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野に咲くコスモスは色あせない~青白く燃える瞳  作者: こんぎつね
7章 野に咲くコスモスは色あせない
49/59

本当に伝えたかった言葉

【前話までのあらすじ】


 月人はE-LAI研究室で回収した不思議な詩が書いてある便箋を中尾に見せる。警視庁特別対テロチームの捜査官である中尾は、その詩が暗号文であることを見抜いた。詩の中に隠されていたのはある場所を示す経緯度であった。いったいその場所に何があるのだろうか。

◇◇◇

 「中尾さん、スマホ持ってないすか? 俺たちは持ち歩かないんです」


 「まったく、仕方がないな..」


 中尾さんは手に持ったタバコを口にくわえると、ポケットを探りスマホを取り出した。


 「あっ、悪い。電池切れだ。そういや、一昨日から充電してなかったわ」


 借りる立場でなんだが、中尾さんのがさつな性格に少しあきれてしまった。


 「 ..じゃ、面倒だけど車のナビゲーションで調べるよ」


 「いや、それよりもホテルに戻ってロビーにあるパソコンを借りたらいいんじゃないか?」


 「あ、そうですね。でもパソコンなんてありましたっけ?」


 「あったぞ。さっき少し使わせてもらったからな」


 中尾さんのような一般人はネット環境というものを最初にチェックする。俺たちとは違うところだ。俺と真心は社会に絡みつくネットには極力近づきたくない.. いや、生態AIを近づけたくないのだ。



 真心に頼めば、その数値が指し示す場所をカメラのレンズを通して見ることも可能だろう。


 しかし、俺は気が進まなかった。


 その場所に何があるかわからないからだ。


 もしも、そこにある何かに真心の心が押しつぶされたら、真心が違うものになってしまいそうで怖かった。


 ・・・・・・

 ・・


 ホテルに帰ると早速、ロビーに置いてあるパソコンで―経緯度35.977696 140.22292―を検索してみた。


 パソコンの検索結果―― 延命寺 ――


 それは牛久大仏に程近い寺だった。小さな寺の割には敷地は広く、そこには寺とは不釣り合いな一軒のログハウスも併設されていた。


 ―なるほど..『少女の命を延ばす』の一節はこの寺の名前か。


 そしてこの場所から一番近い川は―― 乙戸川おつとがわ――


 「中尾さん、明日ここに行こうと思います」


 「わかった。真心ちゃんはどうする。一緒に連れていくのか?」


 「  ..」


 俺はその場で返答をすることができなかった。


 ・・

 ・・・・・・


 中尾さんがトイレに行っている間に、俺はロビーから部屋に戻った。


 ドア前で、さっきの中尾さんの言葉が頭をよぎった。


 『―真心ちゃんはどうする。一緒に連れていくのか?―』


 どうするのが正解なのかわからない。E-LAI研究所で自分の運命に立ち向かう真心の姿を見た。そして彼女は生態AIをうまいこと使いこなした。


 でも、俺はできることならもう生態AIの力なんて使ってほしくなかった。他の人とは違う人間になってほしくはなかった。弱くたっていいんだ。俺は真心は真心でいてほしい。



 ―どうせ真心はまだ眠っているにちがいない.. もう少し外にいよう。



 そんな言い訳をすると、ドア前から離れようとした。


 ―カチャリという静かな音が、ドアと壁に隙間をつくる。


 「 ..月人さん、おかえりなさい」


 隙間の向こうに真心が立っていた。


 「な、なんで俺がいることがわかったんだ?」


 そう質問すると真心は廊下の防犯カメラを指さした。


 「また目を開けたのか?」


 「うん。何となくコツもつかめたし.. 使い方によっては便利だよ」


 「真心.. 生態AIをあまり使っちゃだめだ」

 

 ―この力は慣れてはいけない力だ。慣れてしまったらダメなんだ!


 「うん.. でも、私『数字』のことも知ってるよ..」


 「そうなのか?」


 「月人さん、さっきどこかで凄く心動いたでしょ。そのとき見えたから」


 完全に俺のミスだった。手賀沼のほとりにまで行ったのは、そこにカメラが少ないからだ。あの公園のベンチに座ったのもあそこが監視カメラの視覚になっていたからだ。


 しかし、真心が見えるのはカメラの映像だけじゃなかった。俺の目からも見ることができたんだ。


 あの時、俺は中尾さんの鮮やかな暗号解読に感心した。そんな俺の心の揺れが真心に映像を見せてしまったんだ。こんな小さな心の揺れもとらえる真心は、力を使うことに躊躇しなくなってしまったのかもしれない。


 「そっか.. 実は俺も今、その話をするつもりだったんだ。だから知ってしまったことは別にいいんだ。ただ、俺は真心にあまり力を使ってほしくない。俺は今のままの真心がいいんだ」


 「うん、わかったよ。ありがとう」


 俺は意識して最後の言葉を変えた。


 ―『俺は今のままの真心がいいんだ』か..


 『好きだ』とは言えなかった。


 その言葉を言ったら、誰かが俺の前から真心を連れ去ってしまいそうで怖かった。


 ―そして.. ああ、その通りさ。


 俺はいくじなしだ。



 真心はベッドに戻り、俺は洗面室で手を洗った。



 「―前は言葉だけなら何とでも言えたのにな..」



 鏡に映る自分の顔を見ると、吸ったこともないのにタバコを吸いたい気持ちになった。俺はそれさえもタバコの匂いを残した中尾さんのせいにしていた。



◇◇◇

 次回

 7章 野に咲くコスモスは色あせない

 『使われないログハウス』


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