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4話 おねだりタイムは続く

料理にがっついているのは、タナスに護衛として雇われた女性だけの冒険者パーティー──「あかつきに眠るダイヤ」の面々だった。


リーダーのアイファは、さきほどの凛とした姿がどこへやら……口いっぱいに頬張る姿は威厳の欠片もない。

ブレイネはスプーンやフォークを投げ捨て、手づかみで食べ始める始末。

クラウは斥候らしい素早い身のこなしを活かし、小柄な体格に似合わぬ早食いで誰よりも先にお代わりをしていた。

ロエルはおっとりとした見た目どおり動きはゆっくりだが、一心不乱に食べる様子はいかにも食事を楽しんでいるといった風だ。もっとも、彼女なりに急いでいるのか、時折口の周りをペロリと舐める仕草は妙に色っぽい。


そんなタナス一行の見事な食べっぷりも、デザートを口にした瞬間にさらに熱を帯びた。



「なんじゃこりゃ! 甘ぇ! めちゃくちゃうめーぞ! 天国か? アタイらこのまま昇天すんのか!」


「珍しくブレイネと意見が合ったな。これぞ至高、あまねく乙女を楽園へ誘う奇跡!」


「ほわほわ~~……お口の中に幸せが広がっているのです~……」


「ラングさんだっけ? 普段からこんな贅沢してんの? 今日初めて、何かを食べて涙出たよ! ほら見て、目のウルウルが止まんないんだから! ねぇ、ロエルの乳揉ませるからお代わりさせてよ! 服の上からなんてケチなこと言わない! ナマで! ナマチチで!」


「もう、クラウったら何てこと言うのよ! 人のおっぱいを勝手に交渉材料にしないで!」


「いや、アタイも許す! 今すぐ剝ぎ取ってやるから、それで一つ頼む!」


「ブレイネまで何を言い出すのよ~! プンプン」


「ロエルよ、よく考えるのだ。胸は揉まれても減らぬが、この絶好の機会は二度と訪れぬやもしれん。どちらの損失が大きいか、明白だろう?」


「う~ん……言われてみれば確かにそうかも。機会を逃したらダメだよね……」


「うむ。ではこうしよう。その二つのかたまりを提供する対価として、得たスイーツの取り分を一番多くしてやる!」


「え~~ほんと? それはお得! うん、わかったよ!」


(げ! マジ言ってんの!? ロエルさん、チョロすぎるってば……)



「皆さん、おふざけはそろそろ終いにしましょうかね。さっきからお隣のご婦人につねられて、腕が悲鳴を上げてるんですがね……」


「そうですわよ。ダーリンの乳担当は私だけで十分です。そんな大きいだけのチチより、私の方がよろしいでしょう?」


「ナタりんまで悪ノリしない! 一旦、乳離れしましょうよ!」


とはいえ、甘味を安易に提供するのは考えものだ。

ポルテアにいるならまだしも、旅先ではスイーツの食材を常に確保できるとは限らない。

優先すべきは仲間たちである。甘味大好きドワーフのドグマしかり、プリンがプルンのナタりんしかり、ジョナサンだって毎回楽しみにしているのだから。



「皆さんのお気持ちはわかりますが、簡単に『はい』とは言えません。想定外の人数ですので、食材が足りなくなる恐れがあります。甘味以外なら魔物を倒せばなんとでもなるので、提供するのもやぶさかではありませんがね」


「やはりそうか。無理を言って済まなかった。急に倍の人数となった事情は理解した。

だが時々でいい、我らにもどうにか提供してもらえぬか?

それと、スイーツはさておき食事の方は是非お願いしたい。もちろん対価は支払おう。今は手持ちが心許ないので、その分は働きで補おう。……足りぬようなら、ロエルだけでなくクラウの乳も差し出そう。小ぶりだが形はいいぞ?」


「とりあえず乳の話題は忘れましょうか……。俺の腕をこれ以上真っ赤に腫らさないでほしいので。代わりと言っては何ですが、こちらから“乳”を提供しますよ」


俺は先ほど搾乳した牛乳に砂糖を加え、試飲を促した。



「これが牛の乳か! これもうめーな! リーダー、これ飲めるなら御の字だろ!」(ブレイネ)

「御の字どころじゃないよ~! 激ウマじゃ~ん!」(クラウ)

「私の乳は牛さんに負けました……しょぼん。でもウマウマなので仕方ないです~」(ロエル)

「では決まりだな。よろしく頼む。それと……言いにくいが、もう一杯いただけないだろうか?」


最後までアイファはブレなかった。甘いものに目がないのは、どの女子もみんな一緒なのだ。



「牛乳はお風呂上がりにグイっとそのまま飲むのも最高ですよ!」


「風呂上がりの牛乳……確かに美味しそうだな。だが、まさかお風呂まで入れるのか貴殿たちは?」


「ええ、そこにある宿泊コンテナに浴室も完備してます!」


「それも使わせてくれ~!」

女性冒険者達の声が見事に重なった。



おねだりタイムはまだ続く。

だがこの人数だと例え交代で入っても何時間かかるんだ?

いっそ一緒に入って洗いっことか……? いやいや、そんなこと口に出したら腕が再起不能になる。

これもまた安易に了承できない案件だ。とりあえず仲間と相談してから結論を出すとしよう。


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