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⑧天使の楽園:シフリール編  作者: 邑 紫貴


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六章:感情(イズフィールside)


腕に重みがかかり、リルが気を失ったのを知る。

……何だ、これは!?

赤い……燃えるような赤。大きな羽……

違う、手に入れたいものじゃない。

怒りが、こみ上げる。

睨む先で、あいつがサラカを抱きしめていた。

サラカと距離を取るあいつの顔……愛しさの視線。


「リルに何があった!? お前がずっと、ついていたんだろ? 何なんだ、この羽……」

憎しみが、際限なく生み出されるのを感じる。

赦さない!!

あいつは、言いにくそうに……口を開いたり閉じたり。

イラつくんだよ!!

俺の目を、真っ直ぐに見ろ!見て、答えろよ!!

やっと口を開いたと思って、耳にした言葉。

「……矢が……」

矢……?

自分のしたことを否定するかのように、叫んでいた。

「どうして、もっと注意していなかった!? その羽で、守ってやらなかった!? お前が……」

刺されば良かったのに……。

俺の言葉を遮ったのは、サラカだった。

俺をリルと一緒に抱きしめて……サラカの眼は、俺の痛みを知っているようだった。

「イズミ、イズミ。早く『リル』を助けてあげて。どこか、寝かせられる所へ連れて行ってあげて。」

必死で抱き締め……サラカの泣きそうな笑顔。

愛しい……やっぱり……

俺は黙って頷く。

そして、サラカの頬に触れる。

「……サラカ。」

君は、俺の予測が正しければ……

違う。俺じゃない……俺の罪は大きい。赦されない……

「……ありがとう。愛しさの欠片……」


俺は、リルを抱えて飛ぶ。

俺の隠れ家……サラカの知っている場所へ……

羽を敷き詰めた、屋根のある俺の隠れ家。

気を失ったリル……羽は、真っ赤に……白い羽を燃やすような激しさ。

「リル……ごめん。俺の所為だ。」

「そうだね、君の所為だよ♪」

……この声……

「ルシフェル!!戻せ、返してくれ……リルの羽は、赤じゃない。欲しいのは、こんな羽じゃない……」

「くすっ。知っているよ……でも、手に入らない。」

そう……手には、入らない。

「弓矢を返せ。ミカエル様に渡すんだ!!」

「くくっ……くくく……あはっ……あはは!!」

真剣な俺に、何がそんなに可笑しいんだ?

「返す?じゃぁ……矢だけ。弓は、俺のモノ……俺のだ。」

弓が、ルシフェルの……モノ?

「……聞いたことがある。天界には、珍しい二つの不滅性……」

「くっ……だから、君が好き♪くすくすくす……」

「お前は、知っているんだろ?矢が、どうすれば抜けるのか。」

「教えるとでも?」

「あぁ、君のその羽の色……矢の……矢は抜けないのか?」

落ち着け……

幼いころに天使長だった じいちゃんから聞いた物語。

矢の先を、呑み込んだ天使。今も……

「そう、今も……この胸に、矢は留まり……永遠の不朽と共に、役目を担いながら……」

「ルシフェル……俺は、君を赦さない。俺の存在の限り、追い続けてやる……」

「うん。赦さないで……彼の代わりに……君が、俺を追えばいい。約束を誓って……」

彼との契約……

やっぱり、彼女は……愛しさの欠片。俺のではない……

それでも、リル……君への愛しさも、永遠を誓う。

「誓う。ルシフェル……君を、俺の存在の限り……赦さない。追いかけてやる!」

俺の返事に、安堵の笑顔……

「刺さった矢は、抜ける……方法は、君の記憶にある。約束は、抜けた後……彼を……いや、君は分かっているか。恨まないで……憎しみは、俺だけに。」

ルシフェル……

大きな羽を広げて、飛んで去って行く。

光に透けて見えるのは、何にも染まらない暗黒。


じいちゃん……

「幼きコに、未来を告げる。未来を望め……おいで、語ろう……二つの不滅性を。」

「天使長、それは開かずの記憶。語り継げるものでは……」

「下がれ、お前の理解を求めない。イズフィールよ……選びなさい。彼のように、知力さえも拒むのか……」

「思考は、俺の成長……じいちゃんが教えた。」

満足な笑みで、俺を抱きかかえる温もり。

「任務で、お前に出逢えるのはいつになるだろう?神は試練を与えるが、すべてにではない。それを耐えうるものにだけ……だからこそ、選んだ選択も未来へと紡ぐ。不変の想い……貴重なものを、見守るのも……」

「じいちゃん、二つの不滅性はどうなったの?」

「……変わらない。何も……そう、何も。護る者のために……不変を保つ。」

……


ルシフェル……君の中にある不変も、変化を求める。

それは、赦されない務め……

苦しみの想い。変わらない貴重な存在。


リル……

髪に指を絡め、キスを落とす。

触れたかった……欲した大きな羽……君の存在意義。

色は、矢の影響……

抜く方法が、俺の記憶にある?記憶……思考に。感情に伴い……俺を促す。

ルシフェルの選択と同じように……俺の中。

「リル……いつ、気が付いてくれた?本当に、俺の心に気が付かない?そんなに余裕がなくなるほど、俺の羽の大きさが追い詰めた?この羽は……君への想いなんだよ?リル……シフリール……もう、赦されない。君への想い……このまま、羽の大きい方が君の幸せなのかな……矢は、何を告げる?怖い……逃げたい。こんな想いの不変は、無理だ……」

「……ん……」

目を開けたリルの瞳が、透き通る赤……

「誰?私の愛しい人は、どこにいるの?嫌!!……離れて、心がざわめく。苦しい……苦しめないで。その眼で見ないで……」

……このまま、背を向け……逃げることが出来るだろうか?

愛しさに、名を呼んだら……

駄目だ。

あの欠片は……


羽音が聞こえる?まさか……

空に、サラカとあいつ……俺を見つけたサラカが、口を開く。

あの名を口にしたら……ダメだ!!

「サラカ、その名を……」


「イズミ!!」


俺の止めようとする声も届かず、サラカは必死で名を叫んだ。

心配してくれたんだね……


「イズミ……?私は知らない。誰なの?」

俺を見る眼は、今までと異なる。

あぁ……イズフィーから、イズミに塗り替えられていく記憶……。

君の心から、俺が消え……た?

これから、君とかかわらない……君の中から消えた方が、良いのかもしれない。

それでも……


リルは、俺の横で真っ赤な羽を広げる。

俺は、飛び上がるリルの手を引いた。

「放して!私に触れていいのは、彼だけよ!!彼……だけ。」

畜生!!

リル……シフリール……この想いは……

抵抗を無視して、抱きしめる。

今、この手を放したら……この羽は君の色にはならない。

せめて、君の本来の羽……存在意義を守りたい。

それが、誰か他のものになるとしても……

俺の役目。俺の責任……果たすべき務め。


「……記憶が、揺れる……塗り替える……違う。違う……嫌だ。放さないで……助けて……嫌ぁあ~~!!」






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