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9話 分身体の消滅が示すもの

それからしばらく経ったある朝。

食卓に全員が揃う。


香ばしい肉厚ベーコンの匂いが、席に着いたそれぞれの鼻腔をくすぐっていた。

以前討伐したオークジェネラルの肉を、ドグマが丁寧に燻して保存していたものだ。

今朝は、それに採れたての卵を合わせてベーコンエッグとし、手軽に作った者の贅沢な朝食となっている。


――だが、その前に。


「朝食の前に、少し話しておくことがあるんだ」


ラングが静かに口を開いた。

いつになく真面目な口調に、自然と全員の視線が集まる。


「ここ最近の異変、みんなも感じてるよね。

どうも、俺たちの向かっているサウスポルトニアで何かが起きているようなんだ」


その言葉に、場の空気が重くなる。

誰もが思い当たる節があるのだろう。

声を発する者はいなかったが、全員が黙って頷いた。


「実は――希の分身体からの通信が、途絶えたんだ」


ラングは一呼吸置くと、慎重に言葉を続けた。


「これまで希の分身体には、西と東の二手に分かれて南下しつつ、進行方向の広範囲を探らせていた。

けど、最近すれ違う旅人が急に増えよね? まるで、何かから逃げてきたみたいに。

気になって、任務をサウスポルトニアおよびその周辺の調査へ切り替えたんだ。


しばらくは順調に報告が届いていたし、ここ数日は注意すべき情報も上がってきていた。

でも――昨日、その二体からの通信が、時を同じくするようにして途絶えた」



思いもよらぬ報告に、皆の表情が険しくなる。

普段は飄々としているラングが、冗談ひとつ交えず話していることが、事態の深刻さを物語っていた。

分身体との音信不通――それが暗示する事実が、じわりと胸にのしかかる。


先だっての夕食後。

旅人たちの様子を話題にしたあと、ラングは自室へ戻ると希に依頼を出した。

「先行している分身体を使って、サウスポルトニア周辺の様子を探ってほしい」と。


希はすぐに予定を変更し、分身体をサウスポルトニア方面へと向かわせた。

途中、いくつか有用な報告が届いたものの――昨日、ついにどちらからの通信も途絶えてしまったのだ。


考えられるのは、分身体の“消滅”。

存在値はわずかではあるが、そのぶん慎重に行動していたはずだ。

にもかかわらず消息を絶ったとなれば、ただ事ではない。


「分身体は確か、存在値が五パーセントほどだったな。

希本体に比べれば脆弱かもしれんが、察知能力は同等のはず。

そう簡単にやられるとは思えん……しかも二体ほぼ同時とは」


希をよく知るドグマの言葉は重く響く。

彼にとっても、希の分身体がそう容易く後れを取るとは考えられなかった。

だからこそ――これは一大事なのだ。


「ねぇ、これがどれだけ重大なことかは私にもわかる。

だから聞きたいんだけど、分体ちゃんはどんな状況でやられたの? 途中で得た情報って何?」

クラウが思わず身を乗り出して問いかける。


「まず言っておくけど、二体が消滅したのはそれぞれ別の場所なんだ。

東西に分かれて進んでいたんだから当然なんだけど……それでも“別の場所”で消えたって事実が、ひとつの示唆をしている。

つまり――脅威となり得る存在、あるいは消息不明の原因が、複数あるってことだよ」



「うげ!そりゃやっかいだな。得体のしれない敵がうじゃうじゃ待ち受けてるって展開も考えられねーか?」


「ブレイネよ、少し落ち着け。

確かに分身体を消滅させたかもしれぬ“何か”が存在するのは確かだ。

だが、それが必ずしも敵とは限らぬ。

不意の事故や、通信を阻害する何らかの要因も考えられる。

諸々の可能性を踏まえ、今後の動きを慎重に決めねばならぬだろう。

――ラング殿が我らに相談したいのは、そのことなのであろう?」


「アイファさんの言う通りです。

まずは分身体から得た情報を共有し、善後策を練りたいと思っています。

いずれにせよ――この先に進むには、一段警戒を強める必要がありそうです」


その後、ラングが説明した要点をまとめると――


西の分体からは、驚くべきことにアンデットとの遭遇が報告された。

進むにつれて瘴気が漂い始め、やがてその濃度が増していったという。

一時は身を隠し、機を見て引き返すとの報告があったが――その直後、連絡が途絶えた。


一方、東の分体からは、サウスポルトニア方面から人々が断続的に逃れてきているとの情報が寄せられた。

そしてその先で、「緊急事態発生」という言葉を最後に――ぷつりと音信が途絶えたのだ。


突如もたらされたアンデットの存在情報。

なぜ突然姿を現わしたのか、その理由は分からない。

だが、希の分身体が消滅したことと、何らかの関わりがあるのは確かだろう。

特に、「緊急事態発生」の言葉を残して消息を絶った東の状況は、特に気にかかるところだ。


今後はクラウによる慎重な偵察を行いつつ、

いつでも急な事態に対処できるよう心の準備を整えておく必要がある。


――はたして、これまでのように“ゆるくて快適な旅”を続けられるのか。

そんなことばかり考えてしまうあたり、ラングの暢気さは相変わらずであった。






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