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野に咲くコスモスは色あせない~青白く燃える瞳  作者: こんぎつね
7章 野に咲くコスモスは色あせない
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青いクーラーボックス

【前話までのあらすじ】


 月人はついに真心の願いを叶えた。突然、姿を消した父・斎木博士との再会。しかし、それは残酷な現実でもあった。斎木博士は廃人と変わり果てていたのだ。捨て犬のような生活をしていた斎木博士。月人は彼の体を綺麗に洗い、髪を整え、清潔な布団で愛する娘と眠る安らかな夜を与えた。

◇◇◇


―『連照寺』の朝。


 縁側には青い空が広がっていた。どこかから聞こえてくるテレビの音。「変わりやすい空模様、傘をもって出かけるように」とキャスターが言っている。


 まるで俺たちの未来のことを言っているようだ。


 ―斎木博士はぐっすり眠れただろうか..


 隣では中尾さんが呑気にいびきをかいている。


 その時、襖の向こうに衣ずれが聞こえた。


 「失礼します。お起きでいらっしゃいますか―」


 「はい」


 ・・・・・・

 ・・


 これ以上の厚意に甘えるのも悪いと、早朝に出ていくつもりでいた。しかし、照安様は俺たちを引き留めると、「せめて朝食だけでも」とおっしゃってくれた。


 『人の厚意を無下に断るのは失礼にあたるものだ』


 昔、中尾さんに叱られたことがあった。


 俺たちは厚意に甘え朝食をいただくことにした。


 前掛けを掛けてあげ、魚の小骨を取り除き、身をほぐし、それをひとつひとつ斉木博士の口に運ぶ。


 スプーンを借りると味噌汁を『ふぅふぅ』と熱を冷ましながらひとさじひとさじ注ぎ入れる。


 本当は真心がやりたいのだろう。彼女は傍らでただ父の手を握ることしかできない。


 そんな彼女の心を掬ってあげたかった。


 食事だけでなく、俺はすすんで博士の身の周りの手伝いを丁寧にしてあげようと思っていた。


 「反省するよ。月人、すまない。俺はお前になど『介助の仕事』ができるものかと馬鹿にしていた」


 「気にしないでください、中尾さん。あの時の言葉が出まかせだったのは本当なんです。だけど俺は今、意味を持ってやっている実感があるんです」


 俺の食事を終えるのを待って、真心が語り始めた。


 「月人さん、中尾さん、私、見たの。お父さんの記憶を」


 不思議なことに驚きはしなかった。


 ひと晩、斎木博士と身を寄せ合い眠りについた真心の生態AIが、隣にいる斎木博士の記憶の断片を見ることはあり得ることだ。今までの旅はそんなことの連続だった。


 真心は話を続けた。


 「延命寺の『ログハウス』。 あそこに住んでいたのはお父さんだった。そしてお父さんは、牛久大仏公園のコスモスの植え込みで何かを掘り起こしていた。それが何かはわからない」


 「真心、きっとそこが俺たちの旅の終着点だ」


 「うん、私もそう思う」


 ―そうだ。おそらくはそこに全ての秘密が隠されているに違いない。


 真心を五曉寺ごぎょうでらに預けたまま、博士が姿を隠した理由。



 そして、真心の中にいる『燐炎』の正体も。



 ・・・・・・

 ・・


 9月半ば。


 背高く色鮮やかなコスモスが牛久大仏を目の前に一面に咲き誇っている。


 真っ青な空の下、そよ風が花のほのかな香りを漂わせる。


 「月人さん、とってもきれいだね。私にも見えるよ」


 真心はコスモスを手で探り当て顔を近づけ香りを楽しんでいた。



 「ああ.. とても綺麗だ」



 「ぅ....ぅう..あっ..あ....」


 おもむろに斎木博士が歩き始めた。


 その足取りはゆらゆらと頼りなかった。


 しかし、斎木博士の瞳にはコスモスの花々が映っていた。


 大仏の印を結ぶ右手と畑の中央が交差する場所で博士はうずくまり手で土を搔き始めた。


 「あそこだ」


 そこに駆け寄り用意したスコップで土を掘った。



 ―ガコ.. ガコ.. スコップの先に何かがあたった。



 手で土を掻いていくと青い物が見えてきた。


 「月人さん、何かあった?」


 「..ああ、クーラーボックスだ」


 それは思ったよりも重かった。土の中から引き上げると、隣にも赤いクーラーボックスが埋められているのがわかった。


 赤いボックスはさらに重く、周辺の警護をする中尾さんに来てもらわなければ引きあげられそうもなかった。



 そよ風が汗に湿った服を冷たくした..



 「真心、開けてしまおう。もう、ここで全てを知るんだ」


 「うん」


 引き上げた青いクーラーボックスに付いた土を払いのけ、留め金に手をかけた。


 ―中に何が入っているのだろうか.. それは本当に俺たちの旅の終わり.. いや、俺と真心の新しい始まりとなるものなのだろうか。


 不安に、手が止まりそうになる。


 「月人さん、大丈夫。何があっても私、大丈夫だよ」


 ―そうだ。ここからなんだ、俺たちは。ここから始めるんだ。


 俺は留め具を下ろし、フタを開けた。



 6冊の日記。


 その上に、サクランボの飾りがついた髪留めが置かれていた。


 その日記を取り出し、表紙にある一番日付の古いものからページをめくった。


 それは、娘への謝罪から綴られていた。


―10月25日

 真心、すまない。

 許してくれとは言わないが、いつか君にはわかってほしい。

 私は君を捨てたのではないことを―




◇◇◇

 次回

 7章 野に咲くコスモスは色あせない

 『LINK48 日記』


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