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97.薬師、悩みを聞く

 宮廷薬師の任命式が終わると、すぐに子どもたちも案内され、就任パーティーが始まった。


「宮廷薬師様、ぜひ我が家でも回復薬を手にする時は来るのでしょうか?」

「なっ、君はせこいぞ! ぜひ、私達もお恵みいただきたいです」


 目の前で回復薬を披露したことで、俺は貴族達に囲まれていた。

 ルーカスやリシアは貴族ではないため、すぐにエレンドラ達が彼らを包囲したが、肝心な俺は野晒し状態だ。

 きっと今が一番モテ期なんだろう。

 ほとんどがおじさん達だが……。

 遠くで国王と一緒にいるコンラッドが、ニヤニヤと楽しそうに笑っているのが見える。

 多分、貴族達に顔を売るという意図があるのだろう。


「申し訳ありません。回復薬は宮廷薬師として、王城で管理されます。少しずつ量を確保できるようになれば、皆様の手にも渡るでしょう」


 決して俺は取り扱っていません。

 襲っても無駄ですよってしっかり伝えておく。

 実際のところ、回復薬は雑草と水、そして魔力で簡単に作れるからな。

 時間もかからず、今すぐにでも作れるが、あまりにも早く普及させてしまうと、これまでのポーションの価値が下がってしまう。

 それにこの場にはノクスフォード公爵家をはじめ、薬師ギルドや錬金術師ギルドに関わる人達もいる。

 絶対面倒ごとに巻き込まれる気がするため、それだけは避けたい。

 結局、俺の周りに集まってくるのは王族派の人達ばかりだからな。


 自分達の立場が急に危うくなり、どうしようかと話し合いでもしているのか、俺に近づこうともしない。

 最近まで雪の病魔に侵されていたと聞いている。

 急に宮廷薬師の任命式と就任パーティーがあったのもそのためだ。

 そのせいで今、焦りや不安が彼らの顔に浮かんでいるのが見て取れる。

 何も対策ができなかったのだろう。


「では、この辺で失礼いたします」


 ある程度相手をし終えた俺はその場を離れることにした。

 普段から部屋にこもっている俺がずっと話し続けるのは疲れる。

 それも貴族相手にだ。神経がすり減って仕方ない。


「メディスン様、ワインをどうぞ」

「ありがとうございます」


 俺は近くにいた給仕からワインを受け取ると喉を潤す。


「この世界のワインって変わった味がするな」


 食文化自体があまり発達していないため、ワインの品質も低く、美味しくないのだろう。

 細かいところまでゲームの開発をして欲しかったと常々思う。

 ただ、メディスンの体の影響か、食べ慣れているのが幸いだった。


「んっ……、なんかふらふらするな」


 温まった体を冷やすために、テラスに出ることにした。

 久しぶりに飲んだワインが俺を千鳥足にした。

 元々アルコールに強くなったが、どうやらメディスンもアルコールが苦手なようだ。

 俺はひっそりとライフタブレットを製成して、噛みながら外に向かう。


「あー、外は涼しいな」


 テラスに出ると、風が体の温度を下げていく。

 季節が暖かくなっても、夜はまだまだ冷えるようだ。

 凍えるような寒い時期のメディスンの体に転生して様々なことがあった。

 やっと安全な地位を確保できて、ひとまずは処刑ルートからは回避できただろう。

 そう思うと心から力が抜けるような気がした。


「んっ、あんなところに誰かいるな」


 テラスからは庭に繋がっている。

 庭にあるベンチに座り込んでいる子どもが目に入った。

 見た目からして親と一緒にいるのが当たり前なのに、一人で庭にいるのは珍しい。

 周囲には誰もいないため、迷子にでもなっているのだろうか。

 俺はゆっくりと近づき、声をかける。


「こんなところでどうしたんですか?」

「ヒイイィィィ!」


 安心させるようにニコリと笑って声をかけたが、びっくりさせてしまったようだ。

 すぐに無表情に戻ると、向こうもすぐに立ち上がり頭を下げた。


「宮廷薬師様、この度は就任おめでとうございます」


 礼儀正しい子に涙が出そうになる。

 年齢としてはノクスやステラと変わらないだろう。

 そんな子がちゃんと挨拶ができるんだ。


「そんなに畏まらなくてもいいよ。君は挨拶もできて立派だね。隣に座ってもいいかな? あっ、決して誘拐とかそんな物騒なものではないからね!」


 ちゃんと挨拶してもらった子には、ちゃんとした対応をしないといけないからな。

 ただ、安心させようとして、捲し立てるように話してしまった。

 大人達とは違って、気持ち悪い視線もないし、子どもといた方が俺も気楽だ。


「僕が立派ですか? 初めて言われました……」

「立派以外に何があるんだ?」


 少年は首を傾げながら尋ねてきた。


「何かあったのか?」


 何かに悩んでいるのだろうか。

 ここは宮廷薬師のお兄さんが相談に乗ってあげよう。


「いえ、僕は皆と違うので……」

「違う?」


 俺から見たら何が違うのかわからない。

 ノクスやステラみたいに可愛らしい少年にしか感じない。


「僕はこの通り髪も黒色ですし、瞳も闇のように真っ暗で不気味です」

「不気味……なのか?」

「へっ?」


 俺からしたら日本人っぽい髪色と瞳にしか見えない。

 顔はガッツリ海外の人のように目鼻立ちがはっきりしているから、むしろそこが違和感なんだろうか。


「んー、考えてみたけどわからないな」


 しばらく考えたが、全く出てこなかった。


「俺も暗いところだと髪は黒く見えるし、瞳も真っ黒だ!」


 深緑の髪色は夜には黒色に見えるし、瞳も光が入らないと黒く見える。

 目の奥が死んでいるから、余計に悪役っぽく見えてしまうからな。


「宮廷薬師様は見た目が気にならないんですか?」

「んー、俺は気にならないかな。むしろ君は目鼻立ちもはっきりしているから、モテモテのイケメンになるだろうな」

「イケメン?」


 自分とは違う世界に生きている少年にすら、羨ましく感じてしまう。

 この世界にはイケメンという言葉がないのだろう。


「あー、空を見たら真っ暗だろう? それだけ人を包み込むような立派な男性になると思うぞ」

「それはまるで悪ではないですか?」


 確かに黒って悪のイメージがあるからな……。


「でも、星が輝くには真っ暗な夜空が必要でしょう? あっ、ちょうど俺にも星が二人いるんだ」


 遠くの方からノクスとステラが近づいてくるのが目に入った。

 俺が夜空なら二人は輝く二つの星だろう。

 まぁ、夜空にもなれない、どちらかといえば毒沼みたいな兄だけどな。


「兄さん、みんなが探していたよ?」

「おにいしゃま、まいご?」


 どうやら俺を探しにきたのだろう。

 どちらかと言えば、俺より少年の方が迷子に近いけどな。


「君もそこまで悩む必要ないよ。同じ夜空同士だ。また何かあったらたくさんお話でもしよう」

「ありがとうございます」


 少年はさっきまで悩んでいるような姿はなく、どこか晴れやかな顔をしていた。

 笑顔は夜空というよりは、雲一つない青空に近い。

 きっと少しは悩みが晴れたのだろう。


「寒いから風邪をひかないようにね」


 俺もさっきから背中がゾクゾクとして、寒気がしていた。

 外に長いこといて、体が冷えたのだろう。

 俺は少年に別れを告げて、ノクスとステラとともにパーティー会場に戻っていく。


「宮廷薬師、メディスン様か……」


 少年は小さな声で呟いていたが、俺の耳には聞こえなかった。



「ねね、兄さんはあの人とどこで知り合ったの?」

「さっきの少年のことかな? 今さっき一人でいたから声をかけたんだ」

「ふーん」


 ノクスは俺が少年と話したことで嫉妬しているのだろうか。

 確かにステラも領地でエルザと話していたところを見ていたら言い合いをしていたっけ……。

 さっきの少年とノクスは性別も同じだからな。


「ねね、兄さん」


 ノクスは俺のジャケットの裾を軽く引っ張ってくる。


「ノクスは寂しいのかー!」


 俺は冷えた体をノクスに抱きついて温める。

 ノクスは嫌な顔をせず、優しく抱きしめ返してくれた。

 以前はネコみたいにツンツンツンツンツンツンツンツンデレみたいな感じだったが、今はデレデレツンデレデレだもんな。


「兄さん、あの子ら嫌われものの第二王子だよ?」

「へっ?」

「はぁー、やっぱり気づいていなかったんだね」


 ノクスは俺に抱きしめられなかったわけではなく、さっきの少年が誰だったのか伝えたかったようだ。

 あの綺麗な顔立ちに真っ黒な髪と瞳。

 どこかで見覚えがあると思ったが、あまりにもゲームの記憶が昔すぎて忘れていた。


 この国の第二王子が将来魔王になるってことを……。

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