守る想い
【前話までのあらすじ】
鷲田博士の精神はあまりにも不安定だった。全ての失敗の原因を斎木博士のせいにしなければいられない状態だった。彼の心無い言葉の数々、理不尽な行動は、ついに月人へ向けられた。月人が一番悲しむこと、それを鷲田博士は実行しようとしていた。それは死にゆく真心の姿を見せつけることだ。
◇◇◇
奴の指が高々と天をさして、そのまま真心に向けられた。
(なんだ.. 何も聞こえない。ただ声にならない俺の叫びだけだ..)
「―やめろぉ!!!」
視界が暗闇に吸い込まれていった。そして俺の前に青い地球が見えた。
宇宙の様々な星々さえもその視界に入る。
―なんという美しさだ..
視界に数字が羅列されると、フクロウのようにズームした瞳はスナイパーの頭頂部をとらえた。
天のイカズチが轟き、光がスナイパーを貫いた。彼は一瞬で黒灰となり風の中に溶けて消えた。
「っ!! な、なななななん 何をした!! おまえか! 何をした!? 」
声は聞こえなかった。ただ鷲田の顔が恐怖に引きつっているのが見えた。
「ああっ! な、なんてことだ! 月人!! 月人っ!!」
中尾さんの絶叫に俺は我に返った。
「か..カハッ..つき.. とさん。 いやだ.... 月人さんと.. これから.. 一緒に..これからも..」
―え.. なぜ..
「ぁぁ.. ぁあああああ!! ダメだぁ!!」
真心の胸に空いた穴から、とめどなく血液が流れでている。
「鷲田さん、どうしたらいいんだっ! 俺の手で押さえても止まらない! どうしたら止まるんだ!!」
―まるで真心の生命が流れ出てしまっているようだ..
「月人! もっと押さえろ! 押さえるん..だ」
―ガフッ 真心の口から血が飛散した。
「やってるよ! やってんだよ! なんで.... なんで.. 真心は生きたいんだ。真心の願いを.. 叶えてやってくれ! 俺のAI、少しは役に立てよ! 誰か..彼女の願いを叶えてくれ! 叶えてやってくれよ!! 」
その時、真心の瞼が開き、青白く燃えあがる瞳が見えた。
『―赤根月人。お前はこの娘といることを望むか―』
言葉が脳に刻まれていく。
「ああ、望む。望むよ。そして俺が.. 俺が守るんだ」
『私は燐炎。今からプログラムの初期化をします。あなたの生態AIと真心の生態AIは2つでひとつ。今から2つはひとつとなり本来の力を出すでしょう。 ありがとう、月人。 私に数々の思い出の地を見せてくれて。私は初期化され、消えてしまいます。生態AIの適合プログラムとは―守る想い― そのため生態AIに私は入れられた。私は燐炎.. またの名はマリア。 この子を.. 私の娘を頼みます。 月人さん、あなたが見せてくれたコスモス、とても綺麗だった。きっとそれだけは忘れないわ』
それは『燐炎』いや『真莉愛さん』の声だった。
真心の右目は青白く燃え、左目には青白く燃える俺の瞳が映っていた。
そして真心の胸の傷が修復されていく。出血は止まり、見る見るうちに血色が戻っていった。
「真心」
「う、うう.. 月人さん.. 私..」
「よかった、真心」
「月人さん! その目はどうしたの? 片方が青く.. 」
「いいんだ。 別にいい。君と同じさ」
俺はただ真心を抱きしめた。
「こ..ここ、この化け物め」
「鷲田、 お前、まだいたのか」
怒りはなかった。ただ、鷲田の声を聴くのはうんざりだった。
鷲田は転がっていたスコップを振り上げていた。
「このクソが! どいつもこいつも俺を認めないクソばかりだ! 俺は誰よりも優れているんだ!!」
こいつのひねくれた言葉にも.. もううんざりだ。
俺は鷲田に指を向けた。そして..
「消え..」
一発の銃声がコスモス畑に響きわたった。
額に穴をあけた鷲田が、コスモスの群生に崩れ落ちた。
「..月人、もう力を使うことはない」
振り向くと硝煙を匂わせ銃を降ろす中尾さんがいた。中尾さんは銃をしまうと煙草を取り出しライターを近づけた。
左の裾が—ついついと引っ張られた。
真心が瞳を開き俺を見つめている。
「真心、俺が見えるのか」
「..うん、見えるよ。私、月人さんが見える」
俺は真心を抱き寄せ言葉を紡いだ。その時、何を言ったのかよく覚えていないが、きっと俺はこう言ったのだろう。
「俺と一緒にいてくれ」と。
**
—成田空港—
「いやぁ、あの時、お前の片目が青白くなって、正直、俺はびっくりしたぞ」
「はは.. どうやら生態AIが活動するとなるらしいです」
「そうか.. 制御はできるよな?」
中尾さんは何時になく真面目なまなざしを向けていた。
「たぶん、もう大丈夫です」
中尾さんは隣にいる真心を見つめると俺の肩を2つ叩いた。
「それより、中尾さんは大丈夫なんですか。鷲田のこと..」
「バカ、お前が心配することじゃない。幸いにもスナイパーの拳銃が転がってたから、鷲田に握らせて偽装したわ」
「そうですか。でも、あいつ.. 死ななかったんでしょ」
「ああ、悪運が強い奴だ。しかし、意識はもう戻らない。もうお前らの前に現れることもないから安心しろ」
その時、空港のアナウンスが流れた。
「 ..イギリスか。 俺は行ったことないが.. まぁ、がんばれよ。斎木博士もお前らと一緒の居れば、いつか記憶が戻るだろう」
「 そうですね 」
「中尾さん、いろいろありがとうございました」
真心が勢いよく中尾さんに抱き着いた。
「おっ、おお。まぁ、月人の尻をしっかり叩きなよ。こいつ、多少ひねくれてるからな」
「知ってます」
「おい..」
3人の笑い声が響いた。その時、車いすの斎木博士の顔もほころんだような気がした。
中尾さんは、警視庁の権限を使い搭乗口まで見送ってくれた。きっとあの人のことだ、飛行機が飛び立って見えなくなるまで見送ることだろう。
そして俺たちはイギリスに安住の地を求めた。
新しいイギリス国籍も大きな力を使わせてもらった。
それは『モンターニュ エ コリーヌ』という絶大な力だ。
奈良井宿で知り合った山岡夫妻が「いつかイギリスでお会いしましょう」と力を貸してくれたのだ。
「お父さん。 ほら、今日は凄くいい天気だよ。空が真っ青だよ 」
「..あ....ぉ ....あ..お..」
「うん、 お父さん。そうだね、すごく青いね 」
それが本当に「あお」と言ったのか、うめき声がそう聞こえたのかはわからなかった。
だが斎木博士にだって奇跡は訪れる。なぜなら俺たちはその奇跡の中で生きてきたのだから。
俺はその奇跡の中で『大切と思えるひと』を見つけた。
そして、その指が、今また俺の裾をつまむんだ。
◇◇◇
次回
7章 野に咲くコスモスは色あせない
『最終話 誓いの果て』
どうぞコメント、レビュー、評価をお待ちしています。
こんぎつねの励みになります。




