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Rise 02

 「思えば最後に夜に外出したのなんて生前は入院する前だったし、キャリィに至っては初めてのことか――」

 星が輝く夜と街の灯りも消え去り静まり返った帝都。

 その都を取り囲んでいる城壁に沿って歩きながら私は感慨深く呟いた。

 しかしこの闇は身を隠しながら街を出たい私にはちょうどいい。

 母と私が住んでいた家、いや、小屋と言ったほうがいいか。小屋は帝国の首都を囲う外壁の端にあったため、私は街中を突っ切ることなく人目にも触れないまま安心安全に移動できている。

 加えて帝都のマップを熟知していないキャリィも私も街中を迷いながら門を目指すより、すぐ側にある壁伝いに門を目指せるというのは更に好都合だった。

 念のため静まり返った街の方向に対し注視をしつつ歩き続けていると、遠くに松明の灯火が見えてきた。

 キャリィの記憶によると宮廷は帝国領の北に位置しているため、やや見上げる方向に見える巨城から遠ざかるように歩いている私は南に向かっていることになる、つまり今私は南門付近に到着できたようだ。

 気づかれないよう家の陰で歩みを止めて周囲を観察すると、鎧は着けていないが帯剣している兵士が門の前に1人見える。

 姿が見えない残りの兵士はおそらく詰め所の中にいるのだろう。

 詰め所の窓からは、室内の灯に照らされた人影が何体か揺らめいているのが見える。

 帯剣している門兵は警備が面倒そうな顔をしてはいるものの、腰に携えたロングソードの柄には常に手を添え、いつでも抜剣できる体勢をしている。

「こんな夜中に許可なく帝国を出ようとすれば、いくら私が子供でもアッという間に捕縛されるか斬られるわね」

 だが好都合なことに、理由はわからないが鋼鉄製の門が僅かに開いている。

 ここを通過するにあたって出立前にいくつかパターンを用意してはいたが、門が開いているのであれば難易度は一気に下がったと言える。

 これから行う作戦が決定し、私がバッグに片手を突っ込みその場を離れると同時に門兵が背伸びをし動き始めた。

「ふあ〜ぁ。ったく、あくびをしてられるのは平和ってことか? なんてな。早く朝にならんもんかね。――ん?」

 しょぼくれた目を擦る門兵だったが、私の狙い通り松明の灯火の光を反射する「何か」が門兵から離れた地面に転がっているのに気づいたようだ。

「――なんだ?」

 松明を手に取り周囲を警戒をしながら持ち場を離れる門兵。

 光を反射する方向へ松明を向けつつ歩み寄り、屈んで落ちている物体を拾い上げると門兵は驚きを隠せないようだった。

 それもその筈。それは私が出発前に持ってきた帝国金貨だ。

「おいおい金貨かよ! こんなところに金貨かよ?! いやいや誰かの落とし物かもしれん。ここは丁重に――?」

 しかし更にその奥にも松明の光を反射する金銀貨が纏まって落ちていることに門兵は気付いた。

「おいおいおい――なんだこりゃ! 落とした奴は相当な間抜けか――?」

 松明を足元に置いてしゃがみ込み、門兵は独り言をブツブツ言いながら両手で貨幣拾いを始めた。

「お勤め、ゴクロウサマ」

 私は金銀貨集めに夢中になっている門兵の背中を不敵な笑みで見送りながら、その隙にがら空きとなった門の隙間を足音を殺しつつ通り抜け、街道ではなく真横に生い茂る森の中へ突入しセパレア山の頂上を目指し登山を開始した。


 ――最初の関門であった「帝都脱出」が思いのほかあっさりとクリアできたことで、私は次のステップである「隣国到着」までの計画を山を登りつつ再確認していた。

 キャリィが侍女から聞いた話によると、隣国へは大人の足で歩き続けたとしても丸1日はかかる距離にあるとのこと。

 今の八歳の身体でそれだけの距離を歩くのは容易ではない。

 そもそも誰の目にも触れずに隣国にたどり着きたい私には、街道を歩いている間誰かに姿を見られるというリスクを避けたかった。

 そこで着目したのが、今私が登山中の「セパレア山」の存在だ。

 以前この世界の地図をキャリィが見たときの記憶を思い出してみると、帝国と隣国の間にはセパレア山という山が存在し、隣国までの街道はこの山を避けて南に大きく経由し「Uの字」のような形をして敷かれていた。

 おそらく侍女が話していた大人丸1日の距離の話も「帝都から隣国まで街道を歩いた場合」のことだろう。

 昼間にキャリィが眺めていたセパレア山の標高は見た目そんなに高くはなく、山越えで隣国を目指す方が距離と時間の短縮になる。

 更に登山道などないであろう山中であれば誰かに遭遇することもなく、他人の目を気にせず隣国を目指せるのではないかと思い、私は山越えを選択した。

 病床にいた当時の身体に比べれば、今の私は四肢が軽やかに動き、山の斜面を登るスピードに今のところ変化も無い。ここまで順調に私は目的を遂行中といえる。

 母には申し訳ないが、母が魔女扱いされていたことが幸いし、親子が急に姿を見せなくなったからといって心配したり気にかけて家を訪問するような人間は()()街には誰1人として存在しない。

 故に私の捜索がされるのも、何かのタイミングで母の亡骸が発見されてからのことであり、逃避行するのに急を要することは今のところないだろう。

 母を埋葬もできずそのままにしてきたことに後ろ髪を引かれる反面、薄幸からの脱却を目指す意思が私の背中を押し進め、偶然見つけた山の途中を流れる小川で給水と休憩を挟みつつ、更に歩くこと体感で数時間ほど。

 さすがに体力の消耗が激しくなっていたが、ようやくセパレア山の尾根にたどり着くことができた。

「ハァ、ハァ……地図も方位磁針も無いにしては進行方向は間違ってなかったようね」

 額の汗を拭いながら振り返ると、松明の灯が数えるほどしか見えず静まり返った帝都が見える。

 なんの映えもない景色に対し早々に見切りをつけると、反対側の麓に視界を戻した。

「――あれが、ラミニス王国か」

 緑少ない盆地の帝国とは対照的に、王国側の世界は星明かりの下でもわかるくらい生い茂った草原が彼方まで広がっている。

 王国はその草原の中心あたりに造られており、星明かりの自然な光が照らす草原とは対照的に王国の城壁や街は人工的な紫色の淡い光の「点」によって照らされとても幻想的だ。

「すごく綺麗ね――っ!?」

 前世でも見たことがない綺麗な景色に目を奪われ私は足元への注意が疎かになっていたようだ。

 つま先を地面の段差に引っ掛けてよろけると、疲労もあって踏ん張りができず、そのまま王国側の斜面を転がり落ちた。

 転がること数秒。幸か不幸か王国側の傾斜も思ったより急ではなく、生い茂った草木がクッションとなり樹木の衝突を避けられたものの、勢いが緩まることもなく私はそれなりの距離を一直線に転がり落ちた。

 動きが収まったときには再び森の中で、先程まで居たであろう尾根が木々の間から微かに見えている。

「さっきまでいた場所がもうあんなところに……痛っ!!」

 視界が落ち着いた時には空を仰いだ姿勢になっていたため、周囲の状況を確認しようと身体を起こそうとしたが、滑落の際に足を痛めたのだろう、右足首に激痛が走った。

「流石に受け身を取らずに転がり続ければこうなるか」

 近くの木に這いずるように近づいて立とうとしたが、痛すぎて木を支えに立ち上がることもできない。

「……直立できない。最悪折れてるかも」

 まるで他人事のように(いや、この世界で目覚めるまでは他人同然だったか)、色々な出来事でボロボロになりながらも頭は終始冷静な自分にある意味驚かされる。

「もう、目的地は目の前。早く……移動しな……きゃ……」

 それでも肉体は8歳の少女。気付かないうちに身体は限界だったのだろう、夜の暗闇より更に深い闇が急激に押し寄せ、私の意識は森を吹き抜ける風の音を最後に途切れた。


(……)


(……お尻が温かい)


(あと……なんか獣臭い)


 不快な眠りから目覚めたような感覚が残ってはいたものの、記憶が途切れる前と今では状況が変わっていることに体感で気づいた。

 重いまぶたをゆっくり開くと、私はどうやら茶色い毛並みをした巨大な動物の背に乗っているようで、その動物の動きに合わせ軽くノッキングしていた。

 (そっか、動物の上か。どうりで暖かいと――!?)

身体を揺られながらそんな感想を抱いて再び目を閉じようとしたが、私の意識は急浮上し獣から飛び退こうと慌てて身体を動かした。

「危ないよ。大人しくして」

 背中から女性の声が聞こえると、私は驚きから動きをピタッと静止した。

 どうやら私の乗っている動物は馬で、その手綱を握った女性に私は背を預けているようだった。

 顔を見ようと動こうとしたが、私の上半身は女性の胴体含め縄で縛られているようで、芋虫のようにウネウネと動けるだけだった。

 女性は再び「危ないよ」と口にしたが、冷静になってみるとそれは確かに正しいようだ。

 セパレア山の斜面を転げ落ちた状況とは違い、視線を足元に下ろすと今は石と砂利で簡易的な舗装された地面になっている。

 意識が鮮明になるにつれ足の痛みも鮮明になり、まるで心臓が怪我の場所にあるかのように脈打ちズキズキする。

 こんな受け身さえまともに取れない状態で落馬しようものなら、最悪このキャリィの体とも早々にお別れしかねない。

「……? ……!」

 変わりに言葉で訪ねようとしたが、声を発することができない。

 口は開く。だが声帯を使えないというか、口パクしかできない。

「あぁ、ゴメンね。呪文詠唱ができないよう魔法で声が出ないようしてる。念には念をってやつだね。身なりを見た限り相当疲れてるだろう?身体は縄で括ってあるから、今は寝てていいよ」

 こんな扱いをされている状況で「寝てていい」と言われて眠れるはずもない。

 それにしても、さっきのセリフの「括ってあるから」ってのは何だ、私は荷物か何かか。

 周囲の状況を把握できず、喋られず、相手も何も喋らずといった、ある種の「見ざる言わざる聞かざる」のこの状況で私が唯一できるのは、とりあえず不機嫌オーラを発し続けることだけだった。

「おぉ。こわい、こわい」

 私の不機嫌オーラを感じているのだろうか、そんなこと微塵も思っていないであろうセリフを口にする相手に「嘘つき」と言葉を発せられないことにさえストレスを感じつつも、周囲に響く馬の蹄の軽快な足音だけが唯一心の安定材料だった。


 ――目覚めてから小1時間といったところだろうか、遥か空が薄明るい東雲になった頃、帝国に劣らないであろう大きな石造りの外壁に馬は到着した。

 壮観だなと見上げていると、帝国を出るときにいた門兵と違い、甲冑を身に着けた兵士がハキハキとした動きで馬に近づいてくる。

「団長、お疲れ様です。どうでしたか? やはり何かありましたか?」

「うん。流石は我が妹。拾い物をしてきた」

 そう言うと胸元に括り付けられた私の頭を撫でた。

「子、供……ですか」

 門兵は兜の面を手でスライドさせると子供扱いをされムッとしている私を興味津々に覗き込んできた。実際子供だけれども。

「あぁ、とりあえず身元は不詳だ、おいそれと街中には入れられない。詰め所を借りるよ」

「それはもちろん構いません。私はもう交代の時間でもありますので、馬は私が戻しておきます」

「そう? 悪いね。それじゃ、行こうか」

 手綱を門兵に握らせると、私を括り付けたままだというのに軽やかに馬をヒラリと降りる「団長」と呼ばれる女性(足が痛むからもっとゆっくり降りてほしかった)。

 門を抜けると正面には歴史や文化があるだろう趣のある街並みが見えたが、女性は吸い込まれるように門左手の無骨なレンガ造り2階建ての詰め所に向かい始めた。

 入口に入ってすぐ脇には鉄格子の戸があり、地下へ通じる階段が見える。

 詰め所の別の人間が女性の指示で格子の錠を解錠すると、そのまま私は女性共々階下へ向かう。

 地下に続く階段の壁にはガラス製のランタンが等間隔に備え付けられており、ランタンの中心には炎の代わりに紫色の光の玉が浮いていて、昼間とまではいかないが足元が薄暗くなることなく周囲を照らしている。どうやら山から見えた光の「点」の正体はコレのようだ。

 漫画やアニメで見る地下といえば、松明かロウソクを使っているものを連想するため、目の前で光る物体は凄く新鮮に見える。

 そんな感想を抱いている間に詰め所地下の最奥まで着いたようで、私は括られたまま女性共々部屋に入った。

 部屋の中心には木製の円卓テーブルと、テーブルを挟むように置かれた2つの椅子、そして布団が敷かれたベッドがある。

 先入観で地下=牢屋と思っていたが、割りと人道的な対応を受けられそうな空間だと思った。

 ようやく拘束を解かれベッドに腰掛けさせられたと思ったら、また改めて紐で両手を拘束され、それが終わってようやく女性と私は初めて目が合った。

赤い癖毛がかった長めの髪を高めのポニーテールで纏めた髪型に、眠そうだが鋭い眼光をした緑の瞳。

 声の落ち着き具合からもっと大人の人を想像していたが、見た目は20代になるかならないかくらいで、学生服を着せても女子高生で通用しそうな顔立ちをしている。

 詰め所の人間は兜を着けたフルプレートメイルだったのに対し、女性は見る限り左腕と両膝下にしか鎧を身に着けていないようだ。

 後、括り付けられる間に感じていた事だが――、生前の私より胸がデカい(うん、ある種私の敵ではある)。

 笑っていない目と数秒間見つめ合った後に「フッ」と女性は口元だけ笑うと「待ってて」と言い部屋から出て行ってしまった。

 まるで主人から「待て」と言われた飼い犬のような扱いである。

 足音が遠ざかると代わりの見張りが来るでもなく、只々沈黙だけが残り私は足首の痛みに気を使いつつもベッドに身体を預けた。

 目を閉じ、これまでのことを頭の中で整理していると誰かがこちらに近づいてくる足音が扉の向こうから聞こえてくる。

 足の痛みを我慢しつつ、直ぐ様身体を起こすと軽いノック音が数回し、先ほどの女性が再び部屋に入ってきた。

 どうやら着替えてきたようで、先ほどの鎧姿から一変して今は修道服のような装いになり、髪もポニーテールを解いている。

 女性は私の目の前までやってきてしゃがみ込むと、先程までの無愛想な態度と違って今度はニコニコしながらこちらを見ている。

 私もお返しに口の端だけを吊り上げた何ともぎこちない作り笑いを完成させると、女性は私の手首を縛っている紐を外し衣服を脱がし始めた。

「――?!」

 急な出来事に慌てて抵抗はしてみたものの、相手が女性であったとしても少女が大人に敵うわけもなく、私はあっさりと下着以外を脱がされキャミソールとバルーンパンツだけになってしまった。

 同性であっても、心許していない相手に肌を晒すのは心穏やかでいられなかったが、そんな気持ちの私とは対照的に、女性は仕事でもしているかのように手慣れた手つきで私の身体をあちこち確認し始めた。

 上半身から順に始まり、首の縄の痕を見つけたところから段々と女性の顔は曇っていき、足首の腫れに気づくとその段階でもう相手の笑顔は完全に消え去って苦虫を噛んだような辛そうな顔になってしまった。

 これまでの手つきとは違ってそっと私の足首に触れると、慣れ始めてきた痛みが急に増大し、私は身体をビクッと強張らせてしまった。

 その反応を見せると女性は目を閉じ「癒やしの力よ」と言葉を口にした。

 すると、私の体表が薄緑色の光の膜に覆われ、全身がお湯に浸かったように温かくなった。

 心地よさをしばらく味わっていると今度はノック無しに部屋のドアが再び開き、出会ってからお別れまで私を小動物扱いしてきた女性が同じ鎧姿で入ってきた。

 まるで着せ替え人形のように服装以外の素体が全く同じ女性が目の前に2人いる光景に、私は驚きのあまり修道服の女性と鎧の女性を交互にキョロキョロと見比べた。

「どう? 調子は」

 そう鎧の女性がボソッと言うと、修道服の女性は勢いよく立ち上がって振り返ると声を荒げ苦言を呈した。

「――姉さん! 危険を最優先する前に人命よ! この子、足が折れていたわ! あんな痛々しいままここに連れてくるなんて!」

 たぶんこの2人は双子なのだろう。妹女性は大変ご立腹のようだが、それよりも折れて「いた」というそのセリフを聞いて私はハッとした。

 足の痛みが消えている、――いやそれだけじゃない。

 脱がされて肌が晒された場所どこを見ても擦り傷1つ見当たらない。

 自身の身体をあちこち眺めていると私の体は暖かなローブに包まれた。

 どうやら妹女性が身につけていた修道服のローブを脱いで私に被せてくれたようだ。

「服はかなり傷んでいますので替えを持ってきますね」

 私の前に再びしゃがみ込み微笑みながらそう言うとすぐに立ち上がり、妹女性は姉女性を睨みつつ部屋を出ていってしまった。

 そして再び静寂が訪れ、姉女性と私は再び2人きりとなった。

 姉女性が私を指差し「解錠」と言葉を口にすると、相手の指先が光るのと同時に固まった喉が柔らかくなったような感覚がして私は喉を触った。

「もう喋れるよ。ここで何か詠唱して逃げられたとしても、その格好ではうろつけないよね。定番の言葉かもしれないけど、大人しくしてたほうが身のためだよ」

 女性は椅子の背もたれを前にし跨ぐと、淡々とした口調ながらも不敵な笑みを微かに浮かべつつ私にそう伝えてきた。

「わかり、ました」

 もとより私は最初から何もする気はない、この国が目的地なのだから。

 しかし余計なことを言って危害を加えられるとも限らない。

 ここは言われたことだけに答えるよう努めることにした。

「うん。それじゃ、キミ名前は?」

「ヒカ……キャリィです」

 名前を聞かれて危うく生前の名前を言うところだった。

「あんな時間に、あんな場所で、何してたの?」

 調書を記録するでもなく質問してくる姉女性。

「ここに向かおうと山越えをしてて、斜面を滑落を転がり落ちて……」

 そう答えると初めて相手の感情がピリッと尖って変化したように感じ、私は緊張から身体を強張らせる。

「君が山越えをしたんだ」

「え? はい、大変でしたけど……」

「……」

 姉女性は自分の顎を指で撫でながら思案している仕草をしている。

「――いつ帝国を出たの?」

「大雑把ですけど、昨日の夜に」

「そっか。――流石だね」

 何が流石なのかわからなかったが、尖った感情が多少緩んだように思える。

「今日はもういいや」

 姉女性は質問が済んだのかスッと椅子から立ち上がった。

「え?」

「何? 拷問や尋問されると思った? その心配はしなくていいよ。何か用があれば扉越しにエレンを呼んで」

 扉に向かい歩きながらそう私に伝える姉女性。

「エレン、さん?」

「私だよ。じゃあね」

 そのままエレンと名乗った女性は出ていってしまった。

「……疲れた」

 足音が遠ざかり、緊張から開放された瞬間私はローブを羽織ってはいるものの、下着姿構わずそのまま大の字でベッドに倒れ込み「ええいままよ」と開き直ってそのまま眠ることにした。

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