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それぞれの旅

【前話までのあらすじ】


 月人と真心は太郎のおかげで初めての海水浴を心置きなく楽しんでいた。昼食を済ませ、昼寝をする月人を起こしたのは、生態AI燐炎りんかだった。燐炎は沖に流されていく太郎の危機を知らせた。太郎がどこにいるのかわからず焦る月人に燐炎は接吻をする。その瞬間、月人の視界がまるでGoogleマップのように上空からの映像に変わった。そして救助用ドローンが一斉に動き出した。

◇◇◇

 「太郎君、大丈夫かい?」


 おぼれかけた太郎の検診が終わると、しばし海の家で休憩をした。


 「俺、どうしても助けなきゃって.. 夢中になって..  妹と同じくらいだったんだ。気が付いたら海に飛び込んでた」


 「妹さんがいるの?」


 太郎は大きくうなずくと、旅をする本当の理由を語り始めた。


 「妹の琴葉ことはは病気なんだ。あいつはずっと無菌室からでることができない」


 その言葉に真心の耳が赤みを帯び始めた。動揺しているようだ。


 太郎は話を続けた。


 「俺が琴葉にしてあげられるのはさ、こうして旅先の綺麗な景色や出会った人をカメラに収めて、琴葉に見せて、旅の話をしてあげることだけなんだ。あいつは『自分も一緒に旅しているみたい』って素直に楽しんでくれるんだ」


 俺は太郎の話を聞いて思った。カメラは俺の目で、妹は真心。そう、まるで俺たちの関係そのもののようだった。


 「妹さんの病気は治らないの?」


 デリケートな質問だが、盲目の真心が言うには問題がなかった。


 「臓器の移植手術ができれば、あいつは元気になるって。でも、臓器提供って順番があるんだ。仮に適合する臓器が見つかっても、すぐに違うところに持っていかれちまう。妹はだんだん痩せていくし.. くそっ! きっと金持ち連中が、横取りしやがってるに違いないんだ。もう3回目だ。くそ! くそっ!」


 「金持ち連中が横取りしているとは限らないだろ? 何か証拠でもあるのか?」


 「 ..ないよ.. でもさ、うちみたいに全額だせない所は補欠扱いなんだ。 それでもいいからって、お医者さんに頼んだんだ。父さんは親戚中に頭下げて、お金集めたけど、それでも足りない。俺が働ければいいのに.. ごめん。なんか、最後に恥をさらしちゃったね」



 俺たちは着替え終わると、それぞれの旅を続ける。



 俺と真心は木曽路へ。


 そして太郎は妹のために写真を撮る旅を続ける。



 「ねぇ、太郎君、最後に、みんなで一緒に写真を撮ろうよ」



 盲目の真心は写真を撮ることに興味を示さない。今まで一度もそんなことは言ったことはない。そんな真心が自分から「写真を撮ろう」だなんて意外だった。


 太郎はカメラを自動モードに切り替えた。


 —カシャ


 ・・・・・・

 ・・


 「これ僕のメアド。でも月人さん達はスマホを使わないんだよね」



 「まぁ、いろいろあってな」


 太郎はランドナー前輪横の荷物入れから取り出したメモ紙にメアドを書くと差し出した。


 「でも、もし連絡できるときになったらメール送って。写真を送るからさ」


 「 ..」


 「うん。絶対にメールするから、写真ちょうだいね。楽しみにしているから」


 約束の返事をしない俺の代わりに、真心が応えた。


 「それじゃ、これでお別れだね.. 月人兄ちゃん、真心お姉ちゃんをしっかり頼むよ」


 —月人兄ちゃんか.. 生意気な奴だ。


 太郎は見送る俺たちを何度も振り返っては、下田方面へとランドナーを走らせた。


 気が付けば、俺は太郎が見えなくなるまで手を振っていた。


 「さぁ、真心、俺たちも木曽路へ行こう」


 「うん」


 伊豆の太陽は海の上で夕焼けを作り始めていた。


 ・・・・・・・

 ・・


 その後..


 太郎君の妹、琴葉ちゃんに適合する臓器は、世界各国のあらゆる情報機関から検索され見つけ出された。


 移植手術料金は「完済」と塗り替えられ、医療システムの移植手術優先順位は1番になっていた。


 琴葉ちゃんのカルテには『重要案件・最優先事項・トップシークレット扱い』と記載されていた。




◇◇◇

 次回

 4章 首のない石造

 『月と湖とナシゴレン』

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