2話 タナス一行
「改めまして、私はプラント商会のラングと申します。以後お見知りおきを」
「これはご丁寧に。私は行商人のタナスと申します。このたびはご助力いただき、本当にありがとうございました」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですから」
「ところで……荷馬車の様子はどうなりましたかな?」
「それが、車軸は直せたのですが、全体に歪みが出てしまっていまして。さすがに現地で完全な修理は難しいようです。その者曰く、新しく作り直した方が早いとか」
「そうですか……。やはり無理な体勢を取り続けたせいでしょうかね。せっかくお骨折りいただいたのに、申し訳ございませんでした」
タナスは深々と頭を下げつつも、肩を落とした。
「それでですね――」
ラングは道具袋を探り、ごそごそと何かを取り出す。
「あ、これだ」
次の瞬間、袋から巨大なコンテナ式荷馬車一式がヌッと姿を現した。
「え、えええっ!? 小さな袋から、なぜこんな……!」
タナスは目を白黒させている。
無理もない。常識ではあり得ない光景なのだから。
「もしよろしければこの荷馬車を使ってください。予備に一応持ってきてたんです♪」
ラングがあっけらかんと言うと、タナスは呆れたように笑った。
そうして目の前に現れた荷馬車をまじまじと眺めながら感想を述べる。
「いやぁ先ほどから驚かされてばかりなのですが、随分斬新な荷馬車ですね」
「えぇ、こちらはカイエイン商会で開発・製造している運搬道具でして……」
ラングは得意げにコンテナ式荷馬車の説明を始めた。
これは言わずもがな、分離式リヤカーを改良したものである。
「まさか! ポルテア沿岸守護隊が正式採用したという、あの荷馬車では?」
「よくご存じですね。仰る通り、フォルンコート伯爵家からの依頼で納めたものと同じです」
「やはり……! そんな品をお貸しいただけるとは、ありがたい限りです。ただその……いかほどご入用でしょうか?やはり相当な金額になるのでしょうね。」
「それならお気になさらず。袋の中で眠らせておくより、誰かの役に立った方が荷馬車も喜ぶでしょう。道具は使ってなんぼですから」
「ですが、それではさすがに気が引けます。あんまり高額だとあれですが、やはりタダという訳には……」
「う~ん、それなら情報をください。世情に疎いものですから、これから向かうサウスポルトニアやその先の辺境の城塞都市アントマイチェについてご存知の事をお話しいただければと」
「それならちょうど良かった。私どもが目指しているのもまさにその二つの都市。もしよろしければ同行させていただき、道中お話させていただくというのはいかがでしょう?」
「それは名案です! 旅は道連れ世は情けってね。是非ご一緒させてください!」
タナスはこれまで港町ポルテアを拠点に行商を続け、珍しい舶来品を各地に売りさばいてきたという。サウスポルトニア方面に向かうのは十年ぶりらしく、最近の事情には疎いらしい。
しかしラングにとっては未知なる土地。風習や特産品など、どんな断片でも大いに役立つだろう。
さらに話の流れで、タナスはラングの正体を知り、大きく目を見開いた。
「確か……ラン……何とかという名前だったような……。はっ! まさかあなたが、カイエイン商会の麒麟児にして海神様の使徒と呼ばれる青年では!?」
「あっ!そんな風に噂されてるようですね……。 お恥ずかしいですが、タナスさんが耳にされたその人物が私で間違いないです。未熟者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「いやはや、なんたる僥倖! ぜひこれをご縁にお近づきになれましたら!」
タナスは感嘆を隠さない。さらに仲間たちの力や、道具袋の性能にも驚嘆していた。
「先ほどの怪力のお連れ様もそうですが、大きな馬車を収納できる袋とは……!」
「ええ。二人とも頼りになる仲間ですし、この袋を作ったのも凄腕の魔道具士なんですよ」
「そうですか、それは楽しみです。ぜひ後ほどご紹介を」
――こうして、それぞれの仲間を紹介し合う流れとなった。




