表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仲間を全員失った元英雄のおっさん(42)、辺境で子育てを始めたら娘たちが最強すぎてスローライフが崩壊する件  作者: 河東むく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/135

第79話 最近、女の人と会ってるでしょ

「ダンスタンさんは、革命って興味あります?」


 ん?

 何を言っているんだ、こいつは?


 俺が答えに窮していると……。


「ふふふ。冗談です。ありがとうございました。それでは」


 そう言って、ルーミは夜闇に姿を消した。


 うーん。

 いったい、なんだったんだ?


◇◇◇


 翌朝の食卓、俺は上の空だった。

 昨晩、ルーミに言われた、わけのわからない言葉について、ずっと考えていたのだ。


「パパ」


 不意に、ピヒラがぽつりと呟いた。

 その声には、どこか寂しげな響きが混じっている。


「最近、女の人と会ってるでしょ」


 その言葉に、シグルーンとソルヴァが、ぎろりと俺を睨んだ。


「……いや?」


 脳裏にはルーミの姿が浮かんだ。

 いや、まあ、会っているといえば会っているが……。


「べつにいいんだけどね。パパは、みんなのパパなんだから、みんな平等に愛さないとだめだよ」


 十歳の娘からの、あまりにも真摯なご高説。

 俺はぐうの音も出ない。


 ピヒラは、すう、と息を吸い込むと、諭すように続けた。


「特に、シグルーンママが、一番寂しそうな顔をしてたよ。パパ、今日はシグルーンママをどこかへ連れて行ってあげて」


 その、あまりにも健気な提案。

 俺の浮気(という、とんでもない勘違い)を心配し、なおかつ母親役であるシグルーンの心を気遣う。

 なんて出来た娘なんだ、俺の娘は。


「……分かった」


 俺は椅子から立ち上がると、ピヒラと、そして驚いた顔をしているシグルーンに向かって、高らかに宣言した。


「よし! 今日は三人で、街へデートに行くぞ!」


◇◇◇


 久しぶりに三人で歩くウィッカーデイルの街は、どこか新鮮で、くすぐったい気分だった。

 ……というか、三人で街を歩くのは、はじめてか?

 いつもクータルやミーシャがいるからなぁ。


 俺の右手をピヒラが、左手をシグルーンが、それぞれぎゅっと握りしめている。

 傍から見れば、仲睦まじい、どこにでもいる普通の家族だ。

 だが、俺にとっては、これ以上ないほど特別で、かけがえのない時間だった。


 そんな、穏やかな空気が流れる中。

 中央広場に差し掛かった時、俺たちは黒山の人だかりができているのに気づいた。


『さあさあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! これぞ、聖女ピヒラ様の祝福を受けし、奇跡の霊薬『聖女の涙』だよ!』


 その口上を聞いた瞬間、俺たち三人の足がぴたりと止まった。


「……パパ。私の名前が……」


「お前じゃないんだよな?」と一応確認する。


「違うよ」


「悪質な詐欺師だな」シグルーンは言った。「聖女などと……ピヒラをダシに使うとは、許せん」


 どうやら、俺たちの可愛い娘の名前が、とんでもない形で悪用されているらしい。


 見れば、男の隣には顔色の悪い老婆がぐったりと椅子に座らされている。サクラだ。


『ご覧の通り、このおばあさんは不治の病に冒されている! だが、この『聖女の涙』を飲めば……!』


 男が老婆に薬を飲ませると、老婆は途端に「おお、体が軽い!」なんて言って、元気に立ち上がってみせる。

 その見事な茶番に、観衆から「おおっ!」とどよめきが起こった。


「……パパ。あれ、やっぱりただのニガヨモギの汁です」


 ピヒラが、こっそりと俺の耳元で囁く。


「よし」


 俺は、ニヤリと口の端を吊り上げた。


「あのイカサマ野郎の化けの皮を剥がしてやろうぜ」


◇◇◇


「これはこれは、お客さん! お目が高い!」


 俺は客のふりをして、詐欺師の男に話しかけた。

 その間、斥候としての目で、男の懐、荷物の中身、そして、いざという時の逃走経路を、さりげなく、だが完璧にインプットしていく。


「うちの娘が、どうにも体が弱くてな。この薬、本当に効くのかい?」


「へっへっへ。旦那、ご心配なく! この通り、聖女様のお墨付きでさあ!」


 男が得意げに胸を張る。


 よし、食いついてきた。

 俺は、わざとらしく辺りを見回すと、声を潜めて言った。


「……実は、俺、ピヒラ様の知り合いでな。こんなところで彼女の名前を使っていると知ったら、きっとお怒りになると思うんだが」


 俺のハッタリに、男の顔が、一瞬だけ、だが確かに引きつった。

 よし、これで奴の意識は完全に俺に集中した。


 その、俺が作った一瞬の隙。

 それを、シグルーンが見逃すはずがなかった。


「――そこのあなた」


 氷のように冷たい声が、詐欺師の背後から響く。

 いつの間にか回り込んでいたシグルーンが、腕を組んで仁王立ちしていた。


「その薬の、認可番号を言ってみろ」


 元ギルド支部長ならではの、鋭い一言。


 詐欺師は「げっ!」と短い悲鳴を上げ、俺とシグルーンを交互に見比べ、完全に狼狽している。


 そして、最後のとどめは、俺たちの聖女様だ。


 ピヒラが、人混みをかき分けて、とてとて、と詐欺師の前に進み出た。

 彼女はその純粋な翡翠色の瞳で、男が持つ小瓶をじっと見つめる。

 そして、その小瓶から漂う微かな匂いを確かめるように、小さく鼻をひくつかせた。


 やがて、全てを理解したようにこくりと一つ頷くと、天使のような、だが、ある意味で悪魔よりも残酷な一言を、広場中に響き渡らせた。


「私がピヒラです。あのう、すみません。その薬、中身はただの『ニガヨモギ』を水で薄めただけのものですよ?」


 しん、と。

 広場が、水を打ったように静まり返った。


 詐欺師の男は、その場に荷物をおいたまま逃走しようとした。


「させるかよ」


 俺は、その男を拘束した


◇◇◇


 詐欺師が衛兵に連行されていくのを、俺たち三人は見送った。


 一瞬の静寂の後、誰かが始めたパチパチという拍手が、一人、また一人と伝染し、やがて広場全体を包み込む万雷の喝采へと変わった。

 呆然としていた人々が我に返り、興奮した様子で俺たちの周りに集まってくる。


「ありがとう! あんたたちのおかげで、危うく騙されるところだった!」と男。


 薬を買いそうになっていた気のいいおばちゃんが、ピヒラの手を両手で固く握りしめた。


「あなたが本物の聖女様だったのねぇ! なんて聡明で、可愛らしいのかしら!」


「え、えへへ……。わ、私は、そんな……」


 戸惑いながらも、はにかんで顔を赤らめるピヒラ。

 その姿に、周囲から「かわいいー!」という声が飛ぶ。


「さすがはシグルーン元支部長だ! あの風格、俺たち現役も見習わねえと!」

「姐さん、惚れ直しやしたぜ!」


 若い冒険者たちが、憧れの眼差しでシグルーンに親指を立てる。

 彼女は「ふん。当然のことをしたまでだ」とそっぽを向きながらも、その口元は満足げに緩んでいた。


 そして、商店の親父さんが、ニヤニヤしながら俺の肩をバンと叩いてきた。


「ダンスタンさんも大したもんだ! 客のふりして、さりげなく奴の逃げ道を塞いでたろ? 俺の目にはお見通しだぜ! まったく、とんでもねえ家族だな、あんたたちは!」


「いや、俺は何も……」


 照れくさくて、俺はガシガシと頭を掻くことしかできない。


◇◇◇


 帰り道、ピヒラは、俺とシグルーンの活躍を、何度も楽しそうに繰り返していた。

 その、心から嬉しそうな横顔を見ながら、俺は静かに思う。

 やっぱり、俺の居場所は、ここ以外にありえねえな、と。

 家族の絆を再確認できた、最高の休日だった。


「ところでダンスタン、最近、浮気しているという噂の女について聞いてもいいか?」とシグルーンが言った。


 いいわけがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ