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95.薬師、恋敵に会う

 翌日、朝から宮廷薬師の任命式に向かう準備で、屋敷の中はバタバタとしていた。


「メディスン様と同じ宮廷薬師になれるなんて感激です」

「これでたくさん串焼きが食べられるね」


 ルーカスとリシアに関しては、礼儀作法を詰められていたが特に緊張している様子はない。

 むしろ、俺の方がうまくできるかと緊張して寝られなかったぐらいだ。

 それにいつもより外からの視線を感じたのもあるだろう。

 目を覚まして周囲を見たが、父の姿はなかったから、本物の心霊現象に間違いない。


「準備はできたか? 王城に向かうぞ」


 父の声に俺達は馬車に乗っていく。


「兄さん、王城はどんなところなの?」

「たのしい?」


 ノクスとステラは初めて行く王城にワクワクしているようだ。


「あそこは……そうだな。金と暇を持て余した貴族どもが、自分の価値を誇示しに集まる場所だ。ぐへへへへ」


 俺は花粉症の薬を提供したとき、貴族というものを嫌というほど目の当たりにした。

 コンラッドが隣にいる間はまだよかった。

 だが、一人になった瞬間、待ってましたと言わんばかりに群がってきた。


「ちょうど我が家にも必要としている者がおりましてね……特別に分けていただけませんか?」


 薬を騙し取って、別の国へ流そうとする者。


「王家と親しいとはなんと素晴らしい。ところで、どれほどのお付き合いかね?」


 俺を踏み台に王族と繋がろうとする策略家。


「王家に目をかけられるのは光栄ですね。しかし、長く続くかどうか……まあ、まぐれでしょうが何かあったら支持してあげよう」


 遠回しに嫌味を言って、まるで味方のように近づく老獪な連中。


 媚びへつらいの嵐。

 次々と差し出される賄賂。

 断れば向けられる微妙な視線。


 俺は薬を作っただけなのに、まるで金を生む道具扱い。

 いや、道具ならまだいい。

 価値がなくなったらどうなるか……。

 考えただけで虫唾が走る。

 だからこそ、ノクスとステラが俺にとって唯一の癒しだった。


「……ねえ、兄さん?」

「ぎゅーしようか?」


 ノクスが不安げに袖を引き、ステラは大きく腕を広げていた。

 俺は小さく息を吐くと、二人を強く抱きしめる。


「ああ、癒される」


 数日の間、嫌なことばかりだったからな。

 やっぱり俺には領地で、ひっそりと暮らすのが合っているのだろう。


「メディスン、やっぱり王城を壊すぞ」

「それがいいわ。私もその貴族達を消し炭が残らないほど燃やしてもいいかしら?」


 父だけならわかるが、母も怒り狂っているようだ。

 馬車が燃えないように、真っ黒な炎は出ていないが、背後に浮いているような気がする。


「はぁー、今から王城に行くんだよ?」

「ほんとにてがかかりゅんだから!」


 そう言ってノクスとステラは両親にも抱きついていた。

 すぐに怒りが収まったのか、両親はニヤニヤとしている。

 ノクスとステラがいなければ、王城だけではなく、王都自体なくなっていたのかもしれないな。


――トントン


 馬車が王城に着いたのだろう。

 馬車は止まり、御者が扉を開けた。


「おおお、王城にとうちゃっくんしました」


 御者は震えており、額からは冷や汗が流れ落ちている。

 御者台に座りながら、中から感じる不穏な空気に当てられたのだろう。


「両親がすみません」

「ヒイイィィィ!?」


 一応俺から謝ったが、なぜかビビられてしまった。

 俺は別に何もしていないのにな……。


 周囲にも到着したのか、貴族達が集まっている。

 視線はもちろん俺達に向いていた。


「お前達、ここからは気を引き締めろよ」

「まぁ、何かあったらママが消し炭にするから気にしないでちょうだい」


 ある意味気を引き締めないと、貴族達全員が消えてしまうだろう。


「よっ!」

「メディスン、かっこいいわね!」


 ウィズロー公爵家のイグニスとエレンドラが近づいてくる。

 隣にはエレンドラに似た真っ赤なドレスを着た女性がいる。

 あの人が母親なんだろうか。

 まるで美魔女と言われていそうな見た目だ。


「あらあら、エレンドラの恋人はあなたに似てなくて可愛らしいわね」

「ふふふ、エルネスト似だから仕方ないのよ」


 母が近づくと、二人の瞳の奥には火花が散っている。

 二人の間に、昔の記憶がよみがえるような気まずい空気が漂う。

 それにしても、エレンドラは俺のことを恋人として話しているのだろうか。


「お母様、やめてちょうだい。今日はお祝いの日なのよ!」


 エレンドラはその場の空気を感じ取り、自身の母に注意を促す。


「そうよね。あなたと私の〝戦い〟の再開日というわけでもないしね。ふふふ」


 その言葉に、父は一瞬表情を硬くした。

 その様子を見て、イグニスは楽しそうに笑っている。


「学園時代、二人は恋敵だったんだ。見てみろ、エルネストがタジタジしてるぞ」


 父は慌てて二人を仲裁しようと声をかけていたが、相手にされていないようだ。

 普段は鬼のように怖い父が、今やただの気の毒な男性に見えてくる。

 どこの世界にいっても、女性の方が強いのだろう。


「もう私達だけでも先に行きましょう!」


 エレンドラは俺の腕を掴み、王城へ引っ張っていく。

 ただ、隣から痛いほど視線が向けられる。


「俺は娘を嫁がせることは許さんぞ!」


 ああ、父を見て楽しんでいた人もめんどくさい人だったな。

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