幕間2 私のヒーローにいつか伝えたい
「エマルシアとアイファイメージ」
「※AI生成」「AI generated」
エマルシア=カイエインが部屋にこもりがちになったのは、日々積み重なる無力感が澱のように心に沈んでいったせいだった。
もとはよくしゃべる快活な娘。
けれど――
がり、がり。
がり、がり。
少しずつ自信を削られてゆき、入学という環境の変化が最後の一撃となった。
裕福な商家に生まれ、何不自由することなく育った。
幼くして母を失ったのは悲しかったけれど、父がその分まで愛してくれた。
いつも私を一番に考え、私が何かに迷えば、傍らに立ち導いてくれる。
――私のお父さんはなんてすごいんだろう。
そう思うほどに、私は「自分は何者なのか」を考えずにはいられなくなった。
子どもの頃のように無邪気に甘えてばかりはいられない。
やがて周りの視線や期待が見えてきて、そのたび心は削られていった。
この世界は――平等でありながら、不平等だ。
持つ者は限りなく持ち、持たざる者は比べるのも嫌になるほど何も持たない。
平等とは、誰にでもラベルを貼ること。
「金色の才能ある者」「銀色の惜しい者」「銅色の静かに生きるべき者」……そして私は、ラベルすら貼ってもらえなかった存在。
【友愛の証】というスキルを授かったとき、私は無邪気に喜んだ。
鳥や猫、身近な動物たちが皆、友達になってくれたのだ。
あるときは、街に現れた魔物に「ここでは暴れないで」と頼み、大人しく外へ帰らせたこともあった。
父は「よくやったね」と褒めてくれた。
けれど、人々は違った。
気味悪がられ、まるで私が魔物を呼び寄せたかのように疑われた。
私には動物や魔物の声が聞こえる――だが、人々にはそんな力は理解できない。
彼らの目には、私が魔物を操っているようにしか見えなかったのだ。
「どうして? 魔物さんが街の人達を傷つけないようにしたかっただけなのに……」
心の中で問いかけても、答えは出てこない。
父に聞けば「エマは悪くない」と言ってくれるだろうけど、これ以上心配をかけるのも嫌だった。
悶々とする日々の中で迎えた学園生活。
「私にも友達ができるかな?」
環境の変化が私を救ってくれるかも。
そんな淡い期待は、すぐに裏切られる。
ラベルを持たぬ私は腫れ物のように扱われ、やがて「役立たずで嘘つき」というレッテルを貼られた。
本当のことを言っているのに叱られ、誰からも信じてもらえない。
――もう、学校なんて行かない。
部屋から出るのも嫌になって、泣いてばかりいた頃にあの人と出会った。
何度か来たことのある商会の食堂。
入った瞬間今までに嗅いだことのない甘ったるい、そして物凄~く良い香がした。
そこにいたのは、いつも優しいアルマさんとトルマさん。
そして、見知らぬ一人の男の子。
「お嬢、待っておったぞ。とっておきの自信作を用意してある」
トルマさんが自信たっぷりに声をかけてきた。
どうやら、あの男の子も一緒に作ってくれたらしい。
運ばれてきた皿には、色鮮やかに盛りつけられた料理。
ひと口食べた瞬間――驚いた。
ここ最近ずっと食欲がなかったのに、気づけばあっという間に平らげていた。
だって、こんなに美味しい料理、食べたことがなかったんだもの。
聞けば、その食材は朝からあの子が採ってきてくれたのだとか。
……ハンター? それとも採集のプロ?
お礼を言ったら、はにかんで頷いてくれた。
とても不思議な雰囲気の子だな……。
次に出てきたクレープで、私は完全に魔法にかけられた。
口の中でとろける「甘い」と「しょっぱい」の絶妙なコンボに、魂が抜けそうになったの。
気づけば顔がにやけて、声を上げて喜んでしまった。
……変な子だと思われなかったかな?
でも、そんなことどうでもいい。
甘いは最強! 甘いは正義!
気づけば自然と笑顔になっていた。
笑顔の魔法は効果てきめん。
クヨクヨしていたのが、馬鹿らしく思えてきた。
でも……どうして「このなの私はじめて」って言っただけで、あの子は顔を赤くしたんだろう?
いつかその理由も聞いてみたいな。
それから私は少しずつ部屋を出られるようになり、食堂に顔を出すようになった。
まだ学校には行けていないけれど、きっとそのうち――。
ラング君とは、毎日のように話すようになった。
……甘味目当てじゃないかって?
そんな意地悪を言う人とは口きいてあげません!
でも、本当に不思議。
いいえ、彼そのものが不思議なの。
気づけば、ラング君に悩みを打ち明けていた。
「素晴らしい能力だね! 動物と仲良くなれるなんて、本当にすごいよ」
キラキラした瞳でそう言われた時、胸がいっぱいになった。
信じられない気持ちで――でも、彼を信じられないんじゃなくて。
私を本気で肯定してくれる人がいたことが、信じられなかったの。
「すごい特技だよ」
その言葉に救われて、思わず涙ぐんだ私に、彼は優しく笑いかけてくれた。
その笑顔と言葉は、きっとこれからも忘れない。
――私をわかってくれる人が、一人でもいればいい。
そう思えた瞬間に、すべてが楽になった。
ラング君が理解してくれるなら、それで十分。
その後も色んなことがあったね。
バイオレンスチキ達との出会い――あれで私は自信を取り戻せた。
ヒヨコを育てて、大人チキ君たちをなでて、食堂に通うのが日課になった。
課外実習の時は、心配で仕方なかった。
でも、蓋を開ければみんなで笑ってばかりで、不安なんて吹き飛んで。
ラング君はまるで冒険譚の主人公みたいに、見事に解決してくれた。
気づいてる?
ラング君は、私のヒーローなんだよ。
いつか――この気持ちを、ちゃんと打ち明けられるといいな。




