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⑧天使の楽園:シフリール編  作者: 邑 紫貴


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四章:本能


「……どうして、肝心なところで逃げようとするのかな?」

前を飛ぶラファエルが呟いた。

「……逃げる?」

問い返したが、答えは返ってこない……??

何だ、独り言なのね……私に言ってるのかと思った。

図星で、戸惑う……

逃げたい……これ以上、自信を失ったら……羽はどうなる?

怖い!!

「リル?どうしたの……顔色が悪いけど。」

振り返り心配する彼は、どこかイズフィーを思い出させる。

大きい羽がそうさせるのか、その雰囲気……今は……

「ごめんなさい……少し、別行動でもいいかな?」

泣きそうな私に、やはり戸惑う手……

「うん。分かった……一回りしたら、ミカエル様のところに戻るよ。資料館に依頼している『神器』の情報が、手に入る時間に……現地で会おうか。」

「ええ……ごめんなさい。ありがとう……」

ラファエルから離れ、飛ぶのをやめる。

歩く足は、重い……


「くす……くすくすくす……これも、美味しい♪」

気配のない後ろから声がして……振り返る。

私の目に、ありえない色の羽……何度か記憶にあるモノ……

「あなた……まさか、ラファエルが言っていた候補生とは違う気配の。」

「さて、問題です。答えたら、“俺”も質問に答えるね……」

私の言葉を遮り、強引なことを言う。

“俺”……?

どこか、中性的な……まとう空気は冷たくて……恐怖に包まれる。

私の表情に、満足した笑顔……

「くくっ……どうしたの?彼のこと、知りたいでしょ……イズフィーのこと……教えてあ・げ・る♪」

イズフィーのこと!!

「あなた、イ……」

思わず叫んで、近寄った私を冷静にしたのは……彼の瞳の色。

危険信号……冷静になれ、落ち着くんだ……

息を吸い、吐き出す。

「……つまんないの……ま、お楽しみが待っているから我慢してあげる♪くすくす……」

私の周りを、くるくる飛びながら……

「あなたは、誰なの?」

私の質問で目の前に止まり、冷たい視線を向ける。

【ゾクリ……】

質問に答えず、ミカエル様の像のほうに移動……

像の頭に足を乗せ、私を見下ろした。

「問題。教科書は、なぜ存在するのか……」

「天使になるため!」

私は即答した。

「くっ……くはは!!なるほど……くくく……だから、羽が小さいんだね♪あははは……」

像から転げ落ちながら、笑い続け……

像にしがみついたと思ったら、その像の頭をペシペシと、叩く。

幾ら、ミカエル様のお姿と違うからと言っても、『付き人』以外の皆は……

「あなたは『付き人』なの?」

笑い続けているので、聞いているのかは分からないが、問いかけた。

笑うのが止まり、羽が大きく開く……

「ね、誰にそんなくだらないことを言っているの?ふふ……教えてあげるよ……今から、お楽しみの中心は君だから♪」

私が……中心……?

「君の答えは、正解ではない。学ぶため……しかし、基本であって……応用ではない。すべてのものが天使になれないのと同じ……感じたまま行動すべき時があり、考えて迷い……苦渋の決断の時もある……どちらも必要。」

……雰囲気が、ミカエル様に……近い!?

まさか、そんな方が存在するの?

羽は、あってはならない色なのに……

まるで、何にも左右されず……強さに圧倒される輝き……

“彼”は、一体 何者なの?

冷たい風が、私を包んでは通り過ぎていく……

「弓には矢が必要であり、自由には重荷が必要……すべては均衡を保っている。未来には、過去が必要なように……過去も、未来を必要とする……試練に選ばれた者たち……そして、ワタシの必要とする……ミカ。くっ……くく……時が来ている。リル……期待しているね♪」

いきなりの突風で、目を閉じた一瞬に……“彼”の姿はなかった……


何が起きたのか、それさえ理解できない。

話は、教科書が何故 存在するのか……

「リル!」

【ビクッ】

名を呼ばれ、高鳴る心音……

「リル、時間になっても来ないから……どうかしたの?」

近づいたのはラファエル。

「……いえ、何でも……」

一瞬、いるはずのないイズフィーを感じた。

イズフィー……どこにいるの?もう、会えないのかな……

“彼”は、イズフィーを知っている?

追放に、『神器』が関係しているのなら……

私の言いたくても、まとまらない……そんな表情に、ラファエルは優しく微笑む。

頼ってしまいそうになる……!!

ダメ……何を考えた?私は……

「……何故、教科書は必要なのかな?」

視線を逸らし、ラファエルの優しさを感じないような言葉を引き出す質問……

今 思いついたのは、それだった。

「天使になるため。」

私と同じ答え……なのに、その羽の大きさ。

原因は、理解ではないんだ……分からないことが、どんどん増える!!

悔しいぃ~~

「私たちは候補生なのよ。完璧なんかないわ!」

悔しさに、ラファエルを睨んでしまった。

「リル……そんな顔されると、何かを思い出してしまう……」

今までとは違う、強引な力……それが、私の体を抱きしめる。

……え?……

【ドキッ……】

私に出来た心の隙間……

慌ててラファエルを押し退け、背を向けた。

「リル?ごめ……」

ラファエルの動揺した声……


【トスッ】


パニックになった私の胸に、矢が刺さった。

冷たさを伴った一瞬の痛みが、信じられないほどの甘さに変わる。

「……ッ……ラファエ……」

“彼”が、この心の隙を狙って、まだ近くにいたなんて……

「何だ、これ……まさか神器……~」

ラファエルの声が、小さくなっていく……

遠のく意識の中、精神の奥深く……ざわめく何かが、私を襲った。

自分ではない何かに、動かされ……

軽くなるはずのない心が爽やかな……いえ、消えていく……塗り替えられていく……


「リル!!」

【ドク……ン……】

愛しい。この想い……

いつからだったのかな……目に映るのは、心配する懐かしい表情。

「よかった。分かる?さっき、君の胸に……」

「ラファエル……。ごめんね、素直になれなくて……?」

違う……ラファエルじゃない……

私は……私の想いは……ダメ、どうして……

体が熱い……背中に、力が集中する。

「……リ……」

分かる……羽が大きく成長しているんだ。

何かの力に、誘われるかの様な……

それでも、受け入れ……身を委ねる。

「触れて……この、羽に……」

違う……思考とは違う感情が……

何を口にした?

嫌……違うの……

違わない?この優しい瞳……同じ……ちが……う……

「駄目だ。君は、心を……違う……その、赤く透き通る美しさは……君のじゃない!」

いつになく、感情的なラファエル……

私を睨み、距離を取ろうとした。

【カツ……ッ……】

落ちたのは、きれいな髪飾り。

「あ……」

慌てて、今までに見たことのない取り乱し方のラファエル。

……女の子の物を、大切に……

会えない状況で……とても気にしていた大切な存在……

何故、離れるの?どうして、一緒にいてあげないの?どうして……

アナタハ……私のこと、何とも思っていないの……?私より、大切な人が……?


混ざる感情が、燃え上がる嫉妬心となり……

拾おうとするラファエルより先に、その髪飾りを奪っていた。

両手に持つその髪飾り……

知っている……ラファエルが、胸元にさして……無意識に触っていた。

何度も、何度も……愛しく。私には、触れない……戸惑う手……

何故?あんなに、優しく……私の羽に触れたのに……

私の羽に、触れ……読み取る感情を……知っていた。

本当は、私だけ……ね、そうでしょう?

……ラファエル……

違う、その名じゃない……誰を求めてる?

感情は、この髪飾りに反応しないのに……

必死で、これを取り戻したい表情のラファエル……

胸が苦しい。これは、嫉妬……?

違う……消さなきゃ……返さなきゃ……これは、あの矢の所為だ。

分かる……きっと、ミカエル様の任務……

思考は冷静なはずなのに、感情は思い通りには……ならない。

愛しさが……想いが……塗り替えられていく!!






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