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89.薬師、色々と気づく

「よっ、メディスン!」

「殿下、またサボりですか……」

「この逞しくなった体を見てもらおうと思ってな!」


 あれから城に行くことが増え、エドワードに遭遇することが増えてきた。

 セリオスとエレンドラからは、「学園の同級生だから覚えているよね?」と言われたが全く覚えていない。

 ちなみに確認してみたが、俺の記憶にも、エドワードの記憶にもお互いに学園で話した記憶は全くなかった。

 だから、初めて会った時に、メディスンだと気づかなかったのだろう。

 それだけメディスンが部屋にこもって、実験をしていたってことだな。

 そして、セリオスとエレンドラからは、毎回エドワードと関わらないようにと言われている。


「今日も一人ですか?」


 いつも一人でいるところを見かけるが、友達はいないのだろうか。


「ああ、カインが雪の病魔にやられたらしくてな」

「カイン……。あぁーーーー!」


 大きく出た俺の声にエドワードは驚いてビクッとしていた。

 筋肉を鍛えても、小動物じみたリアクションは相変わらずだ。


「そんなに驚かなくても……」

「おっ……俺はびっくりしていないからな!」


 エドワードはムキッと腕を曲げてみせたが、鍛えた筋肉よりも頬を膨らませて怒っている姿のほうが目立っている。

 どう見ても怒ったハムスターだ。

 それにしても反応が独特だな……。

 まさか俺と同じぐらいの背丈で、見た目はイケメンなのに、可愛い系の勇者だったとは俺も思わなかった。


「カインさんってノクスフォード公爵家の長男ですよね?」

「メディスンはそんなことも忘れたのか?」


 セリオスやエレンドラがエドワードと関わらない方が良いって言っていた理由がやっとわかった。

 単にバカだからってわけではなく、薬師ギルドや錬金術師ギルドを管轄しているノクスフォード公爵家が身近にいるからだった。

 そんな人物がエドワードの近くにいるなら、尚更関わらない方が良さそうだ。


「雪の病魔がまた薬師ギルドに流行っているらしいからな。ちなみに俺は元気だぞ!」


 胸を張って威張っているが、バカは風邪をひかないって……言ったら怒られそうだな。

 ここ最近絡んでくるのは、カインがいないのが影響しているのだろう。

 次期国王なのもあり、相手からのよそよそしい反応に一人でいづらいのだろう。

 その姿を想像すると、さらに小動物感が増しているな……。


「あっ……ゼクトさ……」


 ちょうど良いタイミングでゼクトがやってきた。


「俺はサボってないからな!」


 エドワードと目が合うと、すぐに訓練に戻って行く。

 本当にあの人は何をしにきたのだろうか。


「何かありましたか?」

「……」


 いや、ここにも何をしにきたのかわからないやつがいた。

 ゼクトは俺をジーッと見つめているだけで、何も話そうとしない。

 本当に父の友人って変わった人ばかりだな。

 類は友を呼ぶってやつだろうか。


「あっ、今日父が王都に到着するそうですよ」


 オークに破壊された我が領地は、少しずつ復興を始め元に戻る目処が立ったのだろう。

 ある程度元に戻るまでは王都には来るなと言ってあるからな。

 それにしても思ったよりも早かったのは、それだけ領民のために急いだのだろう。


「ああ、聞いている。しばらくは一緒にいてもらうからな」


 父の話をすると少し表情が和らいだ。

 だが、その言い方だと俺達が人質のようにも聞こえてくる。

 その後は何も話すことがなかった俺は、ルミナス公爵家の屋敷に帰ることにした。

 一応会話をしようと試みたけど、何も返事がなく俺のメンタルでは無理だった。


 屋敷に戻ると、ノクスとステラが飛び込んでくる。


「兄さん、おかえり!」

「おにいしゃま!」


 ここ最近は可愛い弟妹達と遊ぶ時間がなく、寂しい思いをさせているからか、スキンシップが多くなった。


「んー、ただい……」


 二人を抱きしめようとしたが、自分達が抱きついて満足したのか、すぐに部屋に戻ってしまう。

 まるで帰りを待っていた猫のようだ。

 手を広げたままポツンと一人残された俺にルーカスが少しずつ近づいてくるが、すぐに何もなかったかのように腕を戻した。

 ルーカスからはクラウディーに似た何かを感じるからな。


 父達が到着するまでは時間があるため、俺は別の部屋にいる聖女に会いに行くことにした。

 あれから聖女を保釈して聖国に身元を引き渡すことになった。

 だが、すでに遅かったのか聖国の関係者は誰一人もいなくなっていた。

 詳しく聞くと、なんでも王都に滞在するお金もなく、聖国からは援助ができないため、先に違う教会でお金を工面してから迎えにくるらしい。

 簡単に言えば、自分の滞在費ぐらいはどうにかしろよって置いていかれたのだろう。

 だから路頭で聖女売りをしていた。

 そこで聖女という立場もあり、対応に困ったルミナス公爵家はそのまま屋敷に滞在させている。


「少しはどうにかする手段は思いついたのか?」

「ん? 何言ってんだ? こんな生活できるなら、俺はずっとここにいる気だぞ」


 目の前にいるやつは本当に聖女なんだろうか。

 前のような金色に輝く髪は霞み、ボサボサの状態になっている。

 体型だって細くてスタイルが良かったのに、今じゃかなりふくよかだ。


 聖女――いや、中身が男のそれは、横向きに寝転がり、片腕を枕にしながら甘ったるいカップケーキを片手にしていた。

 もう片方の手でクリームを雑に舐め取りながら、まるで他人事のように俺を見て笑っている。

 投げ出された足でもう片方の足を無造作にポリポリと掻いている。

 そのズボラな姿が、本当にあの聖女なのかと疑問に思ってしまう。

 きっとそう思っているのは俺だけではなく、ここの屋敷で働く人も思っているだろう。


「見た目は女性なんだから、その格好はないだろう」

「別にいいじゃないか。好きなものを食べられるのは幸せだぜ」


 こぼれたクリームを指で拭い、そのままぺろりと舐める。

 適当に寝返りを打った拍子に服がずり上がるが、露出されたお腹を本人はまったく気にしていない。

 俺はただ、ため息をつくしかなかった。

 中身が仕事もしておらず、部屋にこもっていたおじさんなら仕方がないのだろうか。


「今日、父が来るからこの間言っていた精神魔法を解呪してもらうからな」

「はぁーい!」


 ちゃんと聞いていたのか、力が入っていない手がぷらりと上がる。

 その姿に本当に任せても大丈夫なのかと思ってしまう。

 この世界には娯楽もないのに、ただ外を覗いて楽しいのだろうか。

 そんなことを思っていると、屋敷の中がバタバタとする音が聞こえてきた。

 きっと父が到着したのだろう。


「ほら、行くぞー!」

「はぁー、めんどくさいなー」


 聖女はさっきまでカップケーキを持っていた手で、頭を掻くと玄関に向かって歩き出した。

 頭からパラパラと雪のように落ちてくる白い粉を見て、全身がゾクッとした。

 すぐに手を放したが、俺の腕にはフケがついていた。


「ぐへっ……」


 つい乾いた笑みが出てしまう。

 あんな状態で両親に会っても大丈夫なんだろうか……。

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