99.薬師、殿下を助ける
口元に耳を澄ませ、息をしているか確認する。
胸がわずかに動き、浅く呼吸はしているが、首元を触れても脈拍が感じ取りにくい。
「すぐにポーションを持ってきて!」
今の状態では回復タブレットでは、飲み込むことも噛むこともできない。
ポーションのような液体を無理やり流し込むしかないだろう。
「はやくしろ!」
父の声が響く。
なぜこの状況で、誰もポーションを持ってこなかったのか。
それがこの世界のポーション事情なんだろう。
なんせ、助けるために運び出さないといけないポーションの量が、今までだと数十リットルになるからな。
頭の中で治療という認識とポーションを使うという認識が結びつきにくいのかもしれない。
おまじないに近かったもんな……。
「雑草と水の準備をお願いします!」
俺の言葉に反応したのか、ルーカスの声が響く。
この大広間って王城に入ってすぐの場所にある。
騎士団本部の倉庫には、ポーションが置いてあるが距離としては遠い。
「雑草はこれでいいのかな?」
さっきまで庭にいたから、一番近かったのだろう。
第二王子が雑草を持ってパーティー会場に戻ってきた。
「お水も持ってきたよ!」
ノクスが急いで水を持ってきた。
素早く動けるのが、周囲で見ているだけの貴族の大人より子ども達とは……。
ルーカスとリシアは雑草と水を受け取ると、すぐにポーションを製成する。
「メディスン様、ポーションです!」
まさかあのポーションが雑草と水から作られるとは、この場にいる貴族は誰も思わなかっただろう。
すぐにルーカスからできたばかりのポーションを受け取る。
ライフポーションだから、飲めばある程度効果があるだろう。
「失礼します」
俺はエドワードの口の中に少しずつポーションを流し入れる。
「ゴホッ!?」
どうやら咽せてはいるものの、ポーションの効果はあるようだ。
そのままポーションを飲ませていくが、呼吸が浅く、顔色が悪いのは変わらない。
毒を取り除かなければ意味がないようだ。
すぐにエリクサーエッセンスを使った毒消しタブレットを作り、口の中に入れる。
だが、それでも症状が改善する様子はない。
俺の知らない毒が、エドワードの体をむしばっているのかもしれない。
「クラウディー!」
「何でしょうか?」
俺はすぐにクラウディーを呼びつけた。
「えっ、メディスン様!? どっ……どこを触るですか!?」
突然、触られてびっくりしているようだ。
クラウディーの体に触れて、俺は目的のものを探す。
「あっ……ちょっと……」
「あった! 短剣を借りるぞ!」
胸ポケットにひっそりと入っている短剣を取り出し、エドワードの元に戻る。
「おい、あいつ何をやる気だ!」
「今すぐに捕えろ!」
近衛騎士団がさらに声を上げるが、父は決して通さない。
それはさっきまで呆然としていたクラウディーや忍者のような子ども達も同じだ。
俺はエドワードの腕に短剣で斬りつけた。
流れ出る血液をすぐに成分鑑定をする。
「穢れた血……」
目の前に表示される血液成分に絶句した。
約50種類以上の成分が出てきたのだ。
名前からして如何にも毒に汚染されているのはわかるが、血液成分と毒の種類が混ざって毒名がわからない。
「どうすれば……」
知らない毒の成分だけでもわかれば、治療薬はできるかもしれない。
俺はやつにかけることにした。
大量に回復タブレットを製成し、一気に摂取する。
やつを出す時には体力、魔力両方必要になってくるからな。
「出てこいウニョ!」
『ウニョオオオオオオオオオオオオオオ!』
声をあげてウニョが飛び出てくる。
突然出てきた謎の黒い物体に悲鳴と緊張が走る。
魔力の消費が激しかったから、その分ウニョのサイズも大きい。
「ウニョ、この血から毒を取り出してくれ」
ウニョはそのまま体から触手を出すと、エドワードの腕に巻きつける。
毒の塊であるウニョは毒を食事のように吸い取ることができる。
血液を取り込んで、体の中で毒と合わせているのだろう。
ただ、知らない毒が反応して、ウニョの体が小さくなっていく。
「ウ……ウニョニョ」
気づいた時には手のひらサイズまで小さくなっていた。
ただ、赤黒い何かが浮いている。
【成分鑑定】
成分:シアニウス
詳細:シアン系の神経毒が魔力を多く含むことで変異したもの。細胞のエネルギー生成を阻害し、神経と呼吸中枢を麻痺させる。意識を急速に喪失させ、最終的に心停止を引き起こす。
元々ある化学物質がさらに強いものに変化しているのだろう。
俺はそのまま、シアニウスとエリクサーエッセンスにゼラチンを混ぜて、シアニウス入りの毒消しタブレットを製成する。
段々と意識が遠のいていくが、これで毒は取り除けるだろう。
「ルーカス、これをポーションと一緒に飲ませて!」
俺はその場でルーカスに毒消しタブレットを渡す。
エドワードの口に入れると、ポーションで無理やり飲み込ませる。
短剣で斬った傷もすぐに塞がり、エドワードの顔色も良さそうだ。
「メディスン様、これで無事に……」
だんだんと声が小さくなっていく。
視界もボヤけて、みんなが集まってきているが、誰か認識ができない。
ああ、そうだ……。
俺も毒入りのワインを飲んでいたのを忘れていた。
回復タブレットの効能の良さに気づかなかった。
意識が朦朧とする中、新しい毒消しタブレットを製成する。
――ピコン!
『スキル【薬師……ん?】が覚醒して、スキル【薬神】になりました』
遠くから何か声が聞こえていたが、いまいち聞き取れず、俺はその場で記憶を失った。
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