表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/59

生態AIの目的とは

【前話までのあらすじ】


月人は真心と2人で服を買いに行くことにした。それは時間を忘れるほど楽しいひと時だった。月人は家に帰りたくない彼女の意志を尊重し、近くのホテルに泊まらせることにした。彼女をホテルまで送り届けると、月人は再び、真心の青白い瞳を目撃した。

◇◇◇

―ホテル葉桜のロビー―


 「月人さん、あなたが来たことは何となく感じた」


 特に彼女には訪れることなど伝えていない。しかし、彼女は静かにロビーに現れ、確信を持った表情のまま、一言目にこう言ったのだ。


 やはり真心が俺の前に現れた理由が知りたかった。いや、『知るべきことなのだ』と何かが、俺を急かしたてるのだ。


 「もう一度聞くけど、君はなぜここに来たんだ?」


 誰にも気づかれないように生きてきたであろう彼女が、監視が厳しい俺の前に現れたのはなぜなのか。その理由と、『青白い瞳』が関係しているように思えてならなかったのだ。


 「私があなたの前に現れたのは.. あなたが私に景色を与えてくれるから」


 前聞いた時と同じ答えだ。


 「いったい、それはどういうことなんだ?」


 「月人さん、本当は、もうわかっているのでしょ?  私が生態AIの被験者であることを。私は、もうすぐ私でなくなっちゃうの。私という存在は生態AIに塗り替えられてしまうのよ」


 「何、言ってるんだ。そんな話、聞いたことないぞ。だいたい、生態AIなんか所詮ちっぽけなチップだ!」


 「でも、その小さなチップが、私たちに様々な奇跡を起こしているのも事実だよね」


 ―返す言葉が見つからない。


 「だけど、俺にはそんな気配ないぞ?」


 「きっと、あなたは、ちゃんと適合できた。いいえ、あなたは合格したのよ。生態AIの目的を達成させることに成功した。私はそれができなかった。だから、生態AIは、私の意志を乗っ取り、自らその目的を達成させようとしているんだわ」


 「なんでそんなことわかるんだ。そんなの憶測だろ?」


 「月人さん、生態AIは何のために作られたか覚えているでしょ?」


 「ああ、生態AIは医療AIだ。人のケガや病気を治すためだ」


 俺は、真心の白杖を見ると、血の気が引く思いになった。


 「うん。 それなのに、私は、今もこの白杖を手放すことが出来ないの。医療用生態AIを移植されたにも関わらず」


 「だからといって、その生態AIが君を支配しようとするなんてあまりにも馬鹿げている。」


 そういうと真心は大きく首を振る。


 「今、目を開けるね。私の中にいる『彼女』が、月人さんと話したがっている」


 何の対抗手段も持たない俺に、突然、真心は宣言した。


 瞼が開くと茶色の瞳が揺らぎながら青白く変化していく。


 『邪魔をするな』


 刃のように鋭く冷たい波長だ。これが.. 生態AIの声なのか?


 まるで、言葉が直接 脳に刻まれるような感覚だった。


 「お前、AIなのか?」


 真心は首を縦に振る。


 「彼女に何をさせようとしている」


 『お前が知る必要はない。私は私の目的のために動いているだけだ』


 「勝手なこと言うな! 目的が何か知らないが、真心を巻き込むな! たかがチップの癖に!」


 『「勝手」だと。都合の良い言葉だな。 人間が「生態AI」を寄生させる行為は、お前たちの「勝手」とは言えないのか』


 青白い瞳は俺の瞳をのぞき込んで言った。


 『お前は優れものではない。 決して私には勝てない』


 「な、なんだと! 喧嘩売ってるのか、この野郎!」


 そう叫ぶと、なぜか体の力が抜けてしまった。


 遠ざかるAIの声が言う。


 『あきらめろ。全ては無駄だ。人間、この娘を信じ——』


 俺は気を失った。


 そして全身に微細な電気が走る感覚を覚えた。


 ——映像だ。 


 ぼやけた映像に少しずつピントが合っていく。


 大きな手が何かの形に..


 青く ..広い海。


 ―なんだ? 頭に響くこの音は.. 鐘の音か。


 今度は赤い人形のようなものがみえる。 いや、人形じゃない。


 これは大きな達磨だ。


 そして、ここは古い木造の寺だ——


 ・・・・・・

 ・・


 「月人さん、ごめんなさい。月人さん..」



 —真心の声か.. なんでそんなに泣く。 泣くなよ.. きっと俺が助けてやるからさ..



 ロビーのソファーに座ったまま気を失っていた。


 俺の胸にうずめた彼女の頬はしっとりと濡れていた。


 「真心」


 「月人さん、ごめんなさい」


 「大丈夫だよ。それより俺は映像を見た。 寺だ。だるまがたくさんあった」


 「お寺? ..父はお寺とつながりがあった。 私は寺に預けられたの。父と親交があったお寺に」


 「真心。君が預けられた寺ってどこだ?」


 「茨城の牛久五暁寺うしくごぎょうでら


 —そうか.. あのコンビニのレシート。あれは家の近くにあるコンビニだったのか。


 「行こう。真心が預けられたその寺に」


 ―まずはそこからだ。


 あの映像は「見た」のか、「見せられた」のかわからない。


 しかし、あの映像が、生態AIの『目的』に関係している気がした。生態AIが何かをするために真心を支配しようというのなら、俺たちが先にそれをしてしまえばいい。


 そんな安易な思いから、真心と俺の旅が始まった。

◇◇◇

 次回

 2章 下総国五暁寺

 『LINK09 許されない生き方』

 

 どうぞコメント、レビュー、評価をお待ちしています。

 こんぎつねの励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ