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  作者: 一ノ瀬亮太郎
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【五】

「差し支えなければ、お前さんとおかみさん……志津さんとの関わりを教えてくんねえ」

「特別なもんじゃないよ。吉原の遊女と馴染みの客っていうだけだよ」

「吉原の遊女?」

「ああ。あの器量だ。贔屓(ひいき)の客も多かったよ」

「年季明けで煮売屋を?」

「遊女のくせに料理好きだったし、腕前も良かったからね。客を取れない日は板場を手伝ったりしてたくらいだ。宿場あたりに落ちてく女が多い中、珍しいことだよ」

「それで、志津さんの身の上なんかは聞いちゃいねえか?」

「ああ、本当かどうかは知らんが。本人の言うところじゃ、村で一家が村八分に遭って、田を捨てて江戸に出たけど食っていけず、売られたってことだ。もういいかい?」

「あ……ああ。ありがとよ」

「それじゃ私はもう行くよ。払いはよろしく」


 男が出ていった後も茂次は床几から立ち上がれずにいた。


 あのおかみがおしずだった……おしずは何でそう言わなかった? あれだけ俺の愚痴を聞いてながら……解らねえ。昔のことは水に流してくれたってことか? そんな都合のいいこと考えるもんじゃねえ。おしずは言ってたじゃねえか。謝ったからって許されるもんじゃねえと。やってしまったことは取り返せるもんじゃねえとも言ってたな。俺達のせいでおしずが苦界に身を沈めることになったんなら、間違いなく取り返しのつかねえことだ。俺があの茂次と判ったのに、何にも責める言葉を言わねえってのは腑に落ちねえな。


 何か企んでるのか? 俺に正体を知らせず近づいて何をしようとしてる?


 まてよ……そうか……そうだったのか。最近おみよが行ってるのはあの店だ。おみよが行ってるなら当然おかみがそう言うだろうと思うから疑いもしなかったが、あれがおしずなら……それも何も言わずにいるのが企みのためだったら……おみよを店に越させてどうする気だ? おみよを手懐けて……攫う? まさか殺したりしねえだろうが……意趣返しに痛めつけるか?


 くそ! ぐちぐち考えてる場合じゃねえ。今すぐおみよを取り戻さねえと!


 茂次は座っていた床几の上に銅銭三枚を放り投げておいて、茶店を飛び出した。


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