15話 それぞれが目撃したもの〖クラウの視点〗
いや〜、終わった後に言うのもなんだけどさ。
よく助かったよね、私ら。
スタンピードに巻き込まれたら、ただでは済まないでしょ?普通。
しかも若干1名かすり傷を負った程度で後は全員無傷ってどういう事よ!
「……まずい、魔物のスタンピードだ! 巻き込まれたら命の保証はないぞ!」
アイファが真剣な顔で叫んだ時、さすがにこりゃ詰んだなって思った。
ラング君に頼まれて遠見を使った時には、本気で逃げたかったよ。
これまでに見た事もない大量のアリンコ達!
1000だよ1000、いやそれ以上!!
ただでさえ虫が苦手なのにさ、黒いやつがウジャウジャ迫って来るなんてどんな悪夢なのよ。
背中が“ぞわぞわ”する感じ?
女子ならわかるよね。
でもさ――あいつは言ったのよ。
まるで取るに足らない事のように。
「皆さんまずは落ち着きましょう。ちと、作戦会議といきますか♪」
いやいやいや。
普段なら
「何のんきにしてんのよ!?頭お花畑なの!?」
ってツッコミ入れる場面でしょ。
少なくともあんな緊迫した場面での言いぐさではないわよね。
しかもその直後には「砦を作る」とか言い出すんだよ?
たかだか15分程度で砦なんて、普通作れないでしょ。
――なのに。
マジで出来上がっちゃってんの。
は?おかしくない?なんで?どうして?
そもそもあいつら全員ちょっとおかしいのよ。
普通じゃないわ。
ドグマ師?あのドワーフの人も大概よね。
土魔法が使えるったって、あの速度は異常でしょ。
長方形の壁作って、上を歩けて、さらに柱を何本も建てて……
あれ、私の感覚なら丸一日だって無理よ。普通はね。
それと、ナターシャさんの「状態不変」って何?
「物質の状態が変わらなくなる」って何?
聞いた事ないわよそんなの。
物質強化とかで固めるって言うなら想像つくけど、
状態を変えられなくするってどんだけチートなのよって話。
実際ビクともしなかったんだけどね。
試しにブレイネが蹴飛ばしたけど骨が折れそうだったし……。
あの怪力大女でも傷一つ付けられないっておかしくない?
あとジョンジョン君。
ブレイネの王子様。
まさかブレイネがあんな顔するとはね~。
そりゃ危ないところを助けられたらドキッとするけど
あれは恋。完全にハート撃ち抜かれてた。
乙女の顔してたもんなぁ。
で、ラング君は別格。
何が凄いって説明しづらいんだけど――判断力?統率力?
ううん……言葉に“力”がある感じ?
実際あんな緊迫した場面でもゆる~い感じに巻き込まれちゃうと言うか~
不安に思ってるのがバカバカしくなると言うか~
とにかく不思議な子。
いったいこれからどうなっていくのか……
ほんと末恐ろしいわ。
……にしても後始末大変ッ!!
ほとんどの蟻は砦を避けてどっか行ったけど、
それでもこの数でしょ?
周り見なさいよ!蟻の死骸だらけじゃない……。
解体は?死骸の処理は?
いったい誰がやれって言うのよ~~。
私達しかいないじゃない!!
虫嫌いなのに!!
もう誰か何とかしてぇ〜〜っ!
素材価値そこそこだから金にはなると思うけど……
今はそんなことどうでもいい!
休ませてよ~、偉かったねって――誰か褒めてよ~
私頑張ったんだから。
という事で、ラング君♪
甘い物ちょ~~だい!
ちょっとくらい甘やかしてくれたっていいじゃない!
プリーズ “Give me sweets!”
私を満足させてくれたら、働いてあげるんだからね!
……はぁ。
なんて日だったのかしら。




