあいつ……俺を見つけたサラカが、口を開く。
あの名を口にしたら……ダメだ!!
「サラカ、その名を……」
「イズミ!!」
俺の止めようとする声も届かず、サラカは必死で名を叫んだ。
心配してくれたんだね……
「イズミ……?私は知らない。誰なの?」
俺を見る眼は、今までと異なる。
あぁ……イズフィーから、イズミに塗り替えられていく記憶……。
君の心から、俺が消え……た?
これから、君とかかわらない……君の中から消えた方が、良いのかもしれない。
それでも……
リルは、俺の横で真っ赤な羽を広げる。
俺は、飛び上がるリルの手を引いた。
「放して!私に触れていいのは、彼だけよ!!彼……だけ。」
畜生!!
リル……シフリール……この想いは……
抵抗を無視して、抱きしめる。
今、この手を放したら……この羽は君の色にはならない。
せめて、君の本来の羽……存在意義を守りたい。
それが、誰か他のものになるとしても……
俺の役目。俺の責任……果たすべき務め。
「……記憶が、揺れる……塗り替える……違う。違う……嫌だ。放さないで……助けて……嫌ぁあ~~!!」




