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12話 準備万端

魔物の群れが到達する少し前。

ラングはブレイネとロエルに、一つの魔道具を手渡した。


甘王あまおう、この妙ちきりんな形の道具はなんだ? 弓矢とも違うしよ」


(ついこないだまで“甘味の王”とか言ってたのに、いつの間に略称が甘王になってるし……)


「ブレイネさん、それは“水鉄砲”です。ここに指を引っかけて、こうやって引くと水が飛び出します。危ないので人には向けないでくださいね!」


「おお! すげー勢いで水が飛ぶじゃねえか!」


ブレイネはにやけながら、まるで玩具を与えられた子供のようにはしゃいでいた。


「水圧はとんでもないですよ。そこらの魔物なら普通に裂傷させちゃいますから。俺が合図したら、ロエルさんと一緒に“ピューッ”と発射してください!」


「はひぃ~♡ 了解ですぅ。どぴゅーっと撃ちますね♪」


「ロエル、それお前が言うと妙にエロいんだよ! “どぴゅー”っと飛ばすのは男のほうだっつーの。なあ甘王!」


「ちょ、ブレイネさん! すぐ下ネタにもっていく! あんまりふざけると痴女が寄ってくるからやめて!」


相変わらず、目前に迫る脅威とは似つかわしくない会話が相変わらず繰り広げられていた。


「――さて、そろそろ気を引き締めないと」


ラングがそう思った刹那、思わぬ光景が目に飛び込んできた。




魔物の群れが視認できる距離まで迫っていた。

そのすぐ前を、必死に走る人影――四、五人の男たちが、必死の形相で何かを叫びながら駆け寄ってくる。耳を澄ますと……。


「おーい、そこのお前ら! 助けてくれーっ! その中に俺らも入れさせてくれーっ!」


砦の中で身構えるラングたちに聞こえてきたのは、助けを求める声だった。


「おい、ナタリン、あれは助けを求めているように見えるのぉ?」

「はい、ダーリン、確かにそうに見えますわね~」

「なぁ、ナタリンや……だが、あいつら、魔物を引き連れて来てるように見えんか?」

「ええ、あのくそったれどもが引き連れて来たに違いありませんわ」


口調はふざけていても、ラングの目は笑っていなかった。

心の内では、ふつふつと怒りが湧き上がる。


「ほう、自分たちがスタンピードを引き起こしておいて、助けてほしいと……。

危機に際し一致団結して築き上げたこの努力の結晶に匿ってほしいと……なんと虫のいい話だ。

厚かましいにも程がある。自分の尻は自分で拭けっての!」

そう吐き捨てたラングはとても悪い顔をしていた。

そして、自らの腕にしがみついている希に念話を飛ばす。


「希、一網打尽にしていいよ」


「わかった。皆殺しにする」


「ちょっ、ちょっと待て! そういう意味じゃなくて! “捕まえて”って意味だからね。さすがに殺すのはやめようよ……」


「うん、わかった。なるべく殺さないように捕獲する」


完全に捕食者の顔になった希が、恐ろしいことを言う。だが――さすがに冗談だろう。冗談……だよね?


希はラングの腕から飛び降りると瞬時に巨大化し、砦の壁上へ跳び上がった。

その大きさは、壁上を軽やかに動き回れる程度の人大のサイズだ。すると口からするすると白い糸を吐き出し、あっという間に男たちをぐるぐると巻き始めた。


「あら……なんか繭みたいになっちゃってるね。てっきり糸網で絡め取るのかと思ったけど、あれじゃまるで餌だよね」


「ウフ♡ 希ちゃんの遊び心、炸裂ですわね」


「そ、そうだね。遊び心だよね」


「ええ、もちろんですわ」


ナターシャの自信満々の言葉を目にしつつ、ラングは一抹の不安を抱いた。案の定、希の仕打ちは非情だった。


「ねぇ、簀巻きにしてぶら下げるのはいいとしても……せめて砦の内側に吊るしてあげようか。外にそのままぶら下げたら、魔物の餌になっちゃうからね」


砦の外側に並べてぶら下げられた逃亡者の姿は、やはり気の毒だった。

腹が立つとはいえ、生贄にするほどのことではない。とりあえず、彼らはそのミノムシのような姿のまま砦の内側に吊るされ、迫りくる脅威への対応を開始することになった。



やがて視界に入ってきたのは――蟻型魔物の大群だった。

一糸乱れぬ隊列を組み、砦へ向かって迫ってくる。


「――どうせ、巣穴にちょっかいでも出したんじゃないの?」


砦外に“ミノムシのように”ぶら下げた逃亡者達の姿が脳裏に浮かび、ラングは深いため息をつく。

だがすぐに思考を切り替え、優先順位を前へ持ってくる。


まだ仕込みが一つ残っている。


道具袋を漁り、ひょい、と取り出したのは数体の“人形”。

――いやそれは、


『戦闘用ゴーレム』


源世の秘法を呼び戻し、ついに形にしたドクター・コポの悲願。

まだ検証段階のプロトタイプ。

実戦でどれほど働くかは、正直賭け。


だが――


驚異的な再生能力


高い耐久性


そして“絶縁性を持つサンドゴーレム”


電撃戦との相性は抜群のはずだ。


それらを、砦前面の“最終関門”として配置していく。


「はい! では――この砦に向かってきた“蟻さん”だけを狙い撃ちにしましょう!」


ラングは声を張った。


「恐らく大部分は砦を避けて通り過ぎる……“はず”です。てか――そうじゃないと困るというか。うん。とにかくそうなる前提でいきます。

ですので、皆さんにお願いしたいのは《隊列から離れて砦へ突っ込んでくる個体》の迎撃です!」


一旦区切り、顔を上げて周囲を見る。

真剣な視線が返ってくる。



「まず――ブレイネさん、ロエルさん!

さっき渡した水鉄砲、撃ちまくってください!

ただし狙うのは魔物じゃない! 砦周囲への散水です!」


ラングは空中に線を描くように手を動かす。


「砦の外周2mくらいに埋めてある“伝導コイル”――細い赤褐色の線。

あの《内側》に、バシャバシャ水を撒いちゃってください。

間違っても《外側》には撒かないように!」


二人は真剣に頷いた。


「ドグマ師、ナタりん。

この雷発生魔道具に魔力を込めてください。

西と東に仕込んだ伝導コイルに電流を流します。

蟻どもに――雷の洗礼をお見舞いしてやりましょう!」


そしてラングは全体に目を配る。


「他の皆さんは、砦に“取りついた”個体の処理を優先で!

特に、俺が特別任務を与えた人達は、今は手が塞がっています。

彼らに敵が襲いかかるようなら即座に対応を!」


最後に――ラングは小さく息を整える。


「――みんなで力を合わせて、蟻どもを蹴散らしましょう!」


《言霊》が発動し、仲間たちの身体が光に包まれた。




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