虹色のポケット
世の中にはたくさんの物語がある。
人が見つける物語は、どれもいいものだ。
僕、神園琉夏は、手に届きそうな虹を見ながら思う。
今の現実を変えるために物語の中に身を投じたいものだ。
『虹色のポケット』
僕が最初に、手に取った小説の名だ。
確か内容は、少年と少女が出会って、少女を少年が守り、二人の確かな愛を見つける物語だった。
今も忘れられない物語。
けれども、最初に読んだ時のような高揚感は得られない。
だから、いろんな物語を求めて探した。
僕の収まることを知らない好奇心はどこまでも進んでいく。
そしてその先で考えたのは自分の物語だ。
僕は、どういう風に生きてどういう風に死ぬんだろう。
*
「起きてください」
まだ眠たいから眠らせておいてくれ。
「お寝坊さーん、起きてください」
というかこの声は誰の声だ。
知らない声が僕を起こそうとしている。
でもまだまだ眠り足りないから無視しよう。
「仕方ないですね。えっとカミゾノ・ルカさん、ここはもうあなたの物語です」
僕の物語?
一体何を言ってる?
うっすらと目を開いてみることにした。
すると、見たこともない風景が広がっていた。
一面、空色模様。
「ようやくお目覚めですか?カミゾノ・ルカさん」
「えっと…………あなたは?」
目の前にいた少女は、どこか不思議なオーラを発していた。
綺麗な空色の髪、紫紺の瞳は、僕を惹きつけた。
「私は、アリス」
「ここは、どこですか? アリスさんはどうしてここにいるの?」
「ここは、私を閉じ込めている空間です。あなたは突然上から降ってきました」
どういうことだ。
降ってきた?
閉じ込めている空間?
僕は、昨日は普通に本を読んで眠ったはずだけど…………。
それにアリス…………どこかで聞いた名前だ。
「でもどうして名前を知ってたんですか?」
「寝ぼけて教えてくれたんです」
そう言いながら微笑む彼女は美しかった。
不思議系のキャラだけどどこかお淑やかでミステリアスさがあって見惚れてしまうほどだ。
「アリスさんは、どれくらいここに閉じ込められているんですか?」
「もう五百年くらいになります」
は?
五百年ては?
この人一体何者?
閉じ込められるっていうことは何か大罪を犯したヤバい人なのかな。
「聞いてもいいですか?」
「はい、大丈夫です」
「あなたは、どうしてここに閉じ込められているのですか?」
僕は、思ったことは確かめたいタイプだ。
だからか、ヤバい人かもしれないのにそんな質問を投げつけていた。
「…………私は、世界の敵だから。世界から嫌われたからここで一生過ごさないといけないのです」
だとしても五百年はやりすぎだ。
どんな罪だ。
「どうして、嫌われたんですか?」
「私が世界を滅ぼす宇宙人だからです」
宇宙人?
急にSFじみたことを言い出した。
というよりも世界を滅ぼすという物騒なワードが出てきた。
けれど、今の彼女からはそんな世界を滅ぼすなんて大それたことできるようには見えない。
「へぇ……宇宙人なんですね。見るの初めてだなぁ」
とりあえず当たり障りのないことを言っておく。
僕は、ヘタレだ。
気の利いたことなんて言えやしない。
「でもどうして世界を滅ぼすんですか?」
「私は滅ぼすつもりなんてないですけど、私が生きていると世界がセブンズバーストによって崩壊してしまうのです」
セブンズバースト、聞きなれない単語だ。
にしても生きているだけで…………。
「そんなのあなたは何も悪くないじゃないですか?どうして五百年も幽閉されないといけないんだ」
思わず感情的になっていた。
誰か個人が生きているだけで崩壊するなんて有り得るのか?
「そんな風に言ってくれる人もいるんですね。嬉しいです」
そんなアリスの笑顔を見ているとますます感情的にならざるを得なくなってくる。
「一緒にここから出ましょう」
「無理ですよ。軍の人が開発したこの空間は何者にも破れない」
「…………どうにかして出られないでしょうか」
いくら考えても答えは出なかった。
「ルカさんが来たところはどんなところですか?私、ここにずっと一人で話相手が欲しかったんです」
それはそうだろう。
五百年もこんなところに一人幽閉されれば僕なら気がおかしくなりそうだ。
平静を装えているアリスの精神力は相当高いものなんだろう。
「僕が来たところは、海や山があって、雨が降るとどんよりとするけど止んだ後、虹が出て綺麗なんです」
「虹ですか?知っています。私もいつか見てみたいなと思っているんです」
それからしばらくの間、アリスと僕は二人きりで長い時間をいろんな話をしながら過ごした。
そうしているうちに僕は、ある疑問に気づく。
うん? この展開何か覚えがある。
そうだ、虹色のポケットと同じだ。
けれど、セブンズバーストなんていう設定あっただろうか。
ここが虹色のポケットの世界だとすると、ここから出る方法を僕は知っている。
「出られます。僕がいます」
そう、この空間を閉じ込めるのは宇宙人のみ、僕がいれば開けられる。
五百年もここに幽閉されたままなんて絶対にだめだ。
「何をするつもりですか」
「何も危険なことはしません。それよりここから出られたら何かしたいことはありますか」
「……虹を見てみたい……です。子供っぽいですか?宇宙人なのに……」
子供っぽいかと思って恥ずかしがっているのか?
なんて尊いんだ。
「いいやそんなことないです。ついでに僕もいいですか?ここから出たら、もっとあなたと近しくなりたい……です」
そして、僕も照れまじりに話す。
「それってどういう…………?」
「とにかく、ここを出ましょう」
そして僕は、本にあった内容と同じことをすることにした。
目を瞑って、念じたここから出る鍵をこの手に、収めるために。
すると、手に古めかしい鍵が宿った。
よし、本当にできた。
できるか、どうかわからなかったけどやってみるものだ。
「その鍵は何です?」
「ここから出るための鍵です。じゃあ早速開けますね」
「ちょ、ちょっと待ってください!まだ心の準備が…………」
アリスは深呼吸をした。
「スー、ハー。………………ではお願いします」
「よし…………開け!」
鍵を上にかざすと同時に空間に穴が空いた。
瞬間、吸い込まれるように外に弾き出された。
そうして一瞬意識が途切れた。
「ここは…………」
どうやら成功した。
……ようだが、僕が知っている世界とは違うようだ。
どうやら本の中の世界らしい。
アリスは…………。
「…………」
泣いていた。
大粒の涙を流してワンワン泣いていた。
五百年という月日の孤独はどれだけ彼女の心に傷を作ったのか計り知れない。
けれど、今やっと出ることができた。
その幸福に浸って彼女は泣いているのだ。
「アリス、出られたな。近しい関係っていうのはもっと話し方とかもこう、ラフに話したい。そしていつか虹を一緒に見よう」
アリスはまだ泣いていた。
それでも僕の言っていることは理解できたようだ。
「はい、ありがとうございます。ルカさん、虹を見ましょう」
「ルカでいい。アリスも僕と同じように話して。敬語はなしな」
「わか……うん、わかった」
こうして、僕「カミゾノ・ルカ」と「アリス」は、牢獄から脱出し外へと出た。
この先に何が待っているかはわからないけれど、彼女と共に進もうと思う。
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