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88.薬師、騎士を心配する

 俺はゼクトに案内されるまま、騎士団の倉庫に付いていく。


「いつもお世話になっています」

「……」


 とりあえず声をかけてみるが、何も返答はなかった。

 ルクシード辺境伯家の長男として、しっかりとお礼は伝えた方が良いだろう。

 屋敷でお世話になっているが、会ったこともないからな。


「魔物の討伐に協力していただき助かりました」

「……」


 やはり何も返答はないようだ。

 今度は話しやすい内容で声をかけてみよう。


「今日はいい天気ですね」

「……」


 天気の話をしたら誰でも話しやすいって田舎で学んだのに、全然通用しない。

 ここまで無視されたら、完全に嫌われているような気がする。

 セリオスや屋敷にいる従者には、かなりお世話になっているが、出ていくのも視野に入れた方が良さそうだな。


「なぜ殿下が騎士団の訓練に参加しているんですか?」

「……」


 さっきまで次期国王であるエドワードと話していたため、エドワードの話題を振ってみるがやはりダメだった。


 気づいた時には一方通行の会話は呆気なく終わり、目的の場所に着いてしまった。

 中には剣や鎧がいくつも置いてあり、部屋の半分はポーションで占められていた。

 ルーカスが作ったポーションが流通すれば、薄められた大量のポーションの数は減り、この部屋ももっと有意義に使えるだろう。

 いくつかポーションを納品すると、何か呪文を唱えて鍵を閉めた。


「これでやることはなくなったので帰りますね」


 俺は帰るために来た道を戻ろうしたら、突然ゼクトに腕を掴まれた。


「えっ……何ですか!?」


 状況を整理できないまま、俺はゼクトに引っ張られていく。

 ひょっとしてどこかに連れていくつもりだろうか。

 例えば、人目につかないところで、屋敷に帰れないほどボコボコにされたり……。

 さすがにそれはないよな。


 ゼクトはずっと目を逸らしているため、何を考えているのかわからない。

 ない……よね?

 きっと俺が笑わないようになるために、見習わないとといけないのはこういう人なんだろう。


 しばらく付いていくと、エドワードと会った場所まで戻ってきていた。

 「迷子になった」って言ったことを覚えていたのだろうか。


「ここからは一人で大丈夫なので……ありがとうございます」


 その場でゼクトにお礼を伝えて帰ることにした。


「あのー、いつまで……」


 ずっと俺の腕を掴んだまま放そうとしない。

 何か言ってもらったらわかりやすいが、無表情で視線を合わせようとしないから、尚更わからない。

 お礼もちゃんと伝えたはずだぞ?

 何が問題か考えていると、帰り道とは違う方向にゼクトは再び歩いていく。


「あっ……ちょっと……」


 もちろん俺の腕を持ったままだ。

 俺は仕方なく付いていくと、騎士団の訓練場に着いていた。

 そこでは剣の素振りをしている騎士達が多く集まっていた。


 ゼクトはあるところに指をさすと、そこにはエドワードがいた。

 周囲は普通の制服を着ているが、エドワードだけ鎧を着ていてすぐにみつけやすかった。

 考えてみたら騎士が鎧を着て訓練するのも、実戦形式でなければ珍しい。

 そこで騎士ではないかもしれないと違和感を覚えるべきだったな。


「おっ! 俺を見に……」


 エドワードは俺に気づき手を振っていたが、隣にいるゼクトが目に入ったのだろう。

 すぐに剣の素振りに戻った。


「ひょっとしてさっきの質問の答えですか?」

「ああ、身を守る手段は必要だからな」

「しゃべった!?」


 まさかその場に来て説明するとは思いもしなかった。

 何かそれ以上の説明があるのかと思ったら何もなく、エドワードが素振りをしているのを見せたかったらしい。

 ただ、訓練場に来てわかったことがあった。


「みんな細いな……」


 王都に勤めている騎士団であれば、ガタイが良く、マッチョな騎士が多いと思っていた。

 だが、蓋を開ければ細身のイケメンばかりで、実力があるのか気になってしまう。

 辺境地である我が領地の騎士の方がゴリゴリマッチョで強そうだ。

 クラウディーですら、ゴリラまでとは言わないがガタイが良い。


「貴族が多いからな」

「あっ……そこは普通に話すんですね」


 さっきまで黙っていたゼクトは普通に話しだした。

 ここにいるのはほとんどが近衛騎士団で貴族出身が多いらしい。

 だからこそエドワードが混ざって訓練できるのかもしれない。

 貴族ではないものが混ざっていたら、エドワードに何をしでかすかわからないからな。

 まぁ、貴族の俺ですら殿下と気づいていなかったからね。


「よかったら練習後に騎士達に食べさせてください」


 俺は大量に製成したライフダブレットをゼクトに渡した。

 ゼクトも急に渡されて、何かわからず黙っている。

 何か話すのかと待っていたが、何も言葉を発しなかった。

 いや、ゼクトは元々寡黙な男だったな。


「これを訓練後に一粒飲ませてください。疲れも取れますし、体も大きくなるので強くなると思います」


 俺が思いついたのは勝手に〝騎士達の体格改善プロジェクト〟だ。

 近衛騎士団となれば国王やエドワードを守る存在だろう。

 そんなやつらがヒョロヒョロのひ弱だと、心配になってしまう。

 王城では貴族派もいるため、安全を考慮してルーカスのポーションだけを卸す予定だった。

 だが、この現状を見たらそれどころではないだろう。


「用量・用法は守ってくださいね。飲みすぎると本人が大変なので!」


 多く飲みすぎなければ筋疲労の回復が早くなり、筋肥大もしやすいだろう。

 ついでに筋肉増強のお助けアイテムでもあるプロテインタブレットも渡しておいた。

 かなり細分化して分解できるようになったことで、作れるようになったものだ。

 中身はタンパク質と必須アミノ酸を組み合わせて作っている。

 肉をたくさん食べられる環境かどうかもわからないしね。


「本当に用法・用量だけは守ってくださいね!」


 しっかりと注意だけして俺は帰ることにした。

 飲みすぎて元気になり過ぎたら、城で働く人達が大変だからな。

新シリーズの書籍発売が決まりました!

また、後日こちらでも報告させていただきます

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