三章:誘惑(イズフィールside)
『キューピッドの矢』
神器の一つ。地に住む人々の心を思いの儘に操る。
昔、キューピッドと呼ばれる美しい羽を持った御使いがおりました。
その麗しい羽のキューピッドは、神からの寵愛を受け「弓」と「矢」を受け取ります。
『地に愛を満たせ。キューピッド、お前の役目は見守ること。しかし、時にその矢を使うことを認めよう』
神はキューピッドに、自由と重荷を同時に授けたのでした……
……大きな羽……君は、嫌いなんじゃないの?どうして?
そいつは、誰なんだ!
そんな笑顔……ここ何年も俺に、見せていない。
追い詰めたのは、この大きな羽……
分かっている。
どう伝えようかと選んで言葉にするけど、伝わらない想い……
殺してやりたい……消してやりたい……憎い……
候補生に相応しくない?知ったことか!!
教科書なんて、ただの文字。意味は、在って無いようなもの。
結局は、自分の心次第……羽は、それを現す。
嫉妬を宿すな?
宿るんじゃない……生まれるんだ……
「くすくすくす……美味しい空気♪ふふ……くくくくっ……」
お気に入りの秘密の場所……小道を抜けないと来れない、こんな場所に!?
「誰だ?」
普段、光も届かない薄暗い場所に珍しく光が差し込んだ。
それは、ありえない黒い……羽。
「はじめまして、イズフィール。君は、どんな情報が欲しい?願って……なんでも、あ・げ・る……」
中性的な、何処か記憶にかする存在。
そいつは、俺の腕に手を触れ……俺の羽に噛み付いた。
「……っ!!何をする!」
大きく羽を広げ、振り払う。
「くくっ……挨拶だよ?ふふふ……知ってるんだ。ワタシ……あなたの願い。そして、叶える方法を……」
羽を器用に立て、羽ばたかずに宙に浮く。
少しの風で、出来るのだと聞いた事があるだけの技術……こいつ……
「ね?知っていてもおかしくないよ……でしょう?くすくすくす……イズフィー。オイデよ……教えてあげる。手に入れたいでしょう?シフリールの愛……彼女の、美しい大きな羽に触れること……」
「だ、黙れ!!」
苛立ちに、羽を荒げて風を送る。
「キャンッ……もう、乱暴ぅ~~。ふふ……」
羽でバランスを取り、宙の位置を保つ。
候補生の記憶にない……あいつもだ。
何だ?俺の周りで何が起こっている?
睨む俺に、満足そうな微笑……
【ゾクッ】
身体の体温が、急に奪われるような……そんな、感覚。
かかわってはいけない。そう思うのに……
「ね?手に入れたい……よね。奪われるのを見るのも楽しいけど?どうする?……迷ってるんだ……くすくすくす……ね、神器は知ってる?」
神器?大昔の何か……伝説じゃないのか?
「それって、願いを叶えるんだよ♪何でも……ね。ワタシは手に入れた……」
「名を教えろ。」
違和感がずっと、引っかかる……
「ルシフェル。これで満足?イズフィー」
「その呼び方は、止めろ!!」
「くすくす……いいんじゃないの~?だって、彼は……リルと呼んでいたよ。君は、特別ではない。」
「……っ!!あいつのこと、知っているのか?」
さっきから気になる瞳の色……それも、黒……?いや、深い藍色なのか?
見つめる視線に寒気が治まらない。
「知っている。ふふ……理事長室に、情報があるよ?君は、知ったほうがいいだろうね……くすっ……後悔するよ?」
「ミカエル様に逢えるのは、限られた……」
「この羽……」
??
俺の言葉を遮り、俺の両羽に触れる。
素早い動きに、まとう空気が冷たくて……振り払うのを躊躇する。
「認証の機械は、大きな羽に甘い……登録のない大きな羽を、素通りさせるんだ。彼は、特別……リルの想いは手に入らないかもしれないね……」
ずっと、そばにいた……手に入らない?
違う!!ものじゃない……リルの心は……
けれど、欲しいんだ。望みは……貪欲な……
「ふっ……美味しい……大好きだよ♪……くすくすくす……」
「……ルシフェル……君は、何を手に入れた?」
「自由だよ♪君の大好きな……ね。同じ……匂い。時間が無いよ……イズフィー?くすくすくす……」
ルシフェルは、器用に木々を抜けて飛んだ。
……自由……?
その色で……
「リル。急いで!!」
「え?うん!今すぐ……行きます!」
その声に、俺の感情はルシフェルと同じ……黒。
俺は、理事長室へと向かう。
聞いていたように、認証の機械は俺を通す。理事長室のドアを開く。
「くすくすくす……ふふっ。くくくく……ミカ、時は来たよ。神器も、また……“俺”の手中だ。追いかけっこは、どれくらいぶりかな……くすくすくす……」
後ろからの声と同時。俺の記憶は途絶える。
冷たい……触れた何かは、急激な痛みへ変わる。
激痛に、目を開けた俺は、白い大きな羽の天使を見た。
「……少し、我慢しなさい。傷は、癒えます……イズフィール。ここは、時間の狭間。行きなさい……守るべきものが待っています。神器が奪われました……役目の始まり。話は、ここまで……祝福と加護を願います……」
強い光に、目を閉じる。
ここは……学園?なのか……?あの方は、もしかして……
『神器が奪われました……』
アイツの仕業か!アイツ……
とにかく、さっきの場所に戻って……何だ、あれ……
しかも、木々が整備されている……光も、こんなに注がれて。ここは……??
犯した罪は大きく、補う役目も対応するに相応しい……俺の役目の始まり……




