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19話 サウスポルトニア

スタンピードを引き起こした冒険者パーティーのリーダーの頼みを引き受けたラング。

サウスポルトニアの冒険者ギルドへ出向き、つい先ほどの騒動の顛末を説明することになった。


ラングに同行を求めたゴンザレス率いる『嘆きの咆哮』は、身体能力に優れる獣人ばかりで構成された冒険者パーティーだ。

魔法職も治癒職もいない、攻撃一辺倒の偏った編成。

それが彼らの強みであると同時に、今回の事態を招いた最大の弱点でもあった。


何せ「斥候なんぞいなくても優れた肉体があればなんとかなる!」と本気で豪語する連中である。

”攻撃は最大の防御”と心底信じているからこその言なのだろうが、ラングから見れば、極めて危なっかしい。

それでもサウスポルトニア冒険者ギルドでは重用されているというのだから、くだんのギルドの底が知れるというものだ。


もし彼らの中にクラウのような腕利きの斥候職が一人でもいれば、今回のような醜態は晒さずに済んだだろう。

蟻型魔物の巣がラングの推測どおり地表付近に張り巡らされていたのなら、猶更その“気配”をいち早く察知できたはずだからだ。


いくら戦闘力に自信があったとて、所詮は多勢に無勢。

正面からぶつかって勝ち目などなかっただろう。

逃げの一手に終始した判断そのものは、むしろ賢明であったと言える。


──だとしても、その結果が“スタンピード”だったのだから、「やらかし」は洒落で済まない。


これを機に、彼らが自分達の在り方を見直す契機になって欲しいと、ラングは心底願っていた。



弁解を終えたゴンザレスは仲間達の紹介を始めた。

とはいえ、顔立ちも体格もそっくりな同族ばかり。

名前を聞かされても、正直見分けがつかない。

その点でもまた、彼らの“異質さ”が際立っている。


やがて、そのまま共に食卓を囲むこととなった。

既にあたりは夕闇に覆われ、命からがら逃げて来た彼らには、当然夕食の当てなど無い。

一方ラング達は手分けして準備を進めており、既に夕食の支度は整っていた。


目の前にずらりと並ぶ美味しそうな料理。

漂う良い香り。

よだれを垂らしそうな勢いで見つめる彼らを前に、誘わないわけにはいかなかった。



「その……みなさんもご一緒します?」


「いいのか!ぜひご相伴に預からせてくれ!」

「やほ〜い!食べたいだに〜」

「恩に着る!」

「ご一緒したいっす。かぶりつきたいっす!」

「アオ〜ン アオオ〜ン!」


待ってましたとばかり歓声を上げる男達。

その様子を暁メンバーは、生暖かい眼差しで見守っていた。



「なんなんだお前さん達は!野営でこんな豪華な飯を食うのか? しかもこんな短時間でよくもまぁこんなご馳走を揃えたもんだ。」


「うんうん。こんなのは俺っち初めてだに。 野営つったらぼそぼその黒パンってのが定番だっけから」


「だよな。たまに干し肉がつけば御の字だっての」


「うっす。今日はなんだかたまらねぇ匂いまで漂ってくるっす。もう腹がぅぐぅ鳴ってどうにかなりそうだなっす」


「アオ~~ン アオオ~ン!」

いざ食卓に座った彼らは、あまりの豪華さに度肝を抜かれたようだった。


野外で活動するなら荷物は少なく──それが鉄則。

多ければそれだけ行動が制限され、体力の消耗も激しくなる。

結果、携行食はコンパクトにするのがセオリーだ。

美味しさなど二の次で、過度の期待は持つべきではない。


“食えるだけマシ”


それが野営での基本的心構えなのだから。



「じゃ、食べよっか? それでは──」


「いただきま〜す!」


いつものように声を揃えて夕食が始まる。

耳慣れぬ響きにキョトンとした“咆哮メンバー”も、すぐに手を伸ばした。


「うめぇ!なんだこの美味さはよ!」

「それは何より」

「とろけるだに。肉が口の中でほろほろと溶けるだに……アオ〜ン♪」

「豚の角煮です♪ あ、オークジェネラルの角煮ですね♪」

「これは美味。外カリ中じゅわの細長もちもち……? この食べ物は何だ?初めて食べる!だが、うまい!アオーン!」

「焼きそばですね。ポルテアの人気メニューですよ!」

「自分幸せっす。必死に逃げた甲斐があったっす。アオーンっす」

「逃げちゃダメでしょ。こっちは散々な目にあったんですから。てか今、“咆哮”の末尾にす付けましたよね?」

「アオ〜ン アオオ〜ン!」

「あなたさっきからそれしか言ってませんが……」


適当に相槌を打つつもりが、いつの間にか本気でツッコミを入れるラング。

なんともおかしな連中が旅の供に加わったものだと、少し後悔すら滲む。


──だが、その様子に気分をよくした暁メンバーが割り込む。


「フフフ。貴殿たちにも我らが日々口にするものの価値がわかったか。今食した以外にも神に感謝したくなるような食べ物がまだたくさんあるのだ。いや、我らの食事は毎日そうなのだっ。ハハハハハ!」

胸を張り得意げに語るアイファ。


「どうして貴女がそんなに得意げなの?」と思わず疑問に思うラング。


「なんてったって調味料なのよね。これが料理の優劣を決めるってわけ!」

アイファ同様胸を張るクラウ。

残念なことに薄い胸ではアイファほどの迫力はなかった。


「おめぇらこれで驚いてちゃ身体が持たねぇぞ!

まだ目ん玉飛び出るくらいうめぇ飯を毎日食えんだ!

驚き疲れてタマが縮むってなもんだよな〜甘王!

はっ……いつもの癖が。まことに美味しゅうござるお飯でございますことよ♡」

ここ最近口調がおかしいブレイネ。

丁寧な言葉を使おうとしているのだろうが、完全に空回りしている。

何かのアピールらしいが、効果を上げるまでには至って無い様だ。


「ブレイネの言う通りなのですよ!

今のはまだまだ序の口。この後に食べるスイーツはさらに凄いのです!

ほんと〜に甘くて、美味しくて、舌が蕩けるくらいなのです!」


最終兵器が胸を張る。

刹那、男達の視線は一斉に巨大な“ふくらみに”吸い寄せられ──


彼らの“下”が蕩けそうになった、とさ。


何にせよ、鼻高々に語るその様子は

自分達こそ、もはやラング達の“味”の虜となっている

事を如実に示していた。



それからの旅は、毎回の食事を楽しみにするだけの平穏そのものだった。

流石に浴室の利用までは許可されなかったし、トイレも各自で外処理を言い渡された。

もとはといえば“やらかした”張本人たちである。

豪華な食事を共にできているだけでも、破格の待遇と言えるだろう。


事前に知らされた“不穏”とは裏腹に、拍子抜けするほど順調に進んだ。

そして──ついに着いた。


サウスポルトニアへ!


日暮れ時ということもあり、門前には列ができていた。

王都から遠く離れた辺境寄りの町だけに、規模はさほど大きくない。

だが町全体を囲う防壁は高く立派だ。魔物の侵入から住民を守るためのものだろう。


荷馬車は少なく、ほとんどは帰宅を急ぐ住民たち。

門番は来町目的と身分証を手早く確認し、順々に通行を許可していく。

おかげでラング達も、大して時間を取られず中へ入る事ができた。

この町の冒険者が同行していたのも大きかったのだろう。

”咆哮”のリーダーが門番と一言二言会話を交わすとすんなりと先に進むことができた。


門をくぐると、道幅の広いメイン通りを進む。

人通りはまばらで、どことなく活気がない。

時間帯のせいもあるだろうが、既に店仕舞い済みの店がほとんどだ。

中には完全に店を畳んでしまったと思しき所まである。


その中で、ひときわ目を引くものがあった。

剣を掲げた英雄らしき石像。広場の入口に凛と立っている。

古いが、きちんと手入れされている。花まで供えられていた。


そしてここでタナス一行と一度別れた。

ラング達は北西にあるという冒険者ギルドへ。

タナス達は宿へ行き荷物を預けるという。



☆ ☆



ギルドに入ると、そこは閑散としていた。

受付カウンターにすら誰もいない。


普通なら女性受付嬢が

「ようこそサウスポルトニア冒険者ギルドへ」

と出迎えてくれる場面だ。


──いきなり因縁をつけられて大立ち回り、までいかなくても。

せめて“初来訪ギルドらしい”刺激となる何かがあっても罰は当たらないはずだ。


その期待は空振りだった。


が──この後ギルドマスターの話を聞き、ラングは理解することになる。

この町周辺で起きている“事件”が大きく関わっていたのだと。


“冒険者ギルド初めてシリーズ”は不発となったが……

それでも、この後きっと何かが起きる。

ラングはそんな予感がしていた。



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