表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野に咲くコスモスは色あせない~青白く燃える瞳  作者: こんぎつね
7章 野に咲くコスモスは色あせない
54/59

日記

 その日記は真心への謝罪から始まっていた。


◇◇◇◇◇◇

◇◇◇


―2030年

 10月25日

 真心、すまない。本当にすまない。私に許しを請う資格などないのかもしれない。

 しかし、これだけは信じてほしい。

 私は君を捨てたのではないことを。


 君を五曉寺ごぎょうでらに置いていくこの辛さは、私が三度生まれ変わったとしても消えることはないだろう。


 だが、奴らはまだ暗躍しているのだ。


 奴らの出方を見極めるまでは君を遠ざけておかねばならない。

 おそらく3年、いや2年ほどしたら君を迎えに行く。

 それまでは———


 今は、この選択をとらざるを得ないのが悔しく思う。



◇◇◇◇◇◇

◇◇◇


―2032年

 〇月〇日

 やはり奴らはまた動き始めた。

 警視庁テロ対本部を爆破したことは報復とともに、尽きることのない奴らの執念の意思表示なのだろう。


 いわば闘争の狼煙と言ってもいい。

 危険な奴らだと改めて思う。


 やっと..やっと2年を待ち、君との再会が間近だったのに..

 残念でならない。

 私は新たな名前と戸籍を用意していたのだ..


 五曉寺が君を軟禁するのは予想外だった。

 今となっては君の安全には、よかったのかもしれない。


 しかし私が君に会えないことで、新たな危険が迫ろうとしている。

 それはまだ幼いが、時が迫れば動きはじめるかもしれない。

 それまでに君に会うことができればいいのだが..

 

◇◇◇◇◇◇

◇◇◇


―2034年

 〇月〇日

 もう君と離れて4年になろうとしている。

 私は思い出の地で君との再会を待とうと思う。

 このコスモス畑は君の母親が好きだった場所だ。

 まだお腹にいる君にコスモスの花ことばから『真心』と名付けた場所なんだ。


 愛しているよ、真心。


 今日は君の誕生日だ。

 誕生日、おめでとう。


◇◇◇◇◇◇

◇◇◇


―2035年

〇月〇日

 私は彼らから逃げ回るだけではダメだと悟った。

 そして君への危険の排除をしなければならない。


 もしも、 もしも君に会うことが叶わなかったなら.. 運命がそれを許さないというのなら.. 私は君の未来のための保険を作っておいた。

 それは君の過去をもみ消してくれる。君を情報の波から遠ざけてくれる。

 君に新たな国籍を与えてくれることも可能になるだろう。


 そして私がいなくなったとしても、それを通して君に会うことができる。


 それが私の最後の儚い望みであり、せめてもの罪滅ぼしだ..


◇◇◇◇◇◇

◇◇◇


〇月〇日

 『NeoYURI』が再び動き始めた。


 私の居場所は彼に知られてしまった..

 ここを離れなくてはならない。


 もっと人の目の触れない場所へ。

 もっと遠くへ。


 彼女だけが導ける場所へ私は逃れる。


◇◇◇◇◇◇

◇◇◇


 6冊目の日記はそこで終わった。


 「月人.. 読んだんだな」


 後ろを振り向くと中尾さんが煙草に火をつけていた。


 「なぁ、中尾さん! 博士は何から逃げてたんだ? いったい『NeoYURI』プロジェクトって何なんだよ!? 」


 俺の頭の中は疑問だらけだった。


 博士がここまで身を隠していたのは、真心の居場所を知られないようにだ。


 それは真心が医療用生態AIの適合者だったからだ。


 しかし、この追っ手の執拗さは犯罪グループの類とは違う『固執』・『執着心』というものを感じるのだ。


 それに不思議なのは斎木博士の書き方だ。『奴ら』とはスパイの矢上隊長に関係する犯罪グループを指している。しかし、途中から『彼ら』と書いたり、最後には『彼』と書いている。


 ―まるで斎木博士が知る者のような呼び方だ。



 「『NeoYURI』プロジェクトっていうはな..」



 当時を振り返る中尾さんは火を着けたばかりの煙草を携帯用の吸い殻でもみ消した。


 そして話を続けた。


 「あれは『地球の環境浄化』を東京から始める構想だった。その第一段階として地下に科学都市が作られた。都知事は科学の底上げこそが深刻な環境問題を改善する近道だという強い信念を持っていた。多少の犠牲を払っても..あの人はそう思っていた」


 「中尾さん..?」


 中尾さんの瞳は遠くを見つめながら話している。その表情からはいつものガサツさが消え去っていた。まるで人知れない湖の湖面のように冷たく静かな印象を残す顔をしていた。


 「しかし、科学の到達点は必ず倫理的な問題に直面する。だから、その倫理観のハードルをずらす考えに至った。それを可能とするのが医療用生態AIだった。高齢化した日本社会。切迫する医療界に生態AIは激震を起こすはずだった。限りない治癒能力と引き換えに人類は必ず倫理観に目をつぶると確信していた。しかし、適合者の少女は死亡し、博士は失踪してしまった」


 「だから構想は失敗したんだよね。じゃ、なんで..」


 「月人くん、終わってはいなかったんだ。都知事は医療用生態AIの研究を終わらせなかった。構想を無にすることを許さなかった。だから都知事は残った研究者に命じたんだ」



 「だ..だめ.. 逃げて..」



 その時、真心が狼狽えるようにつぶやいた。


 「ま、真心。どうしたんだ」


 「つ、月人さん、誰かが..誰かが近づいてくる。 燐炎が警告するの! あぁ、燐炎..燐炎が..彼女が私になってしまう!」


 真心が頭を抱えてうずくまった。



 ◇◇◇

 次回

 7章 野に咲くコスモスは色あせない

 『瓦解』


 どうぞコメント、レビュー、評価をお待ちしています。

 こんぎつねの励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ