封筒の中身
【前話までのあらすじ】
白川郷を一望できる展望台で、山岡夫妻から「始まりの場所」を探すことを告げられた月人と真心。2人は旅から離脱し、一度東京に戻ることにした。
◇◇◇
白川郷を出発ししばらくして真心が目を覚ました。
「 ..ごめんなさい。燐炎がでたんだね」
「ああ。だけど、今回は、いつもと何か違った。俺は本当の彼女と話をした」
「本当の? 燐炎は何て言っていたの?」
「燐炎は『俺を見ていた』と語っていた。そして『俺たちに気が付いた者がいる』と」
俺は、心に一番ひっかかっていた最後の言葉を伝えなかった。そこに触れたら引き返すことはできない核心に迫るようで、躊躇してしまったのだ。
――どうか、この子を守ってください――
この言葉だけは燐炎とは別の何かの言葉のような気がしたのだ。
「それと真心が示す場所が『始まりの場所』だとも言っていた」
「それはきっと牛久。 私、気を失っている間、お花畑にいたの。あれは、コスモスの香りだった。たぶん牛久の大仏があるところ。私とお父さんの数少ない思い出の場所だよ」
―各地の寺を巡ってきたが、ここに来てまた大仏とは、まったく斎木博士らしい。
きっとそこに行けば斎木博士の居場所がわかる。いや、もしかしたらそこに博士がいるのかもしれない―
白川郷から東京に向かうのに、俺は敢えて上高地経由の山道を避けた。
『俺たちに気が付いた者がいる』のなら、山道での検問は避けた方が良い。少しでも俺たちの足跡は消した方が良いと思ったからだ。
東海北陸自動車道に入ると、車を走らせながら、考えを整理してみた。自分の感情をなるべく脱ぎ捨て、合理的にまとめると、やはり中尾さんに相談するのが一番の近道のような気がした。後ろを付いてくる中尾さんを『ぎふ大和PA』に誘導して話をすることにした。
・・・・・・
・・
「なんだ、なんだ? おまえから相談なんて珍しいな。大雨でも降るんじゃないだろうな」
「中尾さん、牛久大仏に関して何か知りませんか?」
「牛久大仏ってのは、アレだろ。茨城県の観光名所で、高さは.. けっこう高い」
「そんな観光案内を聞いているんじゃないんです」
「なんだ? おまえが『牛久大仏』について聞くから、俺が知っていることを言ったんだぞ」
「すいません。斎木博士と牛久大仏を結びつけるものに心当たりありませんか?」
俺が斎木博士の名を出すと、中尾さんの表情が変わった。
「やはりそのことか。お前たち斎木博士を探していたんだな。まぁ『城戸真心』を連れていればそうなるよな.. おまえ、牛久の隣の市って知っているか?」
「牛久の隣の市?」
「牛久の隣にあるのは『つくば市』だ。『つくば市』ってのは、特別な場所なんだ。国家産業の研究所がたんまりあるんだぜ。お前が何で『大仏』を引っ張り出したのかは知らないが、俺には『牛久』の隣の『つくば市』の方が気になるな。国家産業がある『つくば市』と斎木博士、この2つから導き出されるものは何だ?」
「『生態AI』の研究所か!」
「そうだ。そしてお前の『大仏』っていうのも、何か意味があるのかもな」
「なるほど.. 牛久大仏が見える場所に研究所があるのかも」
「お前たちの『生態AI』の本格的な研究は東京で行われたが、きっとその研究の始まりは、その場所にあったのかもしれないな」
「始まりの場所.. 今、中尾さんそう言いましたよね」
「あ、ああ.. それがどうした?」
「俺たちは『始まりの場所』を目指しているんです。中尾さん、もしかしてその場所を知ってるんじゃないですか?」
「 ..ああ、知ってるぞ。俺はその場所を知っている。これでも俺は警視庁テロ対だ。重要な国家産業施設は、俺たちの警護対象だったからな」
―こいつは幸先がいい。 俺はその時、単純にそう思った。
「中尾さん、俺たちを牛久大仏の近くにある研究所に連れて行ってくれませんか?」
「それはいいが.. 実はな、研究所は大仏の近くにはないぞ」
「え、どういうことですか? 」
「いや、斎木博士の研究所は同じ牛久内でも大仏とは関係ない『牛久城跡』の近隣にあるんだ」
「うそだ」
「嘘でもなんでもない」
「くそ! じゃ、いったい牛久大仏っていうのは何だっていうんだ」
「おまえ、すぐに感情的に『くそ』って言う癖直した方がいいぞ」
「こんな時に説教かよ」
「まぁまぁ、落ち着け。お前がなぜ『大仏』にこだわるのかは知らないが、それが何かの意味があるとしたら、こんなのはどうだ。仮にお前が牛久にあるマクドで働くことになったとする。そしたら、お前、東京から牛久まで通おうと思うか?」
「 ..そっか!」
「ああ、そうだ。斎木博士の自宅は東京にあったが、研究所の近くには寝泊りする場所があったのかもしれない。もしかしたら、大仏っていうのはその手掛かり何じゃないか」
「さすが、捜査部部長だね、見直したよ」
「まぁ、全て推測の話だがな」
「あと、もうひとつ。中尾さん『モンターニュ エ コリーヌ』って知ってますか? 俺もどこかで聞いたことあるような気はするんだけど..」
「馬鹿、それはイギリス王室や日本の皇室、そのほか世界各国の王族と言われる連中の物流を一手に担う今や公的機関のひとつといってもいいくらいの超がつく大企業だ」
「え、そんなに凄いの?」
「凄いも凄い! だからそこの重役から上の存在は一般には知られていないんだ。誘拐事件でも起こされたらとんでもないことになるからな。それがどうした? お前からそんな名前がでるなんて意外過ぎるぞ」
「いや、旅館に泊まった時そんな話題がチラホラでてね..」
―そっか.. 山岡夫妻がそんな大人物だったとは..
俺は、山岡夫妻に迷惑が掛からないように中尾さんには秘密にしようと思った。
きっと山岡さんが持つ紫のカードは、公然と身分を明かせない人が持つカードだったに違いない。
車に戻ると、改めて山岡さんに渡された封筒の中身を確かめた。
そこには暗証番号カードと手紙が入っていた。手紙にはこう書かれていた。
『月人くん、真心さん、本当にありがとう。私たちは君たちの旅に神のご加護があることを祈っています。どうかご無事で..』
そして手紙の最後には山岡夫妻の本当の名が記してあった。
◇◇◇
次回予告
6章 始まりの場所
『気が付いた者』
7/20日曜日17:00 投稿予定 お楽しみに♪
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