幕間1 200年探し続けてやっと巡り合えたあなただから
「ミニスカメイド服姿のナターシャのイメージ」
「※AI生成」「AI generated」
装いも新たに活動を始めた企画生産部。
職員の数を増やしながら、穀物や野菜の生産は順調に拡大していった。
調味料の開発も進み、酢・味噌・醤油、さらには砂糖や甘味の類まで次々と世に送り出された。
中でもマヨネーズは、これまでになかった風味で世間に衝撃を与えた。
特筆すべきは――不味い食材の代名詞であった『トレルの実』が、マヨネーズを使うだけで飛躍的に美味しくなったことだ。
某牛丼屋の宣伝文句よろしく、
「うまい、早い、安い~♪」を売り文句に移動式屋台で提供され、お好み焼きやたこ焼きを凌ぐ人気となった。
もともと植物系食材との相性は抜群だったが、ここまでの奇跡の相性は誰も予想していなかった。
(やはり世界を制するのは……調味料か)
ラングはしみじみと思うのだった。
衣料品についても成果が出始めた。
ウールの安定生産によりセーターやニット帽といった防寒着が市場に並び、綿花も改良を重ねて約四年後には「木綿のハンカチーフ」の試作に成功。やがて木綿布が安定生産され、本格的な衣料産業へとつながっていった。
その間、ラング自身も目まぐるしい日々を送りながら、数々の挑戦を続けた。
中でも最大の挑戦が――企画生産部の分社化である。
商会本来の海運業とはかけ離れていく新事業に、会頭は「線引きが必要」と判断。
その懸念を受け、ラング自身が分社化を提案したのだった。
結果は満場一致。
会頭以下、幹部全員が賛成し、正式に暖簾分けという形で独立。
「プラント商会」が誕生したのである。
もちろん初代商会長はラング。
成人したばかりの少年がトップに就任するという異例の人事は、瞬く間に世間を駆け巡った。
新商会は「畜産課」「農産課」「企画研究課」「飲食事業課」「服飾課」をそのまま継承し、
名前には「植物(plant)」と「企画(plan)」の意味を込めた。
『植物の可能性を広げ』というのが表、『前世の知識を形にする』というのが裏のコンセプトだった。
こうして祝賀の式典は、例によって社員食堂で開かれた。
もっと豪華な案もあったが、この場所ほどふさわしい舞台はないと誰もが思ったからだ。
「ラング少年、立派になりましたね。今後の活躍を期待してますよ」
アルマ支配人が顔をほころばせ、祝意を述べる。ここ数年、幹部として共に働く中で、ラングがどれほど成長したかを知っているからだ。
「アルマさんには本当にお世話になりました。暖簾分けといっても、子分が一人増えたくらいに思っていてください。今後ともご指導よろしくお願いします」
ラングはその手を強く握り、感謝を伝えた。
「何かあったら遠慮なく相談に来なさい。一人で背負いすぎないようにね」
「はい、その時はぜひお願いします」
ラングは頭を下げ、次の恩人のもとへ向かう。
「めでたい、実にめでたい。さすがワシの見込んだ坊主じゃ」
「おっちゃん、今までありがとう。いつも助けてもらってばかりだったよ」
「なに、ワシもお前から多くを学んだ。……だが寂しくなるのぉ。たまには顔を出せよ」
「うん。毎日美味しい食事をありがとう。おっちゃんへの恩は絶対に忘れないから」
「こら湿っぽいのはやめじゃ。危うく目から汗が出るところだったわ。――ラングよ、ワシはこの数年、お前と過ごして毎日がワクワクじゃった。
お主はこれからもっと大きくなる男じゃ。次にどんなことをやらかすのか、楽しみにしておる。迷わず進め、未来はお主の手の中にある!」
「……ありがとう、おっちゃん」
ラングは涙を拭いながら心に誓った。料理長への恩は一生かけて返す――と。
その後もお世話になった人々へ挨拶を回り、アルバート会頭からは力強い励ましの言葉を受けた。
そして最後に決まり文句が飛ぶ。
「娘のことは、まだ許したわけではないぞ」
それも含めての形式美。
ラングは深い感謝を胸に、会頭の前を後にした。
最後は、ナターシャだった。
言いたいことは山ほどあるが、お世話になったのは紛れもない事実。
事あるごとに力を貸してくれた人なのだから、ラングはきちんと礼を言うつもりだった。
普段なら会頭の隣に控えているのだが、今日は「お色直し」と言って席を外したらしい。
最後まで真面目なのか不真面目なのか掴めない。
挨拶回りを終え、ラングは外の風に当たりながら、ここ数年を振り返っていた――そのとき。
「ラングさん」
背後から名を呼ばれる。振り返ったラングの目に映ったのは、ミニスカメイド服に身を包んだナターシャだった。
「ナ、ナタリン!? なぜそんな格好を……」
まったくもって不意打ち。どうやらまた“ネタ”で勝負を挑んできたらしい。
「あら。ラングさんはこういう格好がお好きだと思って。あなたのために、恥ずかしさを我慢して“勝負服”に着替えてきましたのよ。お気に召しませんでしたか?」
「い、いや……大変眼福ですが、不意打ちにびっくりしただけで……」
大きく開いた胸元。ミニスカートから伸びる長い脚。
ラングは目のやり場に困りながらも、真剣な表情のナターシャに息を呑む。
「お気に召していただけたなら、よかったですわ。――改めて、おめでとうございます、ラングさん」
そこでナターシャの瞳が潤み、ぽろりと涙がこぼれる。
それは以前見たものとは違う、温かい涙だった。
「あなたは素敵な人。人を惹きつけ、気づけばたくさんの人に囲まれている。
弟があんなふうに笑って働ける日が来るなんて、想像もしていませんでしたわ……」
月明かりに照らされ、涙が宝石のようにきらめく。ラングはただ見つめるしかなかった。
「ラングさん。あなたは私が二百年探し続けて、ようやく巡り会えた人です。
私はずっと諦めていたの。見た目や考え方の違いを受け入れてくれる男性なんていない、と。
だから感情を押し殺し、仕事だけの女を演じてきました。――でも、あなたが現れてくれた」
「ナ、ナタリン? えっ……どっきりじゃなくて……ガチですか?」
「はい、もちろん」
「でもこの前、“オスのギラギラが出てきたらおいしくいただく”とか言ってませんでしたっけ」
「はい、いただくのはもちろん10年後とかでいいんです♪」
「言い方ぁ!」
軽口を挟んでも、ナターシャの眼差しは真剣そのものだった。
「前回の汚腐会では曖昧にしてしまいましたから、今日はちゃんとツバをつけておこうと思いまして」
「だから言い方がぁ!!」
「で、どうなんです? 私に脈はありますの?」
「えっ……あー……正直まだ自分の気持ちがよく分からないんです。
ナタリンは綺麗だし、スタイルも抜群だし、俺にはもったいないくらいなんだけど……。
子供の自分と大人の自分が同居してる感じで、なんだかおかしくて」
「……では“大人のラングさん”は、私を好きですか?」
「……はい」
「よろしい。それで十分ですわ」
ナターシャは涙を拭き、にっこりと微笑んだ。
「あなたが立派な男性に成長するまで、ずっとそばで見守らせていただきます。覚悟なさってね」
ぱちりと片目をつぶる仕草に、ラングの鼓動が跳ね上がる。
「……あ、でも。チューくらいならしてほしいかも」
「今は……遠慮しておきます」
「そう。では今日は我慢しておきますわ」
そう言ってナターシャは踵を返し、ミニスカメイド姿をラング以外誰にも見られぬうちに着替えると――、何事もなかったかのようにすまして戻ってきた。
ラングはその後しばらく、胸の鼓動を抑えられずにいた。
――異世界に転生して以来、一番のドキドキ体験だったのは言うまでもない。
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