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仲間を全員失った元英雄のおっさん(42)、辺境で子育てを始めたら娘たちが最強すぎてスローライフが崩壊する件  作者: 河東むく


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第73話 おっさん、Bランクに昇格する

 馬車に揺られ、見慣れた丘を越えた時。

 それは、不意に俺たちの眼前に広がった。


「……見えてきたな」


 辺境都市ウィッカーデイル。


 高くはないが、頑丈な城壁。

 その向こうに見える、素朴で、温かい街並み。


 俺が、ただぼんやりと日々を過ごしていた街。

 そして、俺が宝物たちと出会い、再び生きる意味を見つけた、俺の故郷。


 だが、街の様子が、どうにもおかしい。

 城門の前には、黒山の人だかりができていた。


「ぱぱ、おまつり?」


 クータルが、不思議そうに小首をかしげる。


「いやぁ、そんな時期じゃないはずだがなぁ……」


 街へ近づいていくにつれ、徐々に嫌な予感がしはじめた。

 人だかりの中心が、明らかに俺たちの馬車へと向かって、じりじりと動き出している。

 やがて、誰かが俺たちの姿に気づいた。


「――来たぞ!」


 その一言が、引き金だった。


「うおおおおおおっ!」

「英雄の凱旋だ!」

「ダンスタン様、おかえりなさい!」


 歓声が、ウィッカーデイルの空を揺るがした。

 紙吹雪が舞い、俺たちの馬車に降り注ぐ。

 誰もが満面の笑みで、俺たちの名を叫んでいた。


「……おいおい、マジかよ」


 英雄?

 俺が?

 どうしてだ?


 そんな熱狂の渦をかき分けるようにして、一人の男が、俺たちの馬車の前に飛び出してきた。

 見慣れた、無骨な顔。

 『獅子のグリル亭』のシェフ、ギュンターだった。


「馬鹿野郎!」


 その瞳は真っ赤に充血し、大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら、彼は叫んだ。


「待ちくたびれたぞ、ダンスタン!」


「……いや、こんなに歓迎される覚えがなくて、正直、戸惑っている」


「何を言ってるんだ。お前が『鋼鉄のグリフォン』を倒した話や、公爵家の娘の命を救った話、そして、なんと滅亡しかけていたエルフの国を救ったって話が、全部届いてるぞ!」


「それも、全部俺じゃなくて、この子たちのおかげなんだが……」


「馬鹿野郎! それも含めてお前さんの手柄だろうが! こんな立派な娘さんたちを育て上げた、最高の父親の手柄だ!」


 うーん。

 俺は本当にピヒラやクータルに助けてもらってばっかりだったからなぁ……。


◇◇◇


 家に帰る前に、ギルドに寄るよう伝言があったので、ギルドへ向かうことになった。

 かつてシグルーンがいた、ギルド長の一室へと通される。


「――ダンスタン殿。お待ちしておりました」


 そこに立っていたのは女性だった。


「あ、わたし、シグルーン先輩の後輩のヒルルヤと申します」


 そういえば、シグルーンが支部長をやめたあと、支部長交代のチラシかなにかで見たような気もする。


 彼女は、俺たちに深々と頭を下げた。


「S級魔獣『鋼鉄のグリフォン』討伐、及びエルフの内乱鎮圧における、貴殿の多大なる功績を鑑み、ギルド本部は、貴殿を『名誉Sランク』冒険者として認定することを、ここに決定いたしました!」



『名誉Sランク』。

 それは、全ての冒険者が夢見る、最高の栄誉。

 かつての俺ですら、届かなかった場所。


 だが……。


「その話、辞退させてもらう」


「……な、なぜですか、ダンスタン殿!?」


 ヒルルヤが、動揺を隠せない声で問う。


「俺には、分不相応だ。それに、そんな大層なもんを背負っちまったら、娘たちと畑を耕す時間がなくなっちまう」


 S級ともなると、なんらかの問題が発生した際に国から呼ばれることも増えるだろう。

 それに、さっきヒルルヤが挙げた功績も、俺ひとりの力じゃない。

 歳を取ったいまの俺の実力は、精々Bランクだ。


「俺は、ただのしがないおっさんで、娘たちの父親だ。それ以上でも、それ以下でもねえ」


 ヒルルヤはしばらく黙っていたが、小さくうなずいた。


「……分かりました。ですが、それではギルドの示しがつきません。せめて、Bランクへの昇格だけでも、お受けいただけませんか?」


 うーん。

 まあ、仕方がないか……。


 俺はしぶしぶ、Bランクになることを受け入れた。

 まあ、それくらいなら、娘たちとのスローライフにも支障はねえだろう。


◇◇◇


 その夜、ギュンターが、あの懐かしいボロ家で祝祭を開いてくれた。

 狭い家は、ギュンターやリーネ、そして街の仲間たちでぎゅうぎゅう詰めだ。

 だが、その窮屈さが、どうしようもなく心地よかった。


 そんな、温かい喧騒の真っ只中だった。


「ねー、ぱぱ」


 俺の膝の上で、クータルが、ふと、純粋な瞳で俺を見上げてきた。


「ぱぱと、しーままは、けっこんしき、しないの?」


 その、あまりにも無邪気で、あまりにも核心を突いた一言。

 しん、と。

 あれだけ騒がしかった家の中が、一瞬だけ静まり返った。


 俺と、俺の隣で顔を真っ赤にして固まっているシグルーンに、全員の生暖かい視線が突き刺さる。


 やがて、その沈黙を破ったのは、ギュンターの豪快な笑い声だった。


「はっはっは! 嬢ちゃんの言う通りだ! 結婚式だな!」


 その一言を皮切りに、祝宴は、完全に『俺とシグルーンの結婚式をどうするか会議』へと変貌した。


「式場は、ギルドの大ホールを貸し切りだ!」

「料理は俺に任せろ! 最高の食材で、最高の門出を祝ってやる!」

「ドレスは、私たちが街一番の仕立て屋に頼んであげるわ!」


 俺たちの意見など、もはや誰の耳にも届かない。

 街をあげて、俺たちの結婚式を執り行う流れが、勝手に、だがどうしようもなく温かい勢いで決まっていく。

 やれやれ、と俺が肩をすくめると、隣のシグルーンが、照れくさそうに、だが、最高に嬉しそうに、小さく微笑んだ。


◇◇◇


 さて、祝宴も終わり、寝よう……としたときだった。


 いまさらだが、部屋が足りないじゃねえか!


「仕方がありません。一緒に寝ましょう」とソルヴァが言った。

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