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81.薬師、国王に謁見する

「メディスン様、ぼーっとされてどうしたんですか?」

「あー、ちょっと考えごとをしていてね」


 ラナに謁見のための準備を手伝ってもらうが、昨日の出来事が衝撃すぎて頭から離れない。

 聖女がまさかの転生者だった。

 同じゲームをやっていた人が存在するってことは、処刑ルートを回避する方法を一人で模索しなくて済むってことだ。

 しかし、追加コンテンツという言葉が聞こえたが、あのゲームに追加コンテンツがあったのだろうか。

 ひょっとしたら、俺が先に転生している可能性は捨てきれない。

 俺の知らない物語りがあるとしたら、その先は知らないことになる。

 そもそもの時間軸が同じなのかもわからない。


「ひょっとしたら結婚式のことを考えているのかしら?」


 振り返ると、準備を終えたエレンドラがいた。

 綺麗なワンピースに金の刺繍や宝石が散りばめてある装いをしている。


「綺麗だな」


 きっとウエディングドレスを着ても似合っているだろう。


「なっ……なななななそんなことあるわけないでしょ!?」


 端正な顔立ちで服装も似合っていると感想を述べただけだが、エレンドラは顔を赤く染めて、部屋から出て行ってしまった。


「さすが無自覚だな」

「それはセリオスじゃないか?」


 バレエダンサーのような服装をしているセリオスほど、無自覚に惚れさせている人はいないだろう。

 あんな服装が似合う人なんて、どう考えても珍しい。


「兄さんもかっこいいよ!」

「じまんのおにいしゃまだね!」


 俺が落ち込まないようにフォローしてくれるノクスとステラは自慢の弟妹だ。

 むしろ兄より優秀な子達だ。


「ちゃんとお留守番しててね」


 ノクスとステラの頭を優しく撫でる。

 今日はセリオスとエレンドラも付いていくことになっている。

 さすがに公爵家二人の力を使って、謁見を申し込んでいるため、二人がいないと怪しまれるだろう。

 それに俺だけだと、話すら聞いてもらえない可能性もある。

 それだけこの世界の国王って怖いからな。


「よし、いくぞ!」


 これがうまくいけば、俺達の命は保障されるだろう。

 命懸けのチャンスに俺達は気合を入れ直した。

 ルーカスと共に昨晩から大量に製成した回復薬を持ち、王都の奥にある王城へ向かうことにした。


「さすが国王がいるだけのことはあるな……」


 いざ、王城を目の前にしたら、少し緊張してきた。

 明らかに俺達だけ服装が異なるため、視線が集まってくる。

 案内されるがまま付いていくと、大きな扉の前に立たされた。

 合図があるまでしばらく待機するらしい。


「謁見の挨拶はさっき教えた通りすれば問題ないわ」

「ああ……」

「メディスンが緊張しているって珍しいな」


 俺やルーカスは緊張して、今にも吐きそうな顔をしているが、女性陣はどこか平気そうだ。

 精神的に女性の方が強いのは、どこの世界も同じなんだろう。


「では、ご準備ができましたので、失礼ないようお気をつけください」


 扉が開くと、広々とした謁見の間が現れた。

 足元に敷かれた絨毯は吸い込まれるように王のもとへと続き、壁際には近衛兵が静かに控えている。

 側近の冷ややかな視線を受けながら、一歩ずつ進むたびに緊張が募っていく。

 空気の重みが増していくのを感じる。

 王は堂々と玉座に腰掛け、冷静な眼差しでこちらを見下ろしている。

 やがて玉座の前で膝をつき、深く頭を垂れた。     

 誰もが王の言葉を待っているのだろう。

 息をする音だけが聞こえてくる。


「余の前に進み出たる者よ、名を名乗り、要件を述べよ」


 王の威厳に満ちた声が広間に響き渡る。

 それでも、普段から怖い父の存在を知っているため、父と会う時よりは緊張感はない。

 顔も父より優しく温かみがある。

 俺の父は鬼のような顔にそっくりだからな。

 俺は大きく息を吸って名乗る。


「はっ。ルクシード辺境伯家の長男メディスンと申します。陛下に拝謁の機会を賜り、誠に光栄に存じます。本日は――」

「国王様、私から一つ先にお願いごとをお聞きしていただいてもよろしいでしょうか」


 割り込むようにエレンドラの声が響いた。

 王の前で堂々と発言を遮るエレンドラに、場の空気が一瞬凍りつく。

 あれだけ話を遮らないようにと、俺に言っていたはずなのに……。

 明らかにローブを着た赤髪の側近が、眉を顰めてため息をついている。

 きっとエレンドラの父親だろう。

 代々魔法使いを輩出している名家なら、父が国王の側近にいてもおかしくない。


「ウィズロー公爵の長女エレンドラよ。すぐに申せ!」

「ありがとうございます」


 エレンドラはお礼を伝えると、魔法を起動させた。

 その行動に気づいたものは、すぐに警戒を強める。

 その中にはエレンドラの父もいた。


「念の為に防音魔法をかけさせていただきました」

「ほう、それで?」

「今から隣にいるルクシード辺境伯家のメディスンが話すことを他言無用でお願いいたします」


 エレンドラは臆することなく、国王に頼み込む。

 きっと今から話すことを他の人に聞かせてはいけないと思ったのだろう。

 特に薬師ギルドと錬金術師ギルドと関わっている人がいるのなら尚更だ。


「おい、エレンドラ! 国王様、我が娘が申し訳あり――」

「いや、気にすることではない。では、護衛を含む他のものはその場から立ち去れ!」

「あっ、お父様やルミナス公爵家当主様、その他――」


 エレンドラは安全の面も踏まえて、一部の人間を残すように伝えた。

 自分達が危ない存在ではないことを伝えることは必要だからな。

 今後関わるであろうセリオスやエレンドラの父親以外に宰相を含めて数人がその場に残った。

 今からすることに父親達は内心ドキドキしているのだろう。

 二人に聞いた時も、まだ両親には今回の問題は伝えていないと言っていた。


 場が整ったら次は俺の出番だろう。

 俺は息を吐き切ると、大きく息を吸って気合を入れる。


「ぐへっ……」


 あまりにも息を吸いすぎて、少し笑ってしまった。

 そのおかげで体の力は抜けたが、周囲の警戒が一段と強くなったような気がした。

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