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93.薬師、処刑ルートに首を突っ込む

「うっ……」


 目が覚めたが、体が思うように動かない。

 金縛り……いや、ノクスやステラがしがみついて離れないせいだ。

 初めの頃は驚いたが、今ではすっかり慣れてしまった。

 はずだったのに……今日は妙に体が震える。

 これが本物の金縛りってやつか。


「ぐへへへへ、やっぱり子どもの寝顔はかわいいな」


 恐る恐る声がする方に視線を向けると、そこには酔っ払っている父が椅子に座っていた。

 片手に酒瓶を持ったまま、ずっと俺達の方を見ている。

 だから、体が震えていたのだろう。

 あのまま酒瓶で俺達を殴るつもりだろうか。

 チラッと脳内に思いつく姿はサイコパスだが、父の姿は普段と違っていた。


「頼りない父ですまないな……。わしがお前達に冷たくしたばかりに……不甲斐ない」


 ポタポタと垂れてくる涙を手で拭っている。

 酒を飲んで酔っ払っているのだろう。

 メディスンの記憶の中でも、そんな父の姿を見たことはなかった。


「まったく、あいつらに怒られちまったよ……。メディスンが領主になるべきだったのに、部屋にこもってるからやりたくないのかと思ってな……。悩んだ末にノクスを選んだが……これで良かったんだろうな」


 昔からの友達に会って何か考えさせられることがあったのだろうか。

 父なりに俺を領主にするか迷っていたのを知らなかった。

 今なら俺に戦う力がなくても、回復薬で領地を発展させることはできるからな。

 ただ、俺は領主をやるつもりはない。

 本来は今の聖女のように堕落した生活がしたい。

 こっちに来てからも前世の社畜が抜けなくて、いくら働いても今の方が楽に感じるくらいだ。

 それにノクスをサポートするのも、兄の役目だからな。


「追々はコンラッドを引き継いで宰相って話も――」

「それは嫌です!」


 あまりにも不吉な言葉が聞こえてきて、つい言葉を発してしまった。

 宰相ってあのハムスターのような次期国王のエドワードを支える立場ってことだろ。

 絶対にやるつもりはない。


「あぁ、メディスン起こしちゃったな」


 父は俺に近づいて腕を上げた。

 やはり酒瓶で俺の頭を殴るつもりだろうか。

 咄嗟に目をつぶる。

――カタン

 酒瓶を机に置く音が響く。

 どうやら父は酒瓶を机に置いただけのようだ。


 その手で俺の頭を優しく撫でる。

 まるで俺のことを大事に思っているかのような心地良さを感じる。

 さっきまで目は冴えていたのに、自然と眠気が襲ってくる。


「わしが領地とお前達を守るからな……」


 精神魔法の影響もあるかもしれない。

 だが、なぜかその言葉だけは父の本音のように感じた。



 翌日、目を覚ますと父の姿はなかった。

 やはりあの時の会話は夢だったのだろうか。


「兄さんが早起きって珍しいね」

「わるいことがおきりゅかな?」


 ノクスとステラは俺を何だと思っているのだろうか。

 俺だってたまには一人で起きられるんだからな。

 ただ、それを威張っても二人に言い返されそうだ。


「私の可愛い子ども達は起きたかしら」


 そんなことを思っていたら、嬉しそうに母が部屋に入ってきた。

 何か嬉しいことがあったのだろうか。


「母――」


 「母様」と呼ぼうとした瞬間に、背後に真っ黒な炎が目に入った。

 俺だけが見える幻なんだろうか。


「ママ、こんな朝からどうしたの?」

「ふふふ、なんと明日は、可愛い我が子の宮廷薬師の任命式が開かれるんです」

「宮廷薬師の任命式ですか?」


 誰か薬師ギルドから宮廷薬師にでもなるのだろうか。

 俺が屋敷で働いている時にも、宮廷薬師の話はどこからか聞こえてはいたが、薬師ギルドが俺に対する対抗手段にでもしたいのだろう。


「ええ、あなたが宮廷薬師に任命されてるのよ」

「ふぇ……?」

「だから、あなたが宮廷薬師なのよ! あっ、他にもルーカスちゃんやリシアちゃんもよ」

「うえええええええ!」


 俺の声が部屋に響く。

 寝起きなのに思ったよりも大きな声が出てしまったようだ。


「なぜ、俺が宮廷薬師なんですか?」


 寝起きなのもあり、俺の頭は全く理解していない。


「えっ……兄さん、そのために王城で花粉症ってやつの薬を配っていたんでしょ?」

「うん、しゅてらもそうやってきいてりゅ」

「ふぇ……?」


 どうやら、コンラッドが言っていた「保護のために必要な行為」とは、単に薬を配って存在を知らしめることではなく、貴族を使って宮廷薬師としての適性を判断することだったらしい。

 俺はそんなことも知らずに、貴族に花粉症の薬を渡していた。

 まさかかなり年下の弟妹達が気づいていたのに、俺が気づいていなかったとはな……。

 宮廷薬師になることよりも、むしろそっちのほうが悲しくなりそうだ。


「ひょっとして、俺にくっついていたのも……」


 ノクスとステラを見ると、少し寂しそうな顔をしていた。

 ここ最近、俺にくっついていたのは宮廷薬師になったら、俺と離れると思っていたのだろう。


「俺は二人から離れるつもりはないからな!」


 俺はノクスとステラを強く抱きしめる。

 こんな可愛い弟妹達から離れるなんて考えられない。


「兄さん、僕は一人で大丈夫だよ!」

「しゅてらも、おにいしゃまばなれしゅるの!」

「うっ……」


 まさか弟妹達から「兄さん卒業宣言」をされるとは思いもしなかった。

 この世界に来て、二人は俺の心の支えでもあった。

 それなのに離れられたら、俺はこの世界でやっていけるのだろうか。

 いや、無理だな。

 癒しもなければ、味方もいない。


「よし、今すぐに宮廷薬師を断ってくる! それがダメなら王城を壊してくる」


 俺はすぐにウニョを製成する。

 あいつなら王城くらい壊せそうだからな。

 城がなくなれば、俺が宮廷薬師になることはない。


『ウニョオオオオオオオオオオオオオオ!』


 魔力をたっぷり使ったら、普段よりも禍々しいオーラを放つウニョが飛び出してきた。

 回復タブレットがあるから、さらに追加で魔力を送って強化もできる。

 これで準備はできた。


「兄さん、さすがにそれはだめだよ」

「おにいしゃまっておばか?」


 ノクスとステラは俺を止めようと近づくが、安心させるためにニヤリと微笑んだ。


「「ヒイイィィィ!?」」


 安心させたはずなのに、悲鳴に近い声が聞こえてきた。

 そんな声を二人から聞くのは久しぶりだな。


「ふへへへ、さすが私の可愛い子ども達ね」


 母は王城を破壊しようとする息子を見て、楽しそうに笑っていた。

 やはりこの人って頭のネジが抜けているな。

 俺がそのまま部屋から出ると、部屋の前には聖女が立っていた。


「私も呼ばれたけど……やっぱり裏ボスじゃーねか!」


 俺を見た途端に驚いていた。

 今の姿を見たら裏ボスだと思われても仕方ないだろう。

 禍々しいオーラを放つウニョが隣にいるからな。

 むしろウニョが裏ボスにでも見えているのだろう。


「そういえば、俺の下僕だって言ってたよな?」

「ああ、スキルがついに聖女になったからな!」


 どうやらスキルが覚醒して【聖女】になったようだ。

 さすが未来の勇者パーティー。

 聖女だってチヤホヤされていても、この前までは、本物の聖女ではなかったってことだな。


「今から王城を壊しにいく。ついて来い!」


 王城を壊したら、少なからず被害者は出るだろう。

 ただ、聖女がいればすぐに治療ができるから問題はない。


「えっ……えええええ! 俺、聖女になったのに次は犯罪者になるのか!?」

「大丈夫だ。俺は常に処刑ルートまっしぐらだからな」


 犯罪者ぐらいなら問題ない。

 むしろ貴族を治療する聖女だから、犯罪者にはならないだろう。

 常に処刑ルートの道を歩く俺とは違う。


「兄さん、少し落ち着いたら? 王城を壊したら処刑だよ?」

「そんな、にいしゃまきりゃい!」

「へっ……」


 ノクスとステラの声に自然と頭が冷静になってくる。

 確かに王城を壊したら、処刑される可能性が高くなる。

 それなら俺はノクスとステラから離れることを選択しないといけないのか?


「ふわぁー、昨日は飲みすぎたな……」 


 二日酔いなのかどことなく顔色が悪い父が、あくびをしながら廊下を歩いていた。


「んっ? みんなして何か楽しそうなことでもするのか?」


 状況を飲み込めてないのか、父はニヤニヤとしながら近寄ってきた。

 本人は気づいていないだろうが、あの笑みを見るだけで背筋がゾクゾクとする。

 そんな中、珍しくノクスとステラは父に近づき、自ら抱きついていた。


「パパ、兄さんが王城を壊しにいくんだって!」

「パパもとめて!」


 まるで俺が悪いみたいな言い方だ。

 むしろ悪いのは俺を勝手に宮廷薬師にしようとした大人達だからな。

 保護してほしいとは頼んだけど、宮廷薬師になるとは言ってはいない。


「おっ、それはいいかもな! わしもメディスンを宰相にするって聞いた時は、少し王城を壊してきたぞ」


 父は準備運動がてら、大きく肩を振り回していた。

 まさかすでに王城を一部壊してきたとは……。

 ただ、それよりも宰相という言葉が気になった。

 まさか夢だと思っていたことが、現実だったとは思いもしなかった。


「宮廷薬師ならそのまま領地に居られるけど、宰相は無理だからな!」

「えっ……?」


 宮廷薬師になっても、領地には居られる。

 なら、ノクスとステラとずっと一緒だ。


「王城がなければ宰相にならずに済むだろ? よし、今すぐに壊しにいくぞ!」


 今すぐにでも王城を壊しに行きそうな父を俺は抱きしめて止める。

 宰相にならないように、考える時間はいくらでもあるからな。


「パパ、王城を壊したらダメですよ」


 このままでは俺達は家族全員で処刑ルートに向かっていたのかもしれない。

 王城を壊しにいくって言ったやつはだれだよ……。

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