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02 新しい友達

 木の洞窟は思っていたよりも広くて、たくさんの根が複雑に絡み合ってできている。とても快適に過ごせそうだ。


 私は掌に意識を集中させ、呼吸を整えながら木の根に手を当てて念じた。


『初めまして。私はモズリンです。独り立ちをしたばかりの新米の魔女です』


 まずは自己紹介だ。


『どなたかここに住んでいる人はいますか?』


 もし既に他の魔女が住んでいるなら、すぐに別の場所を探さなくちゃならない。


『おぉ……魔女か』


 太くて低い声が聞こえてきた。


『魔女に話しかけられたのは、かれこれ千年ぶりだろうか……』


 今は魔女がここにはいないことを知ってほっとした。


『今日はここに泊めてもらいたいのですが、構いませんか?』

『もちろんだとも。好きなだけいてくれて構わないよ。それにしても……ひとつ頼みたいことがあるんだが……』


 と、木は困ったようにごにょごにょ言ってる。


『できることなら、何でもするわ!』

『すまないが、私の枝に登ってカラスの巣で何が起きているか見てくれるかね?大騒ぎをしているんだ。またケンカをしているだけだろうが、どうかなだめてやってほしい』

『お安い御用よ!あなたにカラスの巣があるなんて嬉しいわ!』


 私はすぐさま箒に乗って木の上の方へ飛んでいった。








「何が起きてるの?」


 と、大きな声で聞いた。カラスたちは巣を取り囲むように飛んでいて、すごくうるさかった。


「この大きな木が、あなたたちに何が起きているのか知りたがっているわ」


 騒いでいるカラスたちを避けながら巣に近付いたとき、その中に落とした命のランプが見えた。


「あっ!ごめんなさい!!」


 思い切り手を伸ばして、マニマニの命のランプを掴んだ。


「驚かせるつもりはなかったの、強い風が吹いて落としてしまって……本当に申し訳なく思うわ。」


 私は心から謝ったけど、突然の出来事にカラスたちの怒りは収まらなかった。


「お前は魔女だな!俺たちは魔女は嫌いだ。大嫌いだ!」


 たくさんのカラスに囲まれて、突っつかれて……








 目を覚ました時は真夜中だった。真っ暗で何も見えない。


(いてっ)


 頭と背中、首の筋がとても痛い。


「えっと……」


 何が起きたのか思い出そう。落ち着け私。


「ブローチを見つけて、カラスたちとおしゃべりを……とても怒っていて……あっ!」


 思い出した。


「またやっちゃったんだわ!日の光を見たのね……」


 泣きそうになった。前にも何度かやったことがあるけど、いつもマニマニが助けてくれていた。


「ということは、たぶん今は夜じゃないわね……どのくらいこうしてたのかしら?ここはどこなんだろう?」


 ぼそぼそと独り言を言いながら立ち上がって、手探りで木の洞窟を探した。


「今は昼の2時頃だ。お前は3日間そうして横になっていた。大きな木の根っこのところに立っている」


 思いがけず誰かが答えてくれて驚いた。


「すみません……あなたは?」

「俺はアヴィだ。お前は俺たちの巣におかしなものを落としやがって、そのうえ急に俺に覆いかぶさるように寝てしまったんだ。だから俺の家族がお前を蹴って、下に突き落としたのさ。魔女は俺たちに迷惑をかける。だから嫌いなんだ。俺は別にお前が心配だったわけじゃないからな!ただどうなったか見に来ただけだ」

「あなたはカラスなのね?こんにちはアヴィ。私のことを気にかけてくれてどうもありがとう」


 なんとなくだけど、このカラスがずっと私に付いていてくれたのだと思った。


「言っただろ!心配なんてしていない!俺たちは魔女が嫌いだ!大嫌いなんだ!」

「私は、モズリン」

「じゃ、モズリンは嫌いだ!」

「あなたは私が嫌いなのね。分かったわ」


 むきになっているカラスが可愛くて、思わず吹き出してしまった。


「俺は魔女が嫌いだ。だからモズリンも嫌いだ」


 アヴィはそう言うとどこかに飛んで行った。


 幸運なことに私が横たわっていたのは大きな木の洞窟のすぐ前で、よじ登って中に入ることができた。洞窟を形作っている根っこは幾重にも重なり合っていて、分厚い壁に寄りかかっていると大きな手に包まれてるみたいでほっとする。


『こんにちは……えっと……』


 もう一度、この木と話したくて、掌を当てて念じてみた。


『私は、ミスターオールド。私は自分の名前を知らないが、皆はそう呼んでいる。()()()()()()()という意味らしい』

『改めましてこんにちは、ミスターオールド。私は日の光を見てしまって、しばらく何も見えなくなってしまったの』

『知っているよ。しかし君は運がよかった。アヴィは片時も君から離れることは無かったよ』

『ええ、そう思ったわ。なぜカラスたちが魔女を嫌っているかご存じ?』

『ああ。かれこれ千年前、ひとりの魔女がここに住んでいたんだ。彼女は風変わりで、友達は一人もいなかった。ある日、彼女はカラスの巣から卵をいくつか取ってしまったんだ……』

『えっ?!』


 私は禁断のレシピを思い出した。


『そうだ、彼女はパイを作ったんだ』


 禁断のレシピというのは、決して作ってはならないと言い伝えられているものだ。私はその話に衝撃を受けた。


(カラスたちと友達になることは諦めるしかないかな)


 残念な気持ちでいっぱいになっていたら、突然カラスにしゃべりかけられた。


「私の息子を返しなさいよ!」


 とても怒っているみたい。


「アヴィを探しているの?」

「そうよ!私の息子を返しなさいよ!」

「お願い。痛いから、突っつかないで」


 どうやらアヴィのお母さんのようだ。


「アヴィは巣には帰っていないの?」

「しらばっくれないで!私の息子を食べたのね?!」

「アヴィがどこにいるか知らないわ。あなたたちがどうして魔女を嫌っているか分かったけど、私は決してあなたたちを傷つけたりしないわ」

「どうしてそんなこと知っているのよ?アヴィが話したの?」

「いいえ、ミスターオールドが話してくれたのよ」

「何を言うの?ミスターオールドは木よ。木がしゃべるわけないじゃない!あんたは嘘つきだね!」


 どうやってミスターオールドと話をしたのか見せようとした。

 掌を壁にあてて「見て……こうやって……」とお母さんカラスの反応を待ったが、反応はなかった。


(もう、ここにはいないのね)


「アヴィはどこにいるのかしら?」


 アヴィが私に話しかけてくれてから、もう何時間か経ってるはずだ。もしかして三日間一度も帰ってないとか……?


(それにしてもお腹が空いたなぁ)


 マニマニの元を出発してから何も食べていない。私はこの森のことをまだ何も知らないし、今は目が見えないから食べ物を探しに行くことができなくて困ってしまう……「ぐぅ~」大きな音がお腹から鳴ってしまった……


「あはははっ!」

「アヴィ!どこにいたの?お母さんが心配して、あなたを探しにここに来たのよ」

「え?俺のママが?信じられない。ママは臆病だし、魔女のことを心底怖がっているんだ」

「分かるわ。過去に何があったかミスターオールドから聞いたの」

「そうか!ミスターオールドならなんでも知ってるだろうな。なんてたってすごい歳をとってるんだから!あはははっ」


 アヴィは私の話を信じてくれたのが嬉しい。


(もしかしたらアヴィとは友達に慣れるかもしれない。彼は他のカラスたちとはどこか違うみたいだもの)


「アヴィ、今すぐお家へ帰った方がいいわ」

「あぁ、そうするよ。お前にこれを届けに来ただけだ」


 そう言って、彼は袋のようなものを私にくれた。


「これは何?」

「木の実」


 そう答えると、飛んで行ってしまった。


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