第一章
天界の何処かに存在する学園。
その唯一の学園では、天界の掟や役割を学べるのだそうです。
通うのは小さな羽を持つ者たち。すなわち“天使候補生”。
この学園を卒業し、大天使ミカエルに認められた者だけが“天使”の称号を手にするのです。
『セイントミカエル学園』
理事長は、全てを超越した大天使ミカエル。
その姿を見ることができるのは、「付き人」として認められた優等生だけです。
「守るために必要なのだ」と……大天使ミカエルは静かに答えた。
校門に立ち、朝の校務を果たす。
閉門の時間まで、後わずか。
服装の乱れは、私たちに在ってはならないもの。
「そこ、ネクタイが歪んでいるわ。直しなさい!」
睨んだ私に、文句を言いながら直す候補生。
八つ当たりなのか、通り過ぎながら……
「小さい羽のくせに……」
【ズキッ】
時が止まったように、目の前が暗くなる。
羽の大きさは、自分の存在価値。
私は、自分が好きじゃない……羽は、正直に大きさとなって現れる。
能力は、あるのに……
力が出し切れない私の羽は、大きくなることが無いように感じる。
私、シフリールは成績優秀生。
候補生の風紀を見守るぐらい……なのに……。
自信が無いのは、きっと……
時間が迫り、門はゆっくりと閉まり始めた。
通れるのか?と、思える……そんな隙間。
速いスピードのそれは、私の横を通り過ぎる。
「ふ~~。セーフかな、リル?」
「アウトよ!!イズフィー」
私のことをリルと呼ぶ彼、イズフィーは……
「お~い、イズフィー!早く来いよぉ~~」
みんなに好かれる人気者。
彼は、栗色のサラサラの髪を揺らし……大きな羽を一度大きく開いて、閉じる。
【ドキ……ッ……ン】
私の事なんか……
「いつも言ってるよね~?その呼び方は、するなって~~!」
私の頭を撫でながら、建物の窓から叫んでいた人に叫んで返事を返す。
ずるい……ずるいぃ~~~~!!
成績が良くても、分からないことはとても多くて……くやしい……
「子どもじゃないんだから!触らない……で……」
感情が溢れ泣きそうになる私を、優しく抱きしめ、小さな羽に触れる。
【ビクッ】体が跳ねた。
驚きと、恥ずかしい何か……
「止めて!風紀問題よ!!」
押し退ける私の耳元に、優しい声が囁かれる。
「どうして?可愛いのに……愛情は、悪いもの?」
髪の色と同色の透き通った瞳が、色っぽく私を見つめる。
ずるいぃ~~~~!!
「ネクタイは、どうしたの?服も、ボタンを閉めて!!」
目のやり場に困るほど、服が……服が!!
【くすくすくす……】
つかみどころのない彼、イズフィー……本名は、イズフィール。
幼い頃から、いつも一緒だった。
最後のルが言えない時から一緒……定着した呼び名は、私だけのもの。
大きな羽は、彼の自信……
成績では勝てるのに……
「リル?いつ、気がついてくれるの。」
彼の見つめる眼は、私を苦しくさせる。
必死で、誤魔化すように……
「気づいているわ!きちんと、風紀委員に服装の乱れを報告する!!私に……」
近づかないで……苦しいの……
でも、離れちゃいやだ……
「……さん、シフリールさん!」
「はへ?」
ここは、理事長室。
昨日、付き人候補に上がって……ほぼ確定になった私はここに呼ばれた。
ミカエル様の姿は、幾つか建てられた像とは違う姿。
不思議そうに見ていたからか、ミカエル様は私に微笑む。
とても、麗しいお姿に見とれてしまう。
「改めて。汝、シフリールを我、ミカエルの付き人に任じる。」
祝福の光が、私を包み……部屋の中なのに、風が通り過ぎた。
心が、軽くなり……爽やかな何かを感じる。
これが、幸福……?
「早速で、申し訳ないが……ラファエル、入りなさい!」
幸せに浸る時間もなく、部屋に通されたのは見たことのない青年。
うわっ……この人も、きれいな顔。
「はじめまして。」
ニッコリ笑うと、穏やかさに癒される。
レベルが違う……
「はじめまして。付き人は、学園に数名。あなたも、付き人ですよね?」
「えぇ。特別の任務で……」
「ラファエル、私から事情を彼女に説明する。」
ラファエルの言葉を遮り、ミカエル様は羽を広げた。
光に、透き通るような大きな羽。
白いはずなのに、特別な人は……これほど神聖なものになるんだ……
私の羽も……いつか……
「シフリール。羽は、あなたの心です。精神であり、思考ではない。」
羽を見つめる私に、ミカエル様が諭される。
分からない。いつか、理解するのかな?
もっと、真剣に聴いておけばよかった。
ミカエル様は、すべてを知っていたんだ……これから起こることを……
特別な任務を持ったラファエルの補佐。
彼の大きな羽は、白い。
「何と呼べば?」
「そうね。みんな、そのまま呼ぶわ。」
親しい人なんかいないから。
「ではリル、よろしく。」
差し出された手に、呼び名を許してしまった。
いいか……彼が、特別なわけでは……ない。
「ラファエル、行きなさい。あなたには逢うべき人がいる。シフリール……いえ、あなた達に。任務の遂行の上に、祝福を求めます。」
「「ありがとうございます。」」
ラファエルの落ち着いた雰囲気が、私を安心させる。
常に、頑張ってきた。気を許すことなく……
付き人の任命を受けたことも、関係するのかな?
「ふっ……リルは、考え事が癖なの?」
静かに、気を許したような笑顔。
【ドキッ……】
わわわっ……落ち着け、心臓!!
「癖と言うか……違うような……そうなのかな??」
私の慌てた返事に、おなかを抱えて笑っている。
ふっ……口元が緩み、顔がほころんでしまった。
「緊張が解けた?その方が可愛いよ。」
「ありがとう♪」
どれくらい、こんな笑顔をしなかったかな?
顔の筋肉が、少しぎこちなく感じる。
「自然でいられる……ラファエル、これから宜しくね?」
「あぁ、俺も落ち着ける。最近、感情を乱されっぱなしだったからね。」
苦笑いのラファエルに、親近感がわく。
「……リル?ね……彼は、何?」
いつもより低い声が、私の後ろから聞こえた。
と、同時。手首をつかまれ、勢いよく引かれた。
「ひゃっ??」
ぶつかったのは、イズフィーの胸。
抱きしめる力が強く、怖さを感じた。
「ね?君は、誰?」
頭の上から、さっきより低い……聞いた事のない低い声。
まるで……
「特別な任務で来た、ミカエル様の付き人。ラファエルです。リルは、私の……」
「呼ぶな!!」
抱きしめる力が、一層強くなる。
「放して……イズフィー“ル”。任務なの……誤解されたくない。」
私は、イズフィーの顔を見なかった。
うぅん……見れなかった。怖くて……
見ておけばよかった。そうしたら、すぐに後を追っていけたのに……
そして、あんなことにはならなかった。イズフィー……どうして……
問題は、これからだった。
ミカエル様の姿を知ることが出来るのは、付き人だけ……
「リル、候補生とは違う気配を感じる。行こう!任務の一つだ。俺も、詳しくは聞いていない。徐々に、理解するだろうと……」
ラファエルの広げた羽に、見とれ……後ろを必死でついて行った。
小さいけど、能力に支えられ……ついていけた。
この任務が、私に自信を与えてくれるかもしれない……
その時は、そのことで頭がいっぱいだった。
……あれ?校舎の隙間……黒い……羽?
まさか……ここに、その色は存在しない。
目を凝らそうとした……
「リル。急いで!!」
「え?うん!今すぐ……行きます!」
思えば、自分の出来ていないところが腹立たしい……
イズフィー……あなたが、彼と会っていたなんて……
結局、学園内を捜したが見つからなかった。
『ビービービービー』
機械的な、今までに聞いたことのない警告音に、私たちは顔を合わせる。
「何が、起きたんだ?」
「分からないわ。今まで、こんな警報なんて……」
「ミカエル様の許に、急ごう!」
警備・聖戦部隊科の候補生が、武装して秩序正しく配置についている。
門は、見たことのない厳重なものが出現した。
物々しい雰囲気に、二人が理事長室に入ろうとした瞬間。
いきなりの爆風に……私は、気を失った。
目覚めたのは、警戒態勢が落ち着いた頃。
医療室のベッドに寝ていた。
目が覚めた私を、ラファエルが見守っていた。
違和感がある……いつも、いるべき彼じゃない。
私に何かがあったら……彼が……いつも、イズフィーがいたのに……
怖い……嫌な、予感がする。
「……ラファエル……ここに、イズフィー……イズフィールが来なかった?」
私の質問に、目を伏せ……ため息を一つ。
「ラファエル。答えてよ!!彼は、怪我をしたの?どこにいるの?ねえ!教えてよ!!」
「……彼は……反逆罪……追放、されたと……」
ハンギャク……?
ほんの、何時間前……温もりを感じたのに……
「いやぁああああ~~~~」




