表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

13話 こうして危機は去った

ガシッ ガシッ ガシッ――。


無数の足音が轟音となり、鼓膜を揺さぶる。

黒々と染まった大地は、まるで底流を渦巻かせる大河の暴流。

その奔流が砦を呑み込まんと迫っていた。


――が。


呑み込もうとした瞬間、群れは左右に割れた。

二筋の流れ。

いや、砦を“中州”とする大河の一部になった、と説明した方が近い。


これは魔物除けが“機能した”証拠だ。


たかが三本の土柱。

だが頑丈さは折り紙付き。


ナターシャの【状態不変】はそれほど強力――

物理衝撃を一切受け付けない。


故に逸れた個体は回避するが、

不幸にもぶつかった魔物は――無残な形で弾き飛ばされる。


こうして、群れが砦を避ける“流線”は確立された。


そして――ラングの想定していた通りの展開となる。

とっさに魔物除けをかわし、砦に向かう個体がちらほら現れたのだ。


バチッ!


空気を裂く音とともに、一体が黒焦げと化す。

電撃を浴びれば、魔物と言えど無事ではいられない。

水浸しのエリアに踏み込んだ時点で手遅れだ。

気付けば、あちこちで電撃音が弾け

感電死の個体が続出する。


(……何だか、夏の夜の電撃殺虫器みたいだ)

ラングはバチバチ音に耳を傾けながら、そう思った。

そして“正面激突を回避できた”という事実に、胸をなで下ろす。


――だが、その安堵は長く続かない。


倒れた死骸を足場に、乗り越えてくる個体が出始める。

隊列を逸れるのは全体の数%~一割未満。

だが、千を超える規模ならば十分な数だ。

それらが、砦へ一直線に突っ込んでくる。


そして――ついに砦へ到達する個体が現れた。


……とはいえ、数は多くない。

電撃を避けるまでに犠牲が膨らみすぎた。

死骸で地表が覆われたとしても、乗り越えた先で電撃を受ける。

屍を足場に、さらに屍を積み増す……その繰り返し。


結果、辿り着いたのは三十体前後。

その前には“最終関門”――砂ゴーレムが立ち塞がる。


動きは緩慢だが、防御力に優れるゴーレムには蟻の噛みつきなど通じない。

噛みついたまま振り落とされるか、あるいは大きな手のひらで叩き潰され、

蟻達はみるみる数を減らしていく。


そんな中、“敵わない”と判断したごく僅かな個体だけが脇をすり抜け、砦の壁へと取りついた。


――だが、そこには気力体力ともに十分なジョンジョン、アイファ、そしてクラウが待ち構えている。


「ようやく出番か」と言わんばかりに、三人はそれらを瞬殺した。

多少のアクシデントこそあったものの、終わってみれば拍子抜けするほどあっけない幕切れであった。


正直スタンピードがすり抜ける瞬間は恐ろしかった。

例えるなら切り立った崖のわずかな足場に立つような身の毛のよだつような感覚だ。

だが、アイファをして「命の保証はない」ほどの危機はあっさりと過ぎ去ったのだ。



ラングはしばらく蟻の魔物達の向かった先を見つめていたが、やがて向き直る。

目の前には黒く染まる大地。

それはすなわち、“蟻達の死”を意味した。

こちらは損害ゼロの、文字通り“楽勝”。


だが、蟻達にとっては大いなる悲劇であったろう。

殺伐としたこの風景をラングは仲間たちと共にしばらく見つめ続けた。

それぞれに思う事があったのだろう。

先ほどまでとは打って変わり、物音ひとつ聞こえなくなった砦一帯を静寂が包んだ。









―― ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ