生態AIをめぐる―file01
【前話までのあらすじ】
五暁寺から斎木博士の行方を捜す2人の旅が始まった。牛久のホテルに宿をとると、月人は真心とともにすき焼きを食べにいく。人と関わることを避け、孤独に生きてきた月人は、真心の存在が大きくなるのを感じていた。
◇◇◇
―3日前―
笹塚のショッピングビルで真心の服を買ったあの日の夜、俺は警視庁テロ対の中尾さんを呼び出した。
落ち合う場所は決まっていた。俺のお気に入り、緑道公園、桜の木の下にあるいつものベンチだ。
「よう、月人、お前から相談があるなんて何年ぶりだ?」
中尾さんは、すでにベンチに腰掛けて待ち受けていた。その顔は頼られた喜びからか、いつもよりも生き生きしているようだった。
「すいません、中尾さん」
「お前、まさかあれを真に受けたんじゃないだろうな?」
「は?」
「あれは冗談だぞ。申し訳ないが、俺の恋愛アドバイスは、あまり当てにならない。俺自身、かみさんとはお見合いで知り合ったんだからな」
「何言ってるんすか。そんなことわかってますって。わざわざ中尾さんにそんなこと相談するわけないでしょ。まったく別のことです」
「なんか、微妙に傷つくな。まっ、いいや。月人、俺に何を聞きたいんだ?」
「実は、もう一度あの13年前に起きた事件について聞かせてほしいんです。警視庁テロ対策特別チームで、俺の親父の部下だった中尾さんが、あの時に知ったこと、感じたことを詳しく聞かせてもらえませんか」
「どうした? そんなことを急に.. それにその話は昔にしただろ」
「いや、中尾さん、俺ももう大人だ。あの時、中尾さんが伏せていた話も受け止められる。だからお願いします」
「..そうか。だが、 その前に確認したいことがある」
「何ですか?」
「お前と歩いていた娘は誰だ? あの白杖を持った子だ。それとは関係ないだろうな」
―やはり感づいていた。まぁ、当然か..
「あの子ですか? あの子は雇い主ですよ。俺、今のおしぼり配りの仕事より、もっと世の中に役立つ仕事をしたいと思っていたんです。だから介助の仕事を始めたんです。ほら、俺って高額請求する必要もないから、ぴったりでしょ」
「ふ~ん、おしぼり屋から介助の仕事へねぇ.. まぁ、いいか。どのみち、俺もいつかお前に話そうと思っていたことだ」
中尾さんは自分の鞄からメモ帳を取り出した。そして、時折、メモ帳を確認すると、時系列や名称を間違わないように話してくれた。
―今から12年前、医学はAIにより目覚ましい発展を遂げた。開発された医療用AIによって、人間の臓器修復の効率が格段に上がったのだ。
しかし、この医療AIは医療施設内で患者をモニターして、医療スタッフや研究者に臓器修復に必要な数値を示し、助言をするに過ぎなかった。それでもその成果は素晴らしいものであった。
この医療AIをさらに未来の形にしたのが斎木正則博士だった。
斎木博士は優れたスタッフを集め、そして作り上げたのだ。
それが、アメーバ式生態AIだ。AIは単細胞アメーバの外皮に包まれ、ひとつの生命体となっていた。
この生態AIを脳に近い瞳に点眼する。
生態AIは目の視神経から脳の情報網を確保し、生存するための環境を整えていく。
つまり人間に寄生し、自分が生きていく為の生態系を作り上げていくのだ。
全てが治るわけではないが、特に神経系の修復率が大幅に向上した。
例えば目や耳、喉、または脊椎の損傷など脳に近ければ近いほど生態AIは力を発揮した。
それは脳のシナプス間の電気信号にAIがシンクロし、損傷した箇所に細胞単位の修復命令を出していくのだ。
まるで、無視できない命令に従うカタツムリと寄生虫『ロイコクロリディウム』の関係のように。
そして臨床実験として1人の被験者候補の名前が挙がった。
それが斎木博士の娘 斎木真心だった。
◇◇◇
次回予告
2章 下総国五暁寺
『生態AIをめぐるfile02』
6/18水曜日17:00 投稿予定 お楽しみに♪
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