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お父さんに言いたい!

【前話までのあらすじ】


月人と真心は五暁寺の住職である澄徳から、斎木博士を探し出す手掛かりをつかんだ。同時に、真心は澄徳の本心を知ることができた。寺に閉じ込めたことの善悪は抜きに、それは澄徳が誰よりも真心を大切に思ってのことであったのだ。その絆はきっと真心の心の穴を埋めてくれるものだと月人は思うのだった。

◇◇◇

 その夜、俺たちは牛久の観光ホテルに宿をとった。


 今回の旅では、魔法のクレカを封印している。使えば俺を監視する省庁の連中に行動が筒抜けになってしまう。


 それに目立つ行動は極力避けるため、ビジネスホテルに少し色を付けたような、リーズナブルなホテルを選択した。


 「すいません、予約もなしに」


 「大丈夫ですよ。平日は空きもありますから。お部屋はダブルでよろしいですか?」


 ―男女二人旅で別々の部屋をとるのは不自然だよな.. それに、真心の目を考えると、やはり一緒の部屋だろう。


 「は、はい」


 「では―」


 「あ、あの、俺たち兄妹なんで、ベッドは別々のを..」


 「あ、そうでしたか。失礼いたしました。ではツインルームですね。こちらにご記入を―」


 ホテルの宿泊票にサインをしている間、俺はロビーの入り口を気にしていた。


 どうやら見張りの中尾さんは、このホテルを確認すると引き上げたようだった。


 ——まぁ、俺たちの目的をしらない中尾さんにとっては、ちょっとした観光旅行のように映っているのだろう。


 さて、夕飯は何を食べるとしようか..。


 真心は寺住まいのせいなのか、または遠慮しながら生きてきたせいなのか、自分から要求することが少ない。食べ物に関しても、コンビニのパンやおにぎりだけで満足してしまう。


 「なぁ、真心。ここ牛久では鯉が名産らしいけど、食べたことあるか?」


 「うん。お寺で鯉こくとか鯉のあらいを食べたことあるよ。でも、あんまり好きじゃない」


 早くも思惑が外れてしまった。真心の食欲の手がかりはいったい..


 —うん、やっぱりあれだな!


 「じゃ、肉でも食べに行こうぜ。 茨城県は常陸牛ひたちぎゅうっていうのがあるらしいしさ」


 「うん、いいよ。私、一度すき焼きを食べてみたかったの」


 —おおっ! これは、やっと真心から食欲を引き出せた。


 「じゃあ、すき焼き食べに行こう!」


 今回ばかりは真心の期待を裏切らないように、ホテルのロビーにあるPCで検索した。


 そこは牛久沼近くにある常陸牛専門店だ。真心の手を取りテラスの階段を上ると、和洋折衷の趣深い店だった。テーブル席の奥には畳の部屋もあり、木と藺草の香りする落ち着く店内だ。


 外のテラスにも席があったが、沼の近くで羽虫が多い季節だ。俺たちは屋内に入り、窓際のテーブル席に座った。


 真心は目が見えない。窓際でない席でもよかったが、俺は彼女を普通の女の子のように接したかった。


 なぜなら、窓の外にはまだ夕日のグラデーションが残る美しい空があったからだ。


 ・・・・・・

 ・・


 「ふー! 食った! 食った!」


 「ごめんなさい、月人さん。私、すき焼きが鍋だなんて知らなかったの。私につきっきりで大変だったでしょ?」


 「何、言ってんだ。今の俺の言葉聞かなかった? 『ふー! 食った! 食った!』って言うセリフは大満足したときにでる言葉なんだよ」


 真心は笑顔を取り戻し、そしてこう言った。


 「ふぅ。 食った!食った!」


 そして吹き出す真心を見ると、自然に俺は微笑んでいた。


 その瞬間、俺の心は温かい何かを取り戻したような気がした。


 —誰かと一緒にご飯を食べるっていいものだなぁ..


 何のひねりも飾りもない単純な言葉しか、頭に浮かばなかったけど、俺はずっと真心を見つめていた。


 ・・

 ・・・・・・


 ホテルの部屋に戻ると、どうしても確かめておきたいことを尋ねた。


 「真心、俺が『ホテル葉桜』のロビーで君にもう1回「なぜここに来た?」と尋ねなおしたのを覚えてるかい?」


 「うん。そして燐炎りんかが月人さんに接触して、月人さんは、気を失ってしまったんだよね」


 —そうだ。だから俺は本当に聞きたいことを聞けなかった。


 「俺が思うに.. 真心、君は自分がこんな境遇になった理由を知りたかったんじゃないのか? 当時、3歳の君は、寺に預けられ、そして澄徳さんの言われるままに生きてきた。でも、君は俺とつながることで真実を知る機会を得ることができた。 ..どうなんだい?」


 「 ..うん。月人さんの言う通り。私はお寺で良い娘として過ごしてきた。でもやっぱり納得できないことだらけだった。『なんで私が! 』『なんで私だけが! 』って思ったよ! 月人さん、私、まだ間に合うなら全てを知って、そしてお父さんを見つけて、一言言いたいの!」


 「博士を見つけたら、何て言うんだ?」


 「 ..ば....馬鹿野郎!! って」


 「は.. はははは! 真心、君は最高だよ」


 それは俺の想像をはるかに超えていた。内気な彼女が勇気を振り絞って踏み出した一歩。その最終目的が父親に「馬鹿野郎」だなんて..


 「真心、実は俺、見張りの中尾さんに改めて当時の話を聞いたんだ。君にはショックな話かもしれない。それを聞く勇気はあるかい?」


 真心は首を縦に振った。


 そして俺は中尾さんとの会話をそのまま話した。

◇◇◇

 次回予告

 2章 下総国五暁寺

 『生態AIをめぐるfile01』

 6/16月曜日17:00 投稿予定 お楽しみに♪


 どうぞコメント、レビュー、評価をお待ちしています。

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