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⑧天使の楽園:シフリール編  作者: 邑 紫貴


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第一章

天界の何処かに存在する学園。

その唯一の学園では、天界の掟や役割を学べるのだそうです。

通うのは小さな羽を持つ者たち。すなわち“天使候補生”。

この学園を卒業し、大天使ミカエルに認められた者だけが“天使”の称号を手にするのです。

『セイントミカエル学園』

理事長は、全てを超越した大天使ミカエル。

その姿を見ることができるのは、「付き人」として認められた優等生だけです。

「守るために必要なのだ」と……大天使ミカエルは静かに答えた。




校門に立ち、朝の校務を果たす。

閉門の時間まで、後わずか。

服装の乱れは、私たちに在ってはならないもの。

「そこ、ネクタイが歪んでいるわ。直しなさい!」

睨んだ私に、文句を言いながら直す候補生。

八つ当たりなのか、通り過ぎながら……

「小さい羽のくせに……」

【ズキッ】

時が止まったように、目の前が暗くなる。

羽の大きさは、自分の存在価値。

私は、自分が好きじゃない……羽は、正直に大きさとなって現れる。

能力は、あるのに……

力が出し切れない私の羽は、大きくなることが無いように感じる。


私、シフリールは成績優秀生。

候補生の風紀を見守るぐらい……なのに……。

自信が無いのは、きっと……


時間が迫り、門はゆっくりと閉まり始めた。

通れるのか?と、思える……そんな隙間。

速いスピードのそれは、私の横を通り過ぎる。

「ふ~~。セーフかな、リル?」

「アウトよ!!イズフィー」

私のことをリルと呼ぶ彼、イズフィーは……

「お~い、イズフィー!早く来いよぉ~~」

みんなに好かれる人気者。

彼は、栗色のサラサラの髪を揺らし……大きな羽を一度大きく開いて、閉じる。

【ドキ……ッ……ン】

私の事なんか……


「いつも言ってるよね~?その呼び方は、するなって~~!」

私の頭を撫でながら、建物の窓から叫んでいた人に叫んで返事を返す。

ずるい……ずるいぃ~~~~!!

成績が良くても、分からないことはとても多くて……くやしい……

「子どもじゃないんだから!触らない……で……」

感情が溢れ泣きそうになる私を、優しく抱きしめ、小さな羽に触れる。

【ビクッ】体が跳ねた。

驚きと、恥ずかしい何か……

「止めて!風紀問題よ!!」

押し退ける私の耳元に、優しい声が囁かれる。

「どうして?可愛いのに……愛情は、悪いもの?」

髪の色と同色の透き通った瞳が、色っぽく私を見つめる。

ずるいぃ~~~~!!

「ネクタイは、どうしたの?服も、ボタンを閉めて!!」

目のやり場に困るほど、服が……服が!!

【くすくすくす……】

つかみどころのない彼、イズフィー……本名は、イズフィール。

幼い頃から、いつも一緒だった。

最後のルが言えない時から一緒……定着した呼び名は、私だけのもの。

大きな羽は、彼の自信……

成績では勝てるのに……

「リル?いつ、気がついてくれるの。」

彼の見つめる眼は、私を苦しくさせる。

必死で、誤魔化すように……

「気づいているわ!きちんと、風紀委員に服装の乱れを報告する!!私に……」

近づかないで……苦しいの……

でも、離れちゃいやだ……



「……さん、シフリールさん!」

「はへ?」

ここは、理事長室。

昨日、付き人候補に上がって……ほぼ確定になった私はここに呼ばれた。

ミカエル様の姿は、幾つか建てられた像とは違う姿。

不思議そうに見ていたからか、ミカエル様は私に微笑む。

とても、麗しいお姿に見とれてしまう。


「改めて。汝、シフリールを我、ミカエルの付き人に任じる。」

祝福の光が、私を包み……部屋の中なのに、風が通り過ぎた。

心が、軽くなり……爽やかな何かを感じる。

これが、幸福……?

「早速で、申し訳ないが……ラファエル、入りなさい!」

幸せに浸る時間もなく、部屋に通されたのは見たことのない青年。

うわっ……この人も、きれいな顔。

「はじめまして。」

ニッコリ笑うと、穏やかさに癒される。

レベルが違う……

「はじめまして。付き人は、学園に数名。あなたも、付き人ですよね?」

「えぇ。特別の任務で……」

「ラファエル、私から事情を彼女に説明する。」

ラファエルの言葉を遮り、ミカエル様は羽を広げた。

光に、透き通るような大きな羽。

白いはずなのに、特別な人は……これほど神聖なものになるんだ……

私の羽も……いつか……


「シフリール。羽は、あなたの心です。精神であり、思考ではない。」

羽を見つめる私に、ミカエル様が諭される。

分からない。いつか、理解するのかな?


もっと、真剣に聴いておけばよかった。

ミカエル様は、すべてを知っていたんだ……これから起こることを……


特別な任務を持ったラファエルの補佐。

彼の大きな羽は、白い。

「何と呼べば?」

「そうね。みんな、そのまま呼ぶわ。」

親しい人なんかいないから。

「ではリル、よろしく。」

差し出された手に、呼び名を許してしまった。

いいか……彼が、特別なわけでは……ない。

「ラファエル、行きなさい。あなたには逢うべき人がいる。シフリール……いえ、あなた達に。任務の遂行の上に、祝福を求めます。」

「「ありがとうございます。」」


ラファエルの落ち着いた雰囲気が、私を安心させる。

常に、頑張ってきた。気を許すことなく……

付き人の任命を受けたことも、関係するのかな?

「ふっ……リルは、考え事が癖なの?」

静かに、気を許したような笑顔。

【ドキッ……】

わわわっ……落ち着け、心臓!!

「癖と言うか……違うような……そうなのかな??」

私の慌てた返事に、おなかを抱えて笑っている。

ふっ……口元が緩み、顔がほころんでしまった。

「緊張が解けた?その方が可愛いよ。」

「ありがとう♪」

どれくらい、こんな笑顔をしなかったかな?

顔の筋肉が、少しぎこちなく感じる。

「自然でいられる……ラファエル、これから宜しくね?」

「あぁ、俺も落ち着ける。最近、感情を乱されっぱなしだったからね。」

苦笑いのラファエルに、親近感がわく。



「……リル?ね……彼は、何?」

いつもより低い声が、私の後ろから聞こえた。

と、同時。手首をつかまれ、勢いよく引かれた。

「ひゃっ??」

ぶつかったのは、イズフィーの胸。

抱きしめる力が強く、怖さを感じた。

「ね?君は、誰?」

頭の上から、さっきより低い……聞いた事のない低い声。

まるで……

「特別な任務で来た、ミカエル様の付き人。ラファエルです。リルは、私の……」

「呼ぶな!!」

抱きしめる力が、一層強くなる。

「放して……イズフィー“ル”。任務なの……誤解されたくない。」

私は、イズフィーの顔を見なかった。

うぅん……見れなかった。怖くて……


見ておけばよかった。そうしたら、すぐに後を追っていけたのに……

そして、あんなことにはならなかった。イズフィー……どうして……

問題は、これからだった。

ミカエル様の姿を知ることが出来るのは、付き人だけ……



「リル、候補生とは違う気配を感じる。行こう!任務の一つだ。俺も、詳しくは聞いていない。徐々に、理解するだろうと……」

ラファエルの広げた羽に、見とれ……後ろを必死でついて行った。

小さいけど、能力に支えられ……ついていけた。

この任務が、私に自信を与えてくれるかもしれない……

その時は、そのことで頭がいっぱいだった。


……あれ?校舎の隙間……黒い……羽?

まさか……ここに、その色は存在しない。

目を凝らそうとした……

「リル。急いで!!」

「え?うん!今すぐ……行きます!」


思えば、自分の出来ていないところが腹立たしい……

イズフィー……あなたが、彼と会っていたなんて……


結局、学園内を捜したが見つからなかった。

『ビービービービー』

機械的な、今までに聞いたことのない警告音に、私たちは顔を合わせる。

「何が、起きたんだ?」

「分からないわ。今まで、こんな警報なんて……」

「ミカエル様の許に、急ごう!」

警備・聖戦部隊科の候補生が、武装して秩序正しく配置についている。

門は、見たことのない厳重なものが出現した。

物々しい雰囲気に、二人が理事長室に入ろうとした瞬間。

いきなりの爆風に……私は、気を失った。



目覚めたのは、警戒態勢が落ち着いた頃。

医療室のベッドに寝ていた。

目が覚めた私を、ラファエルが見守っていた。

違和感がある……いつも、いるべき彼じゃない。

私に何かがあったら……彼が……いつも、イズフィーがいたのに……

怖い……嫌な、予感がする。

「……ラファエル……ここに、イズフィー……イズフィールが来なかった?」

私の質問に、目を伏せ……ため息を一つ。

「ラファエル。答えてよ!!彼は、怪我をしたの?どこにいるの?ねえ!教えてよ!!」

「……彼は……反逆罪……追放、されたと……」

ハンギャク……?

ほんの、何時間前……温もりを感じたのに……

「いやぁああああ~~~~」






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