第二章:思考
付き人の心得1。『追放……すなわち、何らかの該当する罪を負い……別の空間へと……その権利は、理事長ミカエルの命による。』
何度読んでも、理解が出来ない。
罰ではなく、追放……何らかの該当する罪……
何をしたの?イズフィー……
別の空間……
いつか、必ず……その為には、こんな羽ではいけない。
羽さえ、大きければ……きっと……きっと……
『リル、どうして小さいことを気にするの?』
『大きいイズフィーには、分からないのよ!』
『可愛いと、認めてあげて……かわいそうだよ……』
夢を見る……幼い時の記憶……
かわいそう?羽が?……それとも……私?
イズフィー……答えて……お願い……そばにいて。
息も出来ない……苦しくて……
ミカエル様の指示なら、訊いたら答えてくださるのだろうか?
何をしたのか……逢えるのか……
自由なイズフィー。何にも、縛られることなく……
知ってる……本当は、私より頭が良いの……
必死で追いかける私に、ゆっくり、少しずつ……距離を縮めたの……
追い抜いた私に、あなたは言った……
『良かったね』
望んでいたのは、そんな言葉ではなかったのに……
気がついたときには、すべてが遅くて……
いつもの時間に、学園へと向かう。いつもより、羽を忙しく動かして……
ミカエル様に、直接訊く!
頑張って良かった……付き人だから、ミカエル様に会える。
理事長室は、ドアが壊れている。
そこへの道程にある羽の認証の機械だけは、機能が復旧していた。
だから、誰にも聞こえないと思ったのだろう……
「では、知っていて!?」
ラファエルの声。
「はい。それが、あなたに来てもらった理由の一つ。これ以上は言えない。ラー……誰だ?」
「シフリールです。今の……会話は……イズフィール……のこと、ですか?」
ミカエル様は、ニッコリ笑って……
「何の会話でしたでしょうか。そうです、2人に捜して欲しいものが……」
ラファエルは、羽を一度広げて閉じた。
大きな羽……光に透けて透明感のある灰色……白に近いそれに嫉妬しそうだ……
「リル……今は、任務に集中して?」
気遣うように、私に優しく微笑む。
分かっている……私は、付き人。
ただの候補生だったシフリールでは、ミカエル様に会えない……
まして、何らかの罪を負ったイズフィー……
ラファエルは、真実を知っている。少しかもしれないけど……
それでも……私の希望を、彼が持っている。いつか、時が来たら……
私が、空間を移動できる可能性よりも確実に……情報は、手に入る。
待つのよ……シフリール……ほんの少しの我慢よ……
待てば、きっと……
「では、任務を与える。付き人、ラファエル・シフリールに告ぐ。行け、神器の行方を捜すのだ!」
神器……?大昔に、活躍したと言われる……
行方……?イズフィーが、持っているの?
「シフリール。任務に、集中するように!気を乱してはいけない……」
「……はい!」
「よろしい。……ラ……ファエル。」
ん?一瞬、変な発音??
「いえ、任せましたよ。」
ミカエル様は、私に何かを言いたそうにした。
その素振りだけで、満足しよう。
きっと、時ではない……ミカエル様は相応しい時期を、知っておられるのだろうから……
「ミカエル様、あの……いえ……私だけが、情報を得るのも……ただ、気にかけていただければ……」
「ラファエル、彼女は頑張っていますよ。心配は要りません……あなたの役目の上に、祝福を……」
「感謝いたします……」
彼女……か。ラファエルも、何かを我慢してるんだね。
理事長室を出て、階段を下り……ふと、ラファエルの表情を見る。
頬に、赤みがあり……口元が緩んでいる。
嬉しいのかな?
私の視線に、慌てて首を振った。
……??
気を引き締めるためだろうか……両頬に、両手でパシンッと……痛そうだ。
「ごめん……」
真面目だ……不器用なのかな?
「……ふっ……いいのよ。気にしないわ……」
今、穏やかでいられるのはラファエルのおかげね。
気持ちが落ち着く……冷静でいられる。この人が、希望を持っているから……
イズフィーと一緒にいるときとは、大違い……
冷静に、判断が出来る。待つことが出来る……大丈夫……頑張れるわ……
「……聴いたか?イズフィールの件!」
「しっ……皆 知っているけど、表向きは内密なんだ。追放だろ?」
「あの、イズフィーがねえ。追ほ……わわっ、やばい!行くぞ!!」
……私の姿に、生徒が数人……逃げた。
通学の時間帯に、数人のひそひそ話。
頑張れる……はず……
嘘だ……
イズフィー?嘘……よね?
視界がかすみ、熱い想いが……我慢……出来ない……
零れた涙に、声がつられる……
「……うぅっ……ぅ~~……」
大きな羽が、私を覆う……
「泣いていい……見えないよ。誰からも……大切なんだね。好き……なの?」
好き……??
「何で……今、そんな……っ…………うあぁ~~」
優しく抱き寄せ、頭をラファエルの手がふわりと撫でた。
でも、それが撫で続けることも……その後、頭に触れることもない。
抱き寄せる腕に力はなく、視線は優しいのに……どこか遠慮気味。
「……ぷっ……くすくすくす……」
「え?何で??さっきまで泣いてたよね??」
「ふくく……ダメ、可笑しい……止まらない……」
笑い続ける私に、小さく呟いた。
「あいつも、理解不能だけど……はぁ~。難しい……」
ため息で、天井を見上げるラファエルは、どこか拗ねているように見える。
彼女のことでも、思い出しているのかな……
逢えないんだね……ラファエルも。
「しっかりしなさい!そんな大きな羽を持っているのに!ため息は、ダメよ!!今度、ため息なんか吐いたら羽をもらうわよ?」
「え、何故??急に……」
「羽は、可能性を持っている。難しい事態に、立ち向かうもの!ため息なんて、似合わないわ。」
好き勝手、イズフィーと同じように言っちゃった……。
我に返って、顔が熱い。
そんな私に、最高の笑顔を返す。
「落ち着いたのなら、神器の話をしようか。ふっ……気分が、スッキリした。今、出来ることをしよう?」
「ええ!場所を変えて話しましょう。」
「……彼が、君のために……何かをしたかった理由も分かったよ……」
え?
聞き返そうとする私の前に、大きな羽を広げ……何度か動かした後、飛んだ。
ラファエル……イズフィーは、私のために何かを……?
ん?今……また、黒い何かが目の端に……
疲れているのかな……頑張らなきゃ!
羽を必死に動かして、ラファエルに追いついた。
「リル、キューピッドの矢について……どれほどの知識がある?」
「神器……天使の心得5の最終ページに、少し書いてある程度。」
「そう……教科書に、載っているんだ……」
この言葉の意味に、気がつくのは……随分後になる……




