92.父、悪友に会う ※エルネスト視点
「来たばかりなのにすまない……」
「別に大丈夫ですよ?」
「そうよ、子ども達は私が独り占めするわ」
「くっ……」
わしと離れて悲しそうな顔をする子ども達を置いて、すぐに王城へ向かう。
いや、悲しいのはわしの方か。
久しぶりに会った家族と一家団欒している時に、夜に話があるとコンラッドから呼び出されたのだ。
もちろんお世話になっているルミナス公爵家のゼクトも一緒にいる。
寡黙で何も話さない男も、今では立派な騎士団長を務めている。
「思ったよりも早く到着したな」
「それはメディスンのおかげだな」
わしはメディスンに助けられて今ここにいる。
オークの集団が領地を襲った時もそうだが、様々なことにメディスンが関わっている。
それは領地の襲撃を食い止めただけではなく、復興作業している時にも痛感した。
「まさか数日で住む場所が元に戻ったんだからな」
本来ならわしが王都に来ることはなかった。
それだけ領地はオーク達に荒らされていた。
だが、メディスンを慕う領民が寝ずに働いてくれたからだ。
メディスンお手製の回復薬を飲めば、寝ずにずっと動けるからな。
その後は、どこの家庭も子作りが盛んになったらしいが、オークの襲撃で命の危険を感じたのだろう。
領民が増えるのを領主としては大歓迎だ。
口を揃えて「メディスン教、バンザイ!」って言っていたのは、妊娠したのがわかったのだろうか。
それにわしも「エルネスト教、バンザイ!」と過去に言われていたから、親子揃って似ているな。
王城に着くと、すでに入り口には悪友達が待っていた。
「エルネストオオオオオオオ!」
飛び込んでくるやつをスッと避けて、わしは呼んだ張本人に近づく。
「コンラッド、要件はなんだ」
「来たばかりだろ!」
コンラッドは呆れた顔をしているが、わしは家族との時間を楽しみたいからな。
「話はお前の息子であるメディスンについてだ」
「よし、今すぐに話し合う」
わしはコンラッドに肩を組み、王城の中に入っていく。
メディスンのことについては、全てコンラッドに任せているからな。
確実にこの国の王よりは、コンラッドの方が助けになる。
「エルネスト、ひどいよ……」
さっき飛び込んできたのは、この国の国王フィリクだ。
今もしくしくと泣く演技をしながら、ちらちらとこちらの様子をうかがっている。
学園時代と変わらず、わしにべたべたとくっつき、後ろをちょこまかとついて回る。
「フィリク、鬱陶しい」
名前を呼ばれたフィリクは、両手を大きく上げた。
「エルネスト教、バンザイ!」
昔から変な教団のような名前を付けて喜んでいるのも、相変わらずだ。
エルネスト教と言っても、その教団にいるのは宰相のコンラッド、騎士団長のゼクト、魔法師団のイグニス、そして国王のフィリク。
わし達は学園で出会った悪友だ。
いつもふざけてばかりだったが、まさか国の重要な役職に就くようになるとは、あの頃は思いもしなかった。
爵位も全く異なるのに、なぜか自然と集まった悪友達に思わず口元が緩む。
「ぐへへへへ」
チラッと見ると、相変わらずフィリク以外はわしから離れていく。
「親子揃って似たような笑い方をしてるよな」
「親子?」
コンラッドは呆れた顔で近寄ってきた。
「メディスンもこの間、理不尽に文句を言ってくる貴族に対して、同じ笑い方をしていたぞ」
どうやら、優秀なメディスンがわしの笑い方に似ているらしい。
傍から見て親子に見えるってことは、わしにとってはこれほど嬉しいことはない。
ずっと立派な父親になれているのかと、悩んでいたからな。
それを思うと再び笑みが溢れそうだ。
さすがわしのことをよく知っているだけのことはある。
ただ、それよりも気になったことがあった。
「その貴族はどこのどいつだ? 今すぐ殺しにいくぞ」
「ちょちょ、エルネストは本当に殺しに行きそうだから言葉を選べよ!」
「そうだ」
イグニスとゼクトがすぐにわしを止める。
わしの大事な家族を傷つけるやつは許さないからな。
「問題ない。そいつのおかげで薬師ギルドと錬金術師ギルドが雪の病魔でパニックに陥っているからな」
「へっ……?」
わしの顔を見てコンラッドはニヤニヤと笑っていた。
雪の病魔はどれだけ強い人でも、命を脅かすものだ。
それなのにコンラッドは焦ることなく、嬉しそうに笑っている。
絶対に敵に回したらいけないのは、コンラッドだろう。
「メディスンが言うには、雪の病魔にすぐに気づいた時に対策をしていればもう少しは防げたらしいぞ。まぁ、そのおかげでメディスンは無事だったけどな」
「んっ? どういうことだ? メディスンに何かあったのか?」
「あー、エルネストには言っていなかったな。メディスンを宮廷薬師に任命することにした」
その言葉を聞いて、わしは崩れ落ちる。
わしはただコンラッドの強力でメディスンを保護して欲しいと頼んだだけだ。
誰もメディスンを〝宮廷薬師〟にしてとは頼んでいない。
「このままだと一生メディスンに会えないじゃないか! よし、わしも王都に住む。辺境地なんて守ってられるか!」
メディスンが王都に住むなら、領民全て連れて王都に引っ越すつもりだ。
きっとメディスンのことが好きな領民も許してくれるはず。
「なっ、ちょっとそれは――」
「いや、もう決めたことだからな!」
せっかく仲良くなったばかりのメディスンを離すわけない。
コンラッドもわしがそんなことを言うとは思ってもいなかったのだろう。
わしが子どもに厳しくしていたのを知っているからな。
宮廷薬師にさせるぐらいなら、領地に連れて帰って、屋敷に閉じ込めておこう。
元々メディスンは家にいる方が好きな子だからな。
「あれ? 僕が聞いたのはルクシード辺境地にいながら、宮廷薬師として回復薬を王族に卸すだけじゃないのかい?」
フィリクの言葉に王城から帰ろうとするわしは動きを止めた。
視線をコンラッドに向けると、再びニヤニヤと笑っている。
「コンラッドオオオオオオオ!」
「ははは、やっぱりエルネストは面白いな。ついでに宮廷薬師の任命式だけど、明後日にはやるつもりだぞ」
「はぁん!?」
あまりにも急な予定にわしも戸惑いを隠せない。
「両ギルドの活動が止まってる今がちょうどチャンスだからな! それにメディスンってずっと働かせても文句を言わないからな」
どうやら薬師ギルドや錬金術師ギルドが活動できない間に、メディスンの凄さを貴族達に広めていたらしい。
普通の貴族であれば、長期間働くのを嫌がるはずなのに、メディスンは不思議に思わないのか、普通に働いていた。
そのおかげかすぐにメディスンの噂は貴族達に広がって、両ギルドは邪魔をすることもできずに、うまいこと貴族達に実力が認められていた。
それにまだ両ギルドが活動できないタイミングで任命式をすることで、変な邪魔を入れないようにしているのだろう。
さすが一番知恵が周り、みんなに一目置かれていただけある。
「まぁ、メディスンの話はこれぐらいにして酒でも飲もうぜ。毎回陛下の相手をする大変さを聞いてくれよ」
わしはそのままコンラッドに連れて行かれ、酒を振る舞われた。
久々に会った悪友達との時間は充実した時間となったが、ほとんどが子ども達の自慢話だった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)