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3話 俺に通訳しろと?

タナス一行と共に旅をすることになったラングたちは、馬車の交換と荷物の積み替えを終えた。

しかし予想以上に作業に時間を取られてしまったため、その日はこの場所で野営することに決める。

合間を利用し、互いに自己紹介をすることになった。


「皆さま、今回アントマイチェ辺境城塞都市までご一緒させていただきますタナスと申します。この度は助けていただき、誠にありがとうございました」

タナスは深々と頭を下げ、感謝の意を示す。

先ほどまで途方に暮れた表情をしていたが、今は柔らかな笑みを浮かべていた。


「無事に目的地へ辿り着けるよう力を合わせて参りましょう。どうぞよろしくお願いいたします。――では、護衛を務めてくれている『あかつきに眠るダイヤ』の皆さん、順番に自己紹介をお願いします」


タナスの言葉に応じ、まず一人の女性が前へ進み出る。

燃えるような赤髪を後ろで束ね、銀色の鎧を纏ったキリリとした美女だ。


「紹介にあずかった、暁に眠るダイヤのリーダー・アイファだ。先刻は助力に感謝する。共に旅をするのも何かの縁、どうかよしなに」

やや堅い口調で話す。腰には剣を下げ、隙のない立ち居振る舞い。なかなかの腕前と見える。


「――あたいはアマゾネスの戦士、ブレイネ。見ての通りガタイがいいから盾役を任されてる。剣の腕にも自信があるし、道中で手合わせしようじゃねーか。そこのドワーフ、それにでかいのも……相当やりそうだな。ぜひ相手してくれよ。下の槍に自信があるってんなら、そっちのお相手も大歓迎さ。かっかっか!」

愉快そうに笑う筋肉質の女戦士。ジョナサンに引けを取らないたくましい体つきで、さらりと下ネタを差し込むあたり豪快な性格がうかがえる。


「まったくブレイネったらはしたないんだから! 私まで下品に見られるじゃない。――私はクラウ。弓使いの斥候よ。隠密系のスキルがあるから奇襲は得意。仲良くしてくれると嬉しいな♪」

小柄でボーイッシュな見た目。美人というより可愛らしい印象だ。斥候役のいないラング一行には心強い仲間になりそうだ。


「え~と、ロエルといいます。ヒーラーなので戦闘では役に立ちませんが、怪我をしたら言ってくださいね。癒してあげちゃいます♡」

ロエルは……とにかく胸がでかい。

爆乳を揺らしながら話す姿は、ある意味で破壊力抜群だった。


「イタタタタっ!」

思わずその双丘に目を奪われていたラングは、隣のナターシャに腕をつねられ悲鳴をあげる。


「『隣の乳は青い』とはよく言ったものですわね。まだ揉んでもいないうちから他の胸に目移りとは……女のプライドが許しませんわ! それならば、存分に味わっていただきます!」

言うが早いか、ナターシャはラングの頭を抱き寄せ、自らの胸にうずめた。


「フゴフゴ!? へへはへへはいってば~~!(息ができないってば~!)」

必死にもがき、ようやく抜け出したラングは大きく息を吸う。


「どうでしたか? ラングさん専用の乳の感触は♡」


「最高でした! っておい、危うく窒息するところじゃないか!」


「でもご堪能いただけたようで♪ ほら、暴れん坊が大変なことになってますわよ♡」

多感な青年の生理現象は時に意思を超えて暴走する。中腰になるラングを責められる者はいなかった。


「所かまわずイチャイチャしおって! 乳繰り合うなら他所でやらんか!」

とうとうドグマの堪忍袋の緒が切れた。


その後仕切り直してラングたちも自己紹介を済ませ、ようやく野営の準備に取りかかった。



ラングがコンテナハウスの切り離しをする間、ドグマは道具袋からコンロセットやテーブルセットを取り出し、ジョナサンと共に炊事場を整える。

ナターシャはエプロンをかけ、食材の下ごしらえを始めた。


旅を続けるうち自然と定まった役割分担を、それぞれ黙々とこなす。

その手際の良さに、タナス一行はただ呆然と眺めていた。


「つかぬ事をお尋ねしますが……目の前の光景は現実でしょうか? あっという間に炊事場や食卓が出来上がり、荷馬車が宿泊施設に様変わりしたようですが。そもそも皆さんは野営で毎回このように本格的な料理をなさっているのですか?」


「俺たちは食にこだわりがありましてね。毎晩――というか毎食こんな感じです。

それに収納力抜群の道具袋を全員が持っているので、実はかなりの荷物を運んでいるんです。ご覧の通り、取り出せばすぐに食事の準備が整います。

それと、仰る通りコンテナは宿泊施設にもなっていて、切り離せば野営準備が完了するって寸法です!」


「はぁ……何と言ってよいのやら。私の想像を遥かに超えています」

タナスは驚き疲れた様子で感想を漏らした。


「私からもいいだろうか。ドグマ殿が先ほどいとも簡単に火を起こしたが、あれは魔道具なのか? 旅先でこれほど便利ならば驚きだ」

アイファが興味深そうにコンロセットを見つめる。触りたくてうずうずしているのか手をワキワキさせていた。


(まぁそのうち扱い方を教えてやろうかな)



「こういう便利なものは、みんなドグマさんが作ってくれたんですよ! 何せ天才ですから!」

ラングはつい自慢げに語る。その背後には、揺るぎない信頼があった。



そうしている間に――香りの暴力が吹き荒れる。

ドグマが操る調理魔道具から立ちのぼる煙が、タナスや腹ぺこ冒険者たちの鼻をくすぐったのだ。


「質問ばかりで恐縮ですが……この、物凄~~く食欲をそそる匂いは何なのでしょう?」


「それは燻製(くんせい)ですね。肉や卵、チーズなんかを煙で(いぶ)す調理法なんです。独特の風味が楽しめるし、多少は保存も利きます。昼食用にも便利なんですが――やっぱり出来たてが最高なんですよ! もしよろしければ、試してみます?」


「是非!」

鼻をスンスン鳴らしながら匂いを嗅いでいたタナス一行の声が重なった。


こうなったら燻製だけじゃなく、食事もご一緒に――。


ラングはもう一組テーブルセットを取り出し、全員が座れるようにした。

急な人数増加だったが、日中に倒した熊や猪もどきの魔物があり、食材はむしろ余り気味。

さらに道具袋の中には携行食がぎっしり詰まっている。

加えて彼らには、牛に似た魔獣二頭と、バイオレンスチキ数羽が控えていた。


そう、ラングたちの旅は『馬車』ではなく『牛車』。

調整したシャーシ式馬車に宿泊用コンテナを載せた――その名も『キャンピングコンテナ牛車』だ。


どうせ馬車でも大して速度は出ない。ポルテアを南下するにつれ道は悪化し、実際ここまで来るとスピードの出し過ぎは事故の元。

実際タナス一行も(わだち)に足を取られ、立ち往生していたではないか。

それならば、乳を搾れる牛の魔獣に牽かせ、コンテナに鶏部屋を設けて卵を確保するほうが合理的だった。


「快適に旅を続けるための工夫というやつなのだよ、ワトソン君」

例によってラングの謎発言が飛び出す。


改良を重ねたコンテナは二階建て。天気が悪ければ中で調理でき、風呂とトイレはセパレート仕様。

しかも女性用トイレまで備えているというこだわりぶりだ。

実際はナターシャの強い要望を反映した結果だが、紳士を自認するラングにとっても当然の配慮であった。


間取りはまさかの4LDK。内部は空間魔法で拡張され、見た目以上に広い。

無理に部屋数を増やすよりも、それぞれの私室をゆったり取ってリラックスできる空間に仕上げた。


雨天対策も抜かりない。

側面の接続部を外して跳ね上げれば片持ち屋根が現れ、専用の支持棒で固定できる。

進行方向にはスライド式の屋根まであり、牛用の雨よけも完備だ。


幅広の車輪は荷重分散のためで少々不格好だが、今のところ問題なし。

道が狭くなればコンテナごと道具袋に仕舞い、牛と鶏を連れて歩けばいい。

羊飼いみたい?それとも動物を連れた音楽隊であろうか?



やがて調理が終わり、テーブルの上に料理が並ぶ。

立ち上る湯気と芳しい香りが食欲を刺激し、腹の虫は限界を迎えていた。


「それでは食べましょうか。では――」

「いただきます!」

すっかりお馴染みになった合図と共に食事が始まった。

……タナス一行がややフライング気味だったことは見逃しておこう。


「なんだこりゃ、うめ~ぞ! ほんはのはへはほほへぇ!」

大女が声を上げる。口いっぱいに頬張っているせいで聞き取りづらいが――おそらく『こんなの食ったことねぇ!』と言っているのだろう。



「ふへひへ、ひょうひははふひほ!へほ、はひへひひは」

アイファさんも大概だぞ? 『ブレイネ、行儀が悪いぞ!でも、マジで美味だ』と言ってるのかな?


「はいはほひほほほほはひへはへふほ、へほほふひへふ!」

あんたまでか……『アイファも人の事は言えませんよ、でも同意です!』であってるかな?ロエルさん?


「◎$♪×△¥○&?#$!」

……もう訳がわからない。落ち着けみんな!


ふと見れば、タナスも一心不乱に食べていた。

よっぽど気に入ったのだろう。

これだけ美味しそうに頬張ってくれるなら、作り手冥利に尽きるというものだ。




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