80.薬師、全裸の男になる ※一部聖女視点
「メディスン様、ぜひ僕の服を着てください!」
全裸で立ち尽くす俺にルーカスは自身が着ていた服を差し出してきた。
「いや、さすがに……」
「そうだ。メディスン様は私のパンツがいいと言っている。しっかり温めておきました!」
「ヒィ!?」
どこからかクレイディーが現れると同時に、手にはシワシワになったパンツが握られていた。
明らかに今さっき路地裏で脱いできましたと言わんばかりにクレイディーは、誇らしげにパンツを握らせようとしてくる。
「メディスン様、お忘れですか?」
「ななな、なんだ……よ?」
「今全裸ですよ。王都でも変態のお兄ちゃんと呼ばれたいんですか?」
これは明らかに俺を脅しているだろ。
だが、俺はクレイディーが今さっき脱いだばかりのパンツなんて履きたくない。
「なら、僕のパンツ――」
「おい、ルーカスもパンツを脱ごうとするな! お前は服を着ろ!」
「服を着たらパンツは履かなくても――」
「俺は履かないぞ!」
ルーカスは変態と呼ばれたいのだろうか。
俺に対して憧れを持っていても、さすがに変態と呼ばれる後輩の姿を見ていられない。
それに変なやつらのパンツを履くという選択肢は俺にない。
「うわー、あいつ裏ボスどころか露出狂かよ」
「さすがにあれはないよな……」
「やっぱり婚約するのをやめようかしら」
だが、その選択肢を間違えた気がする。
さっきまで逃げ回っていたエレンドラ達ですら、足を止めて聖女と一緒になってこっちを見つめてくる。
もとの原因を作ったのは俺を露出狂呼ばわりしている聖女だからな。
「俺は先に帰るぞ!」
『ウニョ!』
俺が動くと同時にウニョがくっついてくるから、大事なところはしっかり隠れているため問題ない。
毒をモザイクとして使う時が来るとは思いもしなかった。
これが正しい毒の使い方だ。
それにしても、服は溶けるのに俺が溶けないのは何か理由があるのだろうか。
体は主人として認識しているが、服は主人ではないと思ってるなら尚更タチが悪いな。
俺に服がいらないとでも思っているのだろうか。
馬車に乗って俺達は屋敷に戻ることにした。
ちなみに生尻で馬車の席に座るのは失礼だと思い、ウニョをお尻に敷いた。
隣でルーカスがウニョのことを羨ましそうに見ていたが、知らないふりをしておこう。
♢
「しばらくはここにいてもらうからな」
「チッ……お前が事情聴取するのかよ……」
「警備隊に連れて行かれるよりはよかっただろ?」
捕まった私……いや、俺は小さな部屋に連れて行かれた。
推し達を襲った容疑で、一旦ルミナス公爵家で確保されることになった。
「聖国の聖女があそこで何をしていたんだ?」
「聖女はいかがですかー? 聖女は……ってな感じで金を稼いでいたんだよ」
俺の推し部屋……いや、推し教会が潰れてから、しばらくの間は路頭に迷っていた。
路頭に迷うのは初めてじゃないからな。
聖女になる前もこうやって聖国でお金を稼いでいた。
決してやましいことをしているわけではない。
「聖女ってそんなに金がないのか?」
「聖女と言っても、聖国のただの飾りもの扱いだ」
簡単に言えば、ただの広告塔のようなもの。
それなのに聖女に入ってくるお金はわずかしかない。
それで俺は癒しの推し教会を作ったのに、すぐに壊れてしまった。
全ては目の前にいるラスボスが笑ったからな。
自身の笑みに無属性の固定ダメージがあるのを知らないのだろうか。
「なんかブラック企業みたいだな」
「わかってくれるか? 俺もせっかく聖女になったのに、こんなに大変だとは思わなかった」
「「はぁー、お互い大変だよな……」」
メディスンは俺の方を見てため息をついていた。
前世でこの世界のゲームをプレイしている俺にしたら、メディスンの大変さは知っている。
メディスンの人生が明らかになったのは、ゲームのクリア後に発売された追加コンテンツだ。
メディスンは裏ボスとして、再登場することになっている。
それも魔王の意思を受け継いで、世界を滅ぼそうとするぐらい圧倒的に強かった。
その片鱗をさっき見た触手を生やした謎の生物が物語っていた。
あいつが本当に厄介だったからな。
名前はないのに、状態付与と毎回三回行動というわけのわからない動きをしていたっけ。
結局はメディスンを攻撃していくと、主人を守って死んでいく健気な手下って感じだったな……。
「とりあえず、聖国と連絡が取れるまでは、ルミナス公爵家が身柄を預かることになっているからな」
「えっ……? 推しと住めるのか!?」
今日だけここにいると思っていたが、しばらくは推しと同じ建物に居られるらしい。
それだけで心のあれが収まらない。
「いや、一緒に住めるわけ……ってか推しってこの世界だとどういう意味があるのか?」
うん?
今まで俺の言葉を気にかけるやつは誰一人いなかった。
「推しって人に薦めたいと思うほど好感を持っている人のことだな」
「ほぉー、そのままの意味か」
ゲームの時と異なる現状に違和感を覚えていたが、やはりメディスンも転生者なんだろう。
「ちなみに俺は転生者だけど、すでに気づいて――」
「なあーーーーにぃーーー!?」
メディスンは驚いて、その場で崩れるように倒れ込んだ。
おいおい、俺が転生者だって今頃気づいたのかよ。
あれだけ百合とかTSとか、この世界で聞きなれない言葉を発していたのに、気づかなかったのか?
「メディスンはどこまでこの世界を知っているんだ?」
「一応ゲームは最後までプレイしたぞ!」
「なら追加コンテンツも……?」
追加コンテンツと言えば、セリオスとエレンドラの話だろう。
本編の時は二人が付き合ってるのかと思うぐらい仲の良い描写があった。
だが、追加コンテンツでセリオスが女性だったって発表された時はSNSが荒れまくったからな。
急に一番人気の男性キャラクターが女性キャラクターだったって公式が発表したら、荒れるのは当たり前だ。
だが、それを逆手にとったのか、男性ゲーマー達まで虜にしていたのは初めから公式の作戦だったのだろう。
ちなみに聖女の過酷な生い立ち話の追加コンテンツもあったが、話題にもならなかった。
実際に経験してみたけど、本当に過酷だったわ……。
「追加コンテンツ? そんなのあったのか?」
メディスンの言葉に俺はニヤリと笑った。
きっとメディスンは追加コンテンツをする前にやめたタイプか先に転生したのか、どちらかだろう。
追加コンテンツを知らなければ、この世界の知らない情報は山ほどある。
未来を百合ワールドに変えることができるかもしれない。
それを目の前にいる裏ボスのメディスンが証明してくれた。
だって、ここまでメディスンがセリオスやエレンドラと仲が良いとは思いもしなかったからな。
「いや、気にしないでくれ。違うゲームと勘違いしていた」
「そうか……。でも、協力者がいて助かった」
「ああ、俺も同じ気持ちだ」
俺はメディスンと固く握手をする。
「ぐへへへへ」
「ぐはははは」
ははは、同じ転生者をできるだけ使ってやろう。
だが、メディスンの笑い方を見て、本当にうまく利用できるのか不安に思った。
俺の心のあれがショボーンってするほど、メディスンの笑い方は気持ち悪かった。
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