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魔神封印の真実

 ラージェスターの南方に築かれてるのは、闇と死滅を司る黒き魔神が住まう魔神城。

 その玉座の間にて、聖剣を手にした勇者との戦いが行われていた――


「……ぬぅぅ……おのれ……」

 玉座の間の最奥。

 玉座から崩れ落ちるかのように、傷だらけの身で倒れ伏しているのは黒き魔神チェルノボークである。

 彼の今の姿は凄惨という言葉が当てはまるだろう。

荘厳なる立派な角は無惨にも斬り折られ。

夜色の瞳を秘めた彼の風貌は痣だらけ。

彼の身体を包んでいた黒紫を基調とした王者の衣は斬り裂かれ。

背から生やした闇色の大翼は裂かれはしなかったものの、勇者の持つ聖剣によって無数の傷を浴びせられていた。

「へえ、まだ息があるんですね。さすがは黒き魔神……と言ったところでしょうか。

 フフ、大したものですよ」

 チェルノボークを傷だらけにした本人である勇者アルオーンは、手に携えた聖剣を握りながらも。

美男子と冠するに相応しい濃紫色をした髪と、端正なその美貌を不敵なる愉悦に歪ませて。

 目の前の玉座に崩れ落ちているかのように倒れ伏している、チェルノボークを見ながら嗤っていた。

「我ながらですが、この聖剣ってすごい威力ですよねぇ……。

 これさえあれば、黒き魔神の……あなたの力に頼る必要はもうありません。

用済みというものですね」

 勇者アルオーンは北方の王子であった。

 憤怒を抱いたチェルノボークに、住んでいた城を家族や兵士たちもろとも滅ぼされるまでは。

 否、破壊されるように仕向けるまでが正しいだろうか。

何故なら、そう仕向けたのは他でもない勇者アルオーンなのだから。

「私の望みに邪魔な者たちは、父親たちはもういません。何故なら、あなたが殺してくださったんですからねぇ……。

そのことには感謝してますよ?

私をラージェスター統一を成し遂げるための礎となったことには、ですけどねぇ……」

 勇者アルオーンは不敵なる愉悦を崩さずに。

ただ、眼前に横たわるチェルノボークを見下すように言った。

「おのれ……何がラージェスターの統一だ……。我を謀った虚言者めが!」

 チェルノボークは憎悪を込めて勇者アルオーンに言い放つ。

 死病に侵された愛する者を救うために治癒の秘宝を求め。

 勇者アルオーンに命じられるがままに、大量の人間たちを殺めさせられながらも。

 肝心の治癒の秘宝を勇者アルオーンの先祖が有していたこと自体が、偽りであったことを告げられたのだから。

 世界を維持する神の一柱である黒き魔神を騙していたことに。

 死病からの解放という望みを、愛する者への愛を踏みにじられたことに。

 それゆえの怒りを覚えたチェルノボークは、憤怒に突き動かされるがままに、勇者アルオーンとその父親と兵士たちが住んでいた城を滅ぼしたのだ。

「我が愛を……踏みにじっておいて……貴様の悪事は……いずれ暴かれるだろうな……!」

「ですが、天運は私に味方しましたよ。

 光と生命を司る白き魔神ボロノーグから託された、この聖剣フィーリアの力によって、ね。

 あと、態度がずいぶん反抗的ですねぇ……」

 勇者アルオーンが犯した罪はチェルノボークを欺いたこと。

 それによって、父親を含めた大多数の、否、幾千もの人間たちを殺害したこと。

 しかし、後者は神の領分を越えたことであり、チェルノボークはそれゆえに、聖剣による封印粛正を二柱の神々に言い渡されたのだ。

「あとはこの聖剣フィーリアをあなたの心臓に突き刺すだけなんですがね。それだけじゃあ、私の心の渇きが満たされないんですよ……」

「それは……どういう意味だ……?」

 勇者アルオーンの目つきが、一瞬だけだが、血液への果てなき渇きを抱いた吸血鬼のようになった。

 しかし、チェルノボークはその意味を悟れない。

だが、勇者アルオーンの次の言葉から悲劇は牙を剥いてくる。

「さぁ、連れてきなさい」

 勇者アルオーンはパチンと指を鳴らすと、それを合図として、

『……』

『……』

『……』

 三体の白銀の甲冑たちが無言のまま一人の金髪の少女を引きずりながら、玉座の間へと入り込んできた。

「うぅ……チェルノボークさま……」

「あれは……チェルシー? 部下たちを付けて……守らせていたはずだ……。 なのに……何故、ここにいる……? まさか!?」

 白銀の甲冑たちに連れて込まれたのは、チェルノボークが愛し、死病に侵されている金髪の少女チェルシーだった。

「あなたはこの少女を救うために、私や父親を頼って来たんでしたよねぇ……。

 だからこそ、あなたに会う前に、あなたの部下たちに守られていた彼女を先に捕まえておいたんですよ。

 もちろん、あなたの部下たちは、この白銀の甲冑たちに皆殺しにさせましたがね。

これがその証拠です」

 勇者アルオーンは白銀の甲冑たちを、チェルシーもろとも自分の手元に引き寄せ、その内の一体の胴体を開けた。

「……うぅ……っ!?」

 そこから黒い皮膚に不気味な白い角を生やした魔人の生首を一つだけ取り出し。

また、チェルシーの漏らした声にならぬ悲鳴を楽しみながら、

「ふん」

 取り出した生首をチェルノボークの眼前辺りへと放り投げた。

「彼らの存在は私にとって都合の良いものですよ。

 ただ命じるだけで、どんな汚れ仕事でも文句一つ言わずに、行ってくれるんですから。

 本当に白き魔神は彼らという都合の良い人形たちを私にくださいましたよ」

 勇者アルオーンは自ら抱いた野心を掴んだことによる確信から、にやにやとした薄ら笑いを浮かべて言った。

「……そんな……お前が憎いのは我ではないのか……。 何故、彼女を……チェルシーを捕らえる必要がある……!?」

 部下の生首を見せつけられながらもチェルノボークは、勇者アルオーンへと顔を向け叫び声をあげる。

「嗚呼、渇いていたものがどんどん満たされていきますよ……。 あなたを騙し、罪を犯させ、裏切るという嗜虐心は私の心を満たしてくれるんですから」

 勇者アルオーンはチェルノボークの叫び声を聞いて。

それを喜びとするかのように愉悦の笑みを深ませていく。

「狂っている……貴様は狂っているぞ……!?

 貴様みたいな狂人が……世界を統一しようなど……許されはしない……!!」

 チェルノボークは傷だらけの身でありながらも、強い怒気を込めて狂気を抱いた勇者アルオーンへと怒声を浴びせる。

「狂人ですか。まぁ、それも良いでしょう。

狂っていなければできないこともありますからねぇ……」

 怒声を喰らった勇者アルオーンはチェルノボークの言葉をあえて肯定する。

「その狂人にあなたはなす術もなく、瀕死に追い込まれている。

 この事実は決して覆ることはありません。そう、決してねぇ……」

 勇者アルオーンは己の揺るぎない勝利を確信した、理路整然とした一言でこの場の状況を説明する。

「あなたと話しながらも、私の心はまだ満たされていないんですよ。

 ただ、あなたを封印するだけじゃあ、心の渇きは満たされないみたいです」

 勇者アルオーンはチェルノボークにそう言ってから、手元に引き寄せたチェルシーのほうを向けて残忍な笑みを浮かべた。

「そうですね……彼女には何とも思ってはいないんですけど、あなたの絶望に堕とされた表情を見るために、死んでもらいましょうか」

「……うぅ……」

「なにっ……!? 何故、チェルシーを殺す必要がある……!?

 チェルシーには何も罪はないじゃないか……!? ただ、死病に苦しんでいただけだ……!?」

 心の渇きを満たすためだけに、死病に侵された少女チェルシーを殺めようとする勇者アルオーン。

 チェルシーを救おうとするも、聖剣フィーリアの威力で思うように動けず。

ただ、叫ぶことしかできない黒き魔神チェルノボーク。

「嗚呼、その悲鳴だけでも良い嗜虐心を味わえます。

 ですが、私が望んでいるのは愛する人の死に自分の無力さに絶望した、苦しむあなたの表情ですから、ね」

「……あ……」

 勇者アルオーンはそう言うとチェルシーを自分の前に向かわせて、聖剣フィーリアでチェルシーの身体を突き刺した。

 そして、聖剣フィーリアを引き抜くとチェルシーの身体はドサりという音を立てながら、チェルノボークの前に倒れ伏した。

「止めろ……止めてくれ……!? こんなこと……我は望んでいなかった……。なのに……なのに、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?」

 愛する女性を目の前で喪失ったチェルノボークは、慟哭の怒気なる悲鳴をあげる。

「アハハハハっ!! あなたのその表情は、私の心は最っ高に満たしてくれますよ。

 あなたのその表情が見れて私は満足しました。ありがとうございます。

というわけで、封印させていただきますね。

あなたを封印したという功績で、私はあなたが否定したラージェスターの統一を行わせていただきますから。

それでは、さようなら」

 チェルノボークのあげた慟哭と怒気なる悲鳴を楽しんだ勇者アルオーン

チェルノボークに形だけの空虚なる感謝をすると、チェルノボークの胸へと聖剣フィーリアを突き刺した――。

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