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勇気を振り絞る

【前話までのあらすじ】


月人は悪夢に悩んでいた。今朝もその夢のおかげで頭痛がひどかった。休日、月人はいつものように緑道のベンチに腰掛ける。唯一、心が落ち着く場所であった。行き交う人々を観察する月人は、白杖を手にする少女を眼にする。彼女の存在から目が離せない。月人とすれ違いざま、彼女は「ありがとう」と言った。それは夢の声と同じ声だった。

◇◇◇


 既に何かに巻き込まれてしまったのかもしれない。


 あの日以来、白杖の少女が俺の生活圏内に頻繁に表れる。


 ある日、歩道橋を渡っていると、突然、喧騒とした現実世界から人も車も消え去った別世界に迷い込んでしまう。


 雑踏の中、白杖をかざす彼女が歩いているのだ。


 悪寒の後に起きたチリッとした痛みに目をこする。次の瞬間、彼女は瞼を開き青白い炎のような瞳で俺を見ているのだ。


 誰もいない樹海の中に取り残されたような、どうしようもない不安が俺を支配する。


 そんな不気味さに耐えられず、今日も彼女を見かけるとすぐに踵を返している。


 ほんの16歳くらいの女の子に俺は恐ろしさを感じていた。


 いや、全てを見透かすようなあの青白い瞳から逃れたかった。


 俺が彼女と接触を避けるのには、他にも理由があった。


 見張り役の中尾さんや省庁の特別チームに、万が一でも彼女の存在を知られてはまずい気がしたからだ。



 『 逃げないで.. 私 ..まこ ..緑道 ..ベンチ 』



 また夢にうなされて目が覚める。


 「はぁ、はぁ.. 痛っ。何だってんだ!」


 ―あれは夢の声なのか.. 


 少し空けた窓からの風に混ざり、今も彼女の囁く声が聞こえたような気がした。


 『..まこ』『緑道』『ベンチ』


 この3つのワードだけが記憶に刻まれた。


 そして言わんとしていることも想像はできた。


 『..まこ』が何かはわからないが『緑道』と『ベンチ』には思い当たる節がある。


 きっと、あの緑道のベンチのことだろう。


 止まない頭痛に薬を飲み込み、ベッドの上で目をつむって考えた。


 この13年間、世間の大概のことには関わらずに生きてきた俺だ。


 今回も俺自身には会う理由など見当たらない。


 ただ、この頭に彼女の声が割り込んでくるのは、良いことではない。


 ―俺にとっても.. きっと、彼女にとっても―


 それに、このまま付きまとわれるのも、うんざりだ。


 俺は明日、緑道のベンチに行ってみることを決意した。


 これこそ俺にとっては『勇気を出して』という言葉がふさわしい案件だった。

◇◇◇

次回

1章 夢の中の声

『ep04 桜葉のベンチ』


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