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04 素敵な石の正体

 モズリンとアヴィは幸せに暮らしている。二人は森を巡回し、ケガをしている鷹に薬を塗って介抱したり、迷子になったハリネズミを探すのを手伝ったり、忙しいけど、この森で役に立てることを幸せに感じる日々だ。


 ある日、アヴィはお腹を空かせたリスにドングリを分けてあげようと奥の部屋で探していた。


(ホント、いろいろあるよなぁ……)


 モズリンが魔法に使う材料を瓶に入れて並べてあるこの部屋が、アヴィはあまり好きではない。だからお目当てのドングリを取ってすぐに部屋から出て行くつもりだったが、ふと、たくさんの瓶の中に素敵な石を見つけてしまった。


 アヴィはその瓶の近くに飛んでいき、もっとよく見ようと中を覗き込んだ。


(なんて綺麗な石だ。どんな匂いがするのかな?)


 アヴィは瓶に顔を近付けたが、匂いはしない。


(どんな味がするのかな。舐めるだけなら減らないからバレないよな)


 嘴でつまんで、一つ口の中に入れてみた。


(ちぇっ。味もしねーや)


 石を瓶に戻そうとしたとき、ふいにモズリンが部屋に入ってきた。


「ドングリあった?」


(うぐぐぐ……)


 驚いて石を飲み込んでしまった。


「アヴィ、居るの?」

「あぁ、居るよ。丁度ドングリを見つけたところだ」


 アヴィはドングリの入った袋をくわえて部屋を出た。








 森を巡回する毎日と、ミスターオールドの中でアヴィと楽しく暮らす生活はあっと言う間に流れ、気が付くと数十年が経っていた。四季をなんども繰り返す中で、それぞれの季節にしか取れない魔法の材料を集め、マニマニから教わった魔法を振り返りながら生活をしていた。


 モズリンはさっき森で見たツツジをきっかけに、マニマニの事を思い出していた。


(どうしているのかしら)


 相変わらず命のランプの炎は小さく弱々しい。


 マニマニは無口でおとなしい人だったから、何日も言葉を交わすことなく過ごすことがよくあった。アヴィとの生活とは大違いだけど、マニマニとの静かな生活も大好きだった。たまにモズリンは、その日あったことをマニマニに話すと、彼女は静かに微笑んでうなずいてくれた。一緒に住む家はとても温かくて、気持ちがくつろげる空間だったから、将来の不安など感じたことは一度だってなかった。思い出していたら、マニマニや一緒に暮らしていたカラスと黒猫のことが無性に恋しくなった。


(なんだか泣きたくなってきちゃった)


 もうすぐアヴィが起きる頃だから、感傷に浸ってないで元気出さなくちゃ。心ではそう思っているのに、涙が溢れてきた。少しピンク色に光るキラキラした涙は、目頭や目尻に溜まると赤みを帯びて固まり、粒になった涙はコトンと音をたてて床に落ちた。モズリンはコトンコトンと目からこぼれ落ちた石を拾い集めた。


(涙だったのか!)


 その様子をアヴィは天井の巣から見ていた。


(前に、アレ1個食っちゃったんだよな……)


 アヴィは巣から飛び降りてモズリンに言った。


「その綺麗な石、涙だったんだな」

「見られてたのね……そうよ。涙石というの。魔女の血液と同じ成分で、強い魔法の時に使うことがあるわ」

「実はさ、前にひとつ食べちゃったんだ。なんか綺麗だなぁ~って思って見てたら、口に入っちゃって。わざとじゃないんだ。信じてくれ」


 モズリンは目を大きく開いてアヴィを見た。口も大きく開いてたけど、何も言わない。


「いやぁ、もし世界に数えるほどしかない珍しい石だったらどうしようかと思ったぜ。涙ならいくらでも出てくるんだろう?ひとつくらい減ったって大丈夫だよな。怒られたら嫌だから言えなかったんだよ。あぁ~言えてスッキリしたよ」


 モズリンは右斜め上を見て口を尖がらせて、それから左斜め下を見て下唇を噛んだ。


「そんなに目をキョロキョロさせてどうしたんだよ。毒はなさそうだぞ。俺は元気だ」

「その、食べたって、いつのこと?」

「そんなの覚えてないよ。えっと、ずっと前だよ。えっと、ママが死んだ前の年だったかな……」

「アヴィのお母さんが亡くなったのって、もう80年も前よ!」

「そうだな、俺の兄弟も、甥っ子・姪っ子も、その子どもらも皆死んじゃったからな、すげー昔のことだな!」

「あぁ!何で気が付かなかったのかしら。うっかりしてたわ……」

「なんだよ。涙石がひとつ減ったくらいで大袈裟だな」

「あなた、自分だけ長生きして変だと思わなかったの?」

「へ?」

「涙石は体を変えてしまうことがあるのよ。動物がこれを丸呑みしたらどうなるのか、見当もつかないわ」

「長生きするんだろ?俺を見ろよ」


 アヴィは羽を左右に大きく広げ、ゆっくりと回って見せた。


「よかったじゃねーか。俺が涙石を食ってなかったら、とっくに死んでんだろう?ずっと一緒に居れるんだから、やったじゃねーか!」


 無邪気に喜ぶアヴィを見て、それもそうか、と思った。アヴィが居なくなったら寂しいもの。あまり深く考えなくていいのかもしれない。


 モズリンはさっき拾った涙石をまとめて口に放り込んだ。


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