アンドロイドの想い
【前話までのあらすじ】
月人と真心は不思議な詩が綴られた便箋と研究室スタッフの集合写真を施設から持ちだすことに成功した。中尾が写真を確認すると、そこには斎木博士、城戸博士、そして鷲田博士の姿があった。写真の中の気になる人物を月人が指さすと、中尾から驚きの証言があった。その人物こそ研究を守る立場でありながらスパイ活動をしていた人物だったのだ。
◇◇◇
施設から離れた俺たちは、一度、我孫子市まで離れ、そこの安価なホテルで休むことにした。
視神経から脳への負担が続いた真心は、ベッドの中で身動きひとつせずに深い眠りに沈んでいた。
そこで俺はこれまで得た情報を時系列にして、そこに生まれる疑問をノートに書き出してみた。見落としていた何かが見えてくるかもしれないからだ。
*2022年
・晴海イベント『科学の日・アンドロイド博』
・西伊豆・五平荘に斎木博士、城戸博士、鷲田博士の3人で宿泊
・E-LAI研究室にてAI研究が本格化
『—西伊豆の五平荘に泊まった3人とは、誰だ?』
*2023年
・西伊豆の五平荘に斎木博士と城戸博士の2人で宿泊
・『恋人岬』で斎木博士が城戸博士にプロポーズをする
『—プロポーズの場所は、恋人岬の鐘のある展望デッキ』
*2025年
・斎木博士と城戸博士が奈良井宿の大鳳寺を訪問する
・飛騨・高山の飛騨国分寺にも2人で訪問(?)
『—なぜ真心に両親の旅の記憶があるのか?』
*2026年
・盲目の真心が生まれる
・城戸真莉愛の死
『—真心の誕生と母親・真莉愛の死』
*2027年
・E-LAI研究室がNeoYURIに移設。研究スタッフは7人に削減される
・警視庁テロ・スパイ対策特別チーム・矢上が特別顧問となる
『—慎重論を排除。慎重論を唱える鷲田派を削減』
*2030年
・赤根月人(当時9歳)の偽の臨床実験によりスパイ矢上を逮捕、犯罪組織の壊滅
・生態AIを寄生させた真心と斎木博士の失踪
『—斎木博士の行方は.. 生きているのか?』
*2032年
・犯罪組織の残党により警視庁対テロチームが報復を受ける。
・赤根月人が父の葬儀中に声を取り戻す(生態AIが適正する)
『—中尾さんを除く対テロチームの死。俺の父親・赤根隊長の死亡』
*2041~2042年
・城戸真心が赤根月人に接触する。斎木博士を探す旅を始める
―何か見落としはないだろうか。
―何か違和感を覚えるところがあるはずだ。
―それはどこにある。
そもそもこの旅の目的は.. 斎木博士を見つけ、真心の中にある生態AI燐炎の暴走を止めるためだった。
『—燐炎とはいったい何なのだ?』
結局、最後にはその最大の疑問が立ち塞がるのだ。
その答えを知る人物は、斎木博士と鷲田博士.. そして死んでしまった城戸博士だ。
しかし、城戸博士は真心を残して死んでしまった。
そして、2027年に斎木博士を中心とするE-LAI研究室は東京NeoYURIへ移設した。
奥さんを亡くしたばかりの斎木博士は、どんな気持ちで移設先の東京で研究を続けたのだろうか。
いや、わかっている。斎木博士は真心の目を治すことだけを考えて、一心不乱に研究をしたに違いない。
―!? 変だぞ、これ! 東京に移設したのは2027年。それなのに研究スタッフの中に城戸博士の名が残っているじゃないか!
「中尾さん、なんか.. なんか、これっておかしくないですか!?」
箇条書きにした時系列を中尾さんに突きつけると、中尾さんは何かを言いためらっている様子を見せた。
「 ..」
「中尾さん! 何か隠しているのか? 何を隠している!? これは明らかにおかしいじゃないか。 中尾さんは東京NeoYURIに移設した時に『鷲田派は鷲田博士と城戸博士の2人になった』って確かに言ったよな! でも真心の母親である城戸真莉愛は、1年前に死んでるはずだろ!?」
「 ..さぁな、俺の思い違いかもな..」
「嘘だ! 俺は中尾さんを知っている。 中尾さんは一見がさつだけど、仕事に対する責任感はある人だ。いつでも情報を正確に整理している。だから、俺が問題を起こしても辻褄が合うように解決するんだ。あなたはいい加減な情報は言わない人だ」
「 ..」
「中尾さん! お願いだ。あなたが心に閉まっている情報は、きっと俺たちに必要な情報なんだ。教えてくれ.. 教えてください!」
「 ..わかったよ、月人」。
中尾さんは真心が寝ているのを確認すると一度息を吐いて、静かに語り始めた。
「だが、真心ちゃんに伝えるかは、全てを聞いた後、慎重に判断するんだ。いいな」
「 ..ああ、わかったよ」
「おまえ、E-LAI研究室で見つけた写真が、どこで撮られたものかは覚えているだろ」
「うん。確か写真には『晴海のアンドロイド博2022』って書いてあった」
「そうだ。もともとE-LAI研究室は世界屈指のアンドロイド用AIの開発チームだったんだ。彼らが開発したAIはどこよりもユニークな発想と独創性に溢れていた。そのAIは既存の優れたAIに結びつき一体化するんだ。そして既存AIの得意とする能力のリミッターを外してしまうのが特徴だった。その結びつきの技術が、後に人の神経との融合へと進化した。そして彼らのAIは生物の生存本能を無限とする医療用AIとなったんだ」
「アンドロイド用AIの開発チーム..」
「人間の脳の素晴らしさはその計算力や記憶量ではない。その創造性にある。これは斎木博士の受け売りだがな。そしてAIがどこまで進化しても人が違和感を覚えるのは、その創造性の差異にあるとも言っていた」
「中尾さん、それが真心の母親とどういう関係があるんだ」
「焦らないで聞くんだ。これは大切なことなんだ」
「あ、ああ.. わかった」
「人間の脳情報をデジタル化して保存することは昔から望まれていたことだ。しかし、実現するに大きな壁があった。理由は人間の脳の情報が複雑かつ莫大だったからだ。やがて半導体技術の向上によって、その問題はクリアできた。しかし本当に難しいのは、人間の脳情報を人間らしく再生することだった。わかりやすく言えば、CDはカセットテープで再生できないし、メモリカードもDVDドライブじゃさいせいできない。つまり汎用性のあるツールが必要とされていた。月人、そのツールこそが、斎木博士が目指したAIなんだ」
―背中に変な汗をかき始めるのを感じた。
それは人間が触れても良い領域なのだろうか。
今から俺はとんでもないことを聞くことになるのではないだろうか
俺は唾を飲み込んだ。
「斎木博士と鷲田博士は亡くなった直後の真莉愛さんの脳の情報をデジタル化し、アンドロイド用AIに移し替えたんだ」
―予感が的中してしまった。
「『マリア』というAIとなり生き返った城戸博士は、医療用生態AIの完成の決め手となった。医療用生態AIによる組織再生は世界が待ち望んだ技術だ。娘に世界を見せたいと願う父親と母親の愛が医療用生態AIを作り出したんだ」
「..とんでもない話だ」
俺は自分の瞳に手を当てた。俺の視神経にもその医療用AIは確かに存在しているのだ。
「そして、13年前のあの時、世間から姿を消したのは斎木博士、真心ちゃんの他にもうひとりいた。それはアンドロイドに組み込まれたAI、つまり城戸マリアだ」
―何てことだ。まったく何てことだ。
「 ..じゃあ、 お母さん.. 私のお母さんはどこにいるの?」
その声に俺は振り向いた。
「真心!? 聞いていたのか!」
ベッドから身を起こした真心は小さく頷いた。
塞いだ瞼から流れでる涙は、その頬を濡らしていた。
◇◇◇
次回
7章 野に咲くコスモスは色あせない
『暗号が示すもの』
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