アラスゼンの最期
「ウォォォォ！！」
サタンは竜麟彫りの片手剣を急旋回しながら、アラスゼンへと向け突撃した。
ーー正確には、アラスゼンの持つ漆黒の大剣へだがーー。
「ヌゥゥゥゥ！！」
アラスゼンはサタンの突撃を漆黒の大剣の腹にて防いでいた。
しかし、急旋回のために打ち払うことが困難だった。
生み出していた魔力の光球は放つタイミングを伺っているのか、未だ手中に収められている状態だ。
「もはや、これまでか！ ならば、これらを貴様に打ち込んでやろう！」
アラスゼンはサタンとの均衡を保ち続けるのは不可能と断じて、手中に収めて魔力の光球をサタン目掛けて解き放った。
「クッ！ ……ハァアア！」
サタンは無音の超重力を発生させる魔力の光球を受けながらも、急旋回による突撃を止めようとはしない。
そして、勝機は生み出される。
アラスゼンの持つ漆黒の大剣の腹の部分からヒビが入る。
サタンはこれを狙っていたのだ。アラスゼンの武器を破壊し、そのままアラスゼンの胸に埋め込まれた黒い球体を斬砕するために。
そして、硬質の素材が砕け散る音がした。
アラスゼンの持つ漆黒の大剣が破砕されたのだ。
「なんだとぉぉぉぉ！？ 我が剣が砕かれるだとぉぉぉぉ！？」
アラスゼンは驚愕の悲鳴を上げた。
決して折れることの無い罪という闇で造られた大剣を。
半身とも言える大剣を。
サタンは砕いたのである。
アラスゼンの大剣と言う武器を破壊したサタンは勢いを殺さずに、アラスゼンの胸の球体へと突き刺していく。
「グァァァァー！？」
サタンの竜麟彫りの片手剣の突撃がアラスゼンの胸に埋め込まれている黒い球体を砕いた音が響く。
「……ハァ……ハァ……これで……我の……勝利か……なっ！？」
勝利を確信したサタンは、倒したはずのアラスゼンの脈動を感じた。
「オノレオノレオノレェェ……！！ サタンンン……キサマヲォォォォ、ホロボスゥゥゥゥ……！！」
「ちぃ！ 死に損ないが！！」
アラスゼンの執念がサタンを滅ぼす。そのためだけに新たな姿を取って復活する。
サタンは即座に後退りし、その場を離れた。
アラスゼンの最期の抵抗に呑み込まれないために。
アラスゼンの姿は変容していた。
巨獣のような四脚を持っていた下半身は細身の二脚となり。
尾のしなやかさはそのままに、黒い竜鱗が張り付いている。
角が生えたような狼の頭部を持った上半身は。
胸に埋め込まれ、サタンが持つ竜麟彫りの片手剣で斬砕されたはずの黒い球体は。
ヒビが入った程度にまで修復されており。
四腕の腕は三対の細身の腕となり、竜の爪と黒い竜鱗の鱗がまばらに張り付いている・
頭部も狼の頭部にまばらに黒鱗が張り付いていて、狼なのか竜なのか分からず、気味の悪さがビシビシと伝わってくる。
そして、背中には三対の竜翼の翼が生えていた。
「我を滅ぼす。そのためにこんな姿にまでなったのか。それとも、創造偽神デミウルゴスの狂気による罪あ滅びに抵抗しているのか。
どちらにせよ、我が完膚無きまでに滅ぼし尽くすのみ！！」
敵対本能丸出しの死に損なった醜悪な怪物。
膨張した罪の成れの果てとも言える存在。
サタンはアラスゼンだった怪物に向けて、滅ぼす威を発したーー。
