序章
奴隷解放を果たしたラングは、企画生産部の部長として新たな日々を歩み始めた。
ここで、中・長期的な目標として掲げた6つの課題がどうなったのかを記しておこう。
1.植物系食材の継続的なサンプル採集・試験栽培
2.耕地面積の拡大と生産量増大、穀物の安定供給
3.各種食品開発(製粉、麺類、乾物、発酵食品etc.)
4.調味料・香辛料の開発
5.綿やウールからの衣料品開発(店舗展開を視野に)
6.紙の生産
【食の革命】
ラングが転生した世界では、肉や魚が主食で、植物を食べる習慣はほとんどなかった。
道端に転がる石ころ同然のように扱われてきた植物を食材へ――そんなラングの発想を基盤に、植物系食材は一気に普及し、今や確固たる主食の地位を築きつつある。
イワンを中心としたサンプル採集・試験栽培の成果は100種を優に超え、耕作面積も年々拡大。コメ以外の穀物も十分に確保され、それらを加工した麺類――うどん、そば、ラーメン――は庶民の間で大人気となった。
さらに小麦粉の製品化にも成功。近海の魚介を天ぷらに仕立てたところ、新たなポルテア名物となったのである。
調味料も砂糖・味噌・醤油・マヨネーズなど、元の世界の定番が出揃った。
香辛料も豊富に取り揃え、チーズやヨーグルトといった発酵食品、さらにはキノコ類の生産にも漕ぎつけている。
その結果――ポルテアは「食の中心地」と呼ばれるまでになり、王国内はおろか近隣諸国からも多くの人々が訪れるようになっていた。
【衣料品とオシャレ文化】
衣料品も目覚ましい発展を遂げた。
紳士服、婦人服、子ども服を幅広く展開し、素材の生産から縫製、販売まで一貫して手掛けている。
中には――ビキニアーマーやミニスカメイド服といった趣味全開の品まで。
どこかのわがまま令嬢ご愛用の「クマさんパンツ」「ブタさんパンツ」が、聖女様の人気と相まって大ヒット商品になったのは言うまでもない。
街にはオシャレがあふれ、人々の暮らしを彩る文化となった。
【店舗展開】
商会の姿も大きく変わった。
カイエイン商会は3階建ての総合店舗ビルを3つ所有し、1・2階を甘味処『エ・マルシーヤ』、3階を高級レストランとして上流階級の御用達に。
さらに飲食店や食料品店も多数展開し、移動式屋台も加わって、海運主体だった商会はすっかりサービス業を軸とする組織へと変貌を遂げた。
もちろん衣料品を販売する店舗も街の至る所で営業している。
宿敵アークトーク商会を壊滅させ、その店舗網を吸収したことも大きな追い風となった。
【紙の生産と課題】
一方で紙の生産はまだ発展途上にある。
天才魔道具士ドグマの発明した魔道具は改良を重ね高性能となったが、肝心の原料パルプの品質が今ひとつ。加えて生産量も乏しい。
強力なスキルや魔法に頼れば一気に解決できる場合もあるが、それでは人材に依存してしまい、生産量は頭打ちとなる。
本当に前進するには科学的なアプローチ、そしてそれを支える教育水準の底上げが不可欠だ。
だが奴隷を卒業したばかりのラングにとって、それは手の及ばない領域。
当面は、ラングを取り巻く人々が不自由なく使える程度を賄えればよしとした。
【商会の分岐点】
企画生産部の成長は著しかったが、その分仕事量が膨大となり、人員補充が追いつかなくなっていた。
求人の度に人は集まるものの、カイエイン商会には「海運の商会」というイメージが根強く、希望とのミスマッチから採用に至らないケースが多かったのだ。
さらに、海運・貿易を主力としてきた幹部層と、新しく台頭した生産・販売・研究部門との間に軋轢が生じ始めた。
――そこで、大ナタが振るわれる。
ラングが成人(この世界では15歳)を迎えたタイミングで、企画生産部は分社化。
カイエイン商会から暖簾分けする形で『プラント商会』が設立され、ラング自身がその商会長に就任したのである。
この物語は「異世界で奴隷から成りあがれ!」の続編です。
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