87.薬師、絡まれる
「これで終わりですかね?」
「並んでいる人もいないから、一旦終わりで問題ないかな」
長蛇の列はいつのまにかなくなっていた。
雪の病魔疑いの人が来てからは、文句を言ってくる貴族はおらず、順調に薬を渡すことができた。
中には貴族派と呼ばれている人達もいたが、コンラッドに渡した薬の効果が効いてきたのもあり、それを見てすぐに薬を求めてきた。
いつも花粉症で悩んでいたコンラッドの姿が宣伝効果になったのだろう。
「次は騎士団でしたっけ?」
「あっちにはルミナス公爵家のゼクトがいる」
次はルーカスとリシアが作ったポーションを騎士団に卸すことになっている。
二人は元貧困街出身なのもあり、俺が代わりに持って行くことになった。
ただ、ルミナス公爵家にお世話になっているのに、セリオスの父で騎士団長のゼクトにあまり会ったことがない。
この間の謁見で見たのが初めてだ。
コンラッドに言われた通りに、騎士団がいるところへ向かっていく。
騎士団は城から繋がっている別の建物に滞在している。
基本的にはそこが本部となり、何かあった時は騎士が一斉に本部へ集まっている。
王族を守る近衛騎士団、王都を守る王都騎士団、王国を守る王国軍騎士団がある。
ちなみに魔法師団は近衛魔法師団と王国軍魔法師団に所属する。
その中でセリオスとエレンドラは見習いのような役割だ。
セリオスがルクシード辺境地に来たのは、見習いから近衛騎士団に所属する試験のようなものらしい。
だから、ゲームの中ではあれだけの魔物を討伐できなかったのかもしれない。
オークが出てくるなんて予想外だったもんな。
騎士団本部に近づくと、訓練をしているのか声が響いている。
毎日見習いの騎士達と体力作りをしたのが懐かしく感じる。
今では多少走っても息切れは減ってきたからな。
「おい、お前! ここは貧弱なやつがくるところじゃないぞ!」
そんなことを思っていると、突然声をかけられた。
目の前には煌びやかな鎧を着けている男が立っていた。
クラウディーに初めて会った時も思ったが、騎士ってぶっきらぼうなやつが多いのだろうか。
それに見た目からして、貴族なのも関係しているのだろう。
きっと訓練の声が近くで聞こえるってことは、騎士団本部は少し違うところにあるのかもしれない。
ここは如何にも迷っている感を醸し出して、その場から逃れることにした。
「すみません、騎士団本部に用があって伺ったんですが、迷ってしま――」
「よし、俺が連れて行こう!」
なぜか騎士は強引に俺の肩を組んで引っ張っていく。
やはり騎士は強引なやつばかりだな。
それにしてもどこかで見たことある顔だが、全く思い出せない。
「んっ? そんなに俺の顔を見て……ははは、そんなに俺のことが好きなのか?」
やっぱり騎士はバカの集まりだな。
むしろ今は俺よりも騎士の方がジーッとみつめている。
「いや、全く興味ないです」
「くっ……ははは! お前面白いな!」
騎士は俺の背中をバシバシと叩いてくる。
ついその衝撃で体がふらついてしまった。
やはりまだまだ鍛え足りなかったのだろう。
その後も何が面白いのか全くわからないまま無駄に絡まれていると、突然立ち止まった。
目的地に着いたのだろうか。
「この先を行くと騎士団長の部屋があるからな。じゃあ、俺は戻るぞ」
この先に行きたくないのか、すぐに体の向きを変えて帰っていく。
いくら頭がおかしくても、貴族ならお礼は言った方が良いだろう。
「ありがとうござい……」
「殿下、こんなところで何をしているんですか?」
後ろから声が聞こえたと思ったら、そこにはセリオスの父である騎士団長のゼクトがいた。
「やばっ!?」
騎士はすぐに逃げようとするが、ゼクトの動きは速かった。
すぐに騎士はゼクトに捕まっていた。
ただ、それよりも気になった言葉が聞こえてきたような気がする……。
「殿下ですか?」
俺は二人にゆっくりと近づく。
今でも「殿下」と呼ばれていた騎士は逃げようとジタバタしている。
「はい。逃げようとしているこの方は次期国王にあたるエドワード様です」
「うえええええええ!?」
驚きのあまり俺はその場で声を上げてしまった。
それを見た殿下は胸を張ってニヤリと笑った。
ただ、いまだにゼクトが殿下を逃さないように掴んでいる。
「俺が次期国王のエドワードだ。全く気づかなかったから面白かったぞ」
その辺に騎士のような格好をした殿下が歩いているとは誰も思わないだろう。
今なら俺が見たことあるような気がしたのも納得できる。
不敬罪で何か罪に問われるのかと思ったが、殿下は特に気にしていないのか、ゼクトから逃げることだけ考えている。
「なぜ殿下がいるんですか?」
「ああ、俺は訓練をサボって……」
ゼクトの問いに殿下は咄嗟に答えるが、すぐに気づいたのか自分の口を手で覆った。
今頃そんなことをしても遅い。
どうせ訓練をサボっている時に俺を見つけて、ここに案内したのだろう。
「また訓練をサボってたんですね。では、私が直接お相手させていただきます」
「ヒィ!?」
明らかに殿下はゼクトにビビっているのだろう。
俺に助けを求めるかのように、チラチラと視線を送ってくる。
これでも一応この国の次期国王だもんな……。
「あのー、迷子になっていたので声をかけて、ここまで送っていただきました」
「そうだぞ! 俺が送ってきたんだからな!」
ここまで送ってもらったのは間違いではない。
でも、勝手に声をかけてきたあげく、付いてきて絡んできたのは殿下だからな。
ゼクトにジーッと見られて、小動物みたいになっている殿下を見ていると国王そっくりだ。
あの人もどこか小動物感を否めない。
将来はゲームの主人公通りであれば、勇者になる予定だけど本当に大丈夫なんだろうか。
魔王が攻めてきても、一瞬でやられそうな気がする。
そして、これで全ての勇者パーティーに出会ったことになる。
「殿下、訓練に戻ってください」
「わっ……わかったよ! じゃあ、また今度な!」
それだけ言い残して、殿下は走ってこの場から逃げていく。
「はぁー」
ゼクトも殿下に振り回されているのだろう。
大きくため息をついていた。
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